若年者胸痛患者の急性冠症候群の否定する根拠

40歳未満の胸痛患者の臨床的決定ルール・・・既往無し、心電図異常なし、採血異常なしなら急性冠症候群は否定してよろしい。ERとしては非常に大事な研究。

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Evaluation of a Clinical Decision Rule for Young Adult Patients with Chest Pain
http://www.aemj.org/cgi/content/abstract/12/1/26
Academic Emergency Medicine Volume 12, Number 1 26-31,
目的:心臓疾患の既往のない胸痛を訴える40歳未満の若い成人で、心臓疾患リスクの内場合and/or正常心電図(ECG)の場合急性冠症候群(ACS)、30日間の問題となる心血管イベントのリスクは1%未満であると考え、それを証明するための研究。

方法:24-39歳の心電図検査を受けた胸痛に対する前向きコホート研究


結果:
4492名の胸痛のうち1023がクライテリアに合致。多くは女性(61%)とアフリカ系アメリカ人(73%)

98%が30日フォローアップ可能。ACSと30日adverse CVイベントはそれぞれ5.4%と2.2%

心臓疾患既往と心臓リスク要因のない患者で、ACSリスクと30日adverse CVイベントは1.8%

心臓疾患なしで正常のECGの場合のリスクは1.3%
心臓疾患なしで、心血管リスクのない場合、そして心電図が正常の場合のリスクは1.0%


修正臨床決定ルールとして心臓疾患の既往のない場合、心血管リスクのない場合、正常心電図、正常の心臓マーカーの場合の若い患者では、、ACSのリスクはきわめて低く(0.14%)で、30間のadverse CV eventは存在しない。
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でも、逆に見れば、この修正ルールでも1000人1-2人程度が誤診を生み出します。ただ、この1-2名のため、入院を含むリスクを有する検査などがなされ、それによるリスクも生じるわけです。関連として、私のBlogで“医師は犯罪者、しかも良い医師ほど。 で、マスゴミの追求次第では数年で医師絶滅までもっていけます” http://intmed.exblog.jp/131263/ で、触れております。正当な臨床的意志決定がなされたときにその事後に関わる結果は公的救済がなされるべきであり、医師は訴追されるべきではないので


診断のdecision makingとしての診断前確率が重要です。治療効果まで考えた診断のdecision makingを行う必要性があります。“この検査をしてくれぇ”という患者さんや人間ドックとやらはこの診断前確率を無視した行為です。(“人間ドック”の非科学性)



少々、ベージアン・アプローチから見た診断・治療論を・・・・
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治療閾値
http://www.google.co.jp/search?q=%E6%B2%BB%E7%99%82%E9%96%BE%E5%80%A4&start=0&start=0&hl=ja&lr=lang_ja&ie=utf-8&oe=utf-8&client=firefox&rls=org.mozilla:ja-JP:official

正診・誤診と治療成功・不成功などの4つの組み合わせで考慮
http://www.merck.com/mrkshared/mmanual/figures/295fig3.jsp

そのとき、重要なのが有用性(Utility)の検討です


・メルクマニュアルから
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治療のbenefit/risk ratio (B/R) を用いて、治療閾値(TT:治療すべき閾値)を表現すると
TT=(1/(B/R+1)と表現
http://www.merck.com/mrkshared/mmanual/section21/chapter295/295g.jsp

例示:
皮膚化膿症(cellulitisを有する糖尿病患者)では治療閾値が非常に低く、B/Rが非常に大きい(0.2程度と推定)され、治療のbenefitの方がriskより非常に高い。
しかし、膵癌の化学療法のようなリスクに比べて治療のbenefitが大変小さい場合は、B/Rは非常に小さく治療閾値が高くなる。
もし、治療のbenefitがriskと同等なら(B/R=1)なら、治療閾値は0.5である。
冠動脈疾患を有し、心電図でMIの」既往のある患者で生命に関わる新規MIに合致した兆候のある場合、急性MIの臨床的尤度は高いはず。
MIの既往有りの場合、血栓溶解治療無しの死亡率は12%、、発症後4時間内で投与された場合死亡率は9%で、Bは3%。たとえば血栓溶解治療での頭蓋内出血の頻度を1%と仮定すると、B/R=3となる。故に治療閾値は急性心筋梗塞の可能性が25%を超えるとき治療すべきとなる。

注:あくまでも記載の数字などは例示です。
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・日本語のサイト
http://www.kdcnet.ac.jp/toukei/statistics/diagnosis/





今回の論文で、注意しなければならないのは、冒頭の論文の対象はERで、“死に至らなければ病気でない”というER独特の診療スタンスにたっているのであり、下記のような胸痛、肋軟骨炎やパニック障害に基づく胸痛などは除外されてしまいます。


・“肋軟骨炎を早期診断すれば急性胸痛による入院をへらせるか?”
http://intmed.exblog.jp/m2004-10-01/#1201695


・胸痛関連疾患
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胸痛とパニック障害
・過換気による、骨格筋による胸痛、肋間筋の持続的あるいはけいれん性の痛みを生じうる。不安急性発作による食道運動機能異常はよく知られた非心源性の胸痛の原因である。
加えて、痛みに対する生理学的反応と不安のオーバーラップが見られることが研究で判明している。そして不安を有する患者は痛みとしの経験として解釈してしまう。さらに、Fordyceらが指摘するごとく、抗不安作用を有する鎮痛剤(モルヒネや筋弛緩作用を有する薬剤)で改善した記憶があるなら、不安と関連した疼痛と考えられる。


・心臓のメカニズム
自律神経と過換気(アルカローシスによる)により冠血管けいれんで説明される

・微小血管虚血
小血管の虚血
Syndrome X(運動ストレステストで陽性、冠動脈は正常)の34%は過換気やメンタルな状態で影響をうける。胸痛は冠動脈の血流の減少と、微小血管の抵抗増加のためと考えられる。過換気・メンタルな状態は微小血管の緊張の増加を生じる。
http://www.psychiatrist.com/pcc/pccpdf/v04n02/v04n0203.pdf
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若年者の胸痛と診断・・・

by internalmedicine | 2005-01-08 12:09 | 動脈硬化/循環器  

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