本邦老人施設:肺炎球菌ワクチンは肺炎球菌のワクチンであり、肺炎ワクチンではない!

NHKあたりが、ためしてガッテンなどで、外国の一流紙にも認められた”肺炎予防のためにワクチンを”などと放送するのではないかと恐れる。


これは、日本のナーシングホームということなので、老健施設だろうか?・・・23価肺炎球菌ワクチンの効果を検討したもので、結論は、23価肺炎球菌ワクチンは、肺炎球菌性肺炎を減少し、肺炎球菌性肺炎による死亡を減少したという・・・それはそれで結構なことだが・・・

Efficacy of 23-valent pneumococcal vaccine in preventing pneumonia and improving survival in nursing home residents: double blind, randomised and placebo controlled trial
Takaya Maruyama, Osamu Taguchi, Michael S Niederman, John Morser, Hiroyasu Kobayashi, Tetsu Kobayashi, Corina D'Alessandro-Gabazza, Sei Nakayama, Kimiaki Nishikubo, Takashi Noguchi, Yoshiyuki Takei, Esteban C Gabazza
BMJ 2010;340:c1004 (Published )


1006名のナーシングホームの住民をワクチン投与群(n=502)とプラセボ(n=504)にランダム割り付け

プライマリエンドポイントは、全原因肺炎と肺炎球菌性肺炎
セカンダリエンドポイントは肺炎球菌肺炎、全原因肺炎、他の理由による死亡

肺炎発生
ワクチン群  63(12.5%)
プラセボ群 104(20.6%)




肺炎球菌性肺炎診断

ワクチン群 14 (2.8%)
プラセボ群 37 (7.3%) (P<0.001)





全原因肺炎・肺炎球菌性肺炎は有意にワクチン群よりプラセボ群が多い;1000人年あたり頻度 55 vs 91(P<0.0006) 、 12 v 32 (P<0.001)


肺炎球菌死亡は有意にプラセボ群で高い(35.1% (13/37) v 0% (0/14), P<0.01)

ワクチン群の全原因肺炎死亡率 (vaccine group 20.6% (13/63) v placebo group 25.0% (26/104), P=0.5) 、他原因 (vaccine group 17.7% (89/502) v placebo group (80/504) 15.9%, P=0.4) は、研究対象群間の差がない。



・・・・で、これを肺炎のワクチンと呼ぶのはどうだろうか?

この結果を見て、肺炎球菌ワクチンはすばらしい、これで老人施設でのワクチン接種を義務づけすれば、老人は肺炎という苦労を背負い込まなくてもすむし、死亡率も下げる、医療費削減にもなるし、製薬会社はもうけるし万々歳・・・と思い込むのは早計!


萬有製薬の患者向けパンフレット(http://www.banyu.co.jp/pdf/content/hcp/productinfo/booklet/bl_pneumococcal_vaccine.pdf)をみると詭弁の論理が展開されている・・・

すなわち、
”肺炎は日本人の第4番目の死亡原因です”→”肺炎球菌の予防が大事です”・”肺炎で一番多い病原菌は肺炎球菌です”→「肺炎球菌ワクチン」を接種しておくと、肺炎の予防や、肺炎にかかっても各位症状ですむ効果が期待されます。



みごとなミスリーディングである。

上記論文では、”肺炎全体への肺炎球菌ワクチンの効果インパクトは、ナーシングホームで確認できなかった”.





これは、今までの報告でも、確認されていることであり、万有の詐欺的宣伝と言わざる得ない。


それと、ワクチンの肩を持つと、invasive pneumococcal diseaseの概念が日本国内で普及してないためだと思うが、その検討がこの論文で話されてない。そのため、このワクチンの効果に関して過小評価の可能性が存在することも付記する。

by internalmedicine | 2010-03-12 09:08 | 感染症  

<< 受診毎の収縮期血圧変動が卒中リ... 肝疾患におけるアルコールと肥満 >>