身体的多愁訴患者 と 身体化障害 ・・・・他疾患?

初診患者で不定愁訴と決めつけることはなかなか困難だが、何らかの理由(主に慢性的な基礎疾患)により長期的に診察している患者で、引きもきらず不定愁訴を訴え続ける患者が存在し、その比率が高齢者・女性で多いことに気づく。

本人・家族に多愁訴であるという自覚のあるケースのある日の訴え:

1)1ヶ月前手術をして、眼がかゆい
2)20年前左踵痛あり、最近その上部が痛くなった
3)右下肢皮下紫斑がある・・・湿布などの貼付後及び貼付部位に一致した有痒性皮疹がある
4)上記皮疹とは別の部位である腓腹部の下肢静脈瘤をみせて最近ふくらんできているような気がするとの訴え
5)血の循環が悪いから、なんか薬がないのか・・・



この一見無関係な症状の羅列のよう思えるが・・・・・それぞれの訴えに関連性があることに気づく。


・視覚として入った情報による訴え:下肢に限局した訴え
・近時体験の訴え:術後フォロー中の眼科医に相談することになるであろう、訴えを当方に行うことは、訴えの閾値が低いことになる。
・4)→5)は自らの仮説の展開:下肢静脈瘤における血栓症を血行が悪いからという誤解に基づく治療要望への転換


すなわち、この患者の訴えは心気的というより、症状の意思への訴え閾値の低下が基本なのである。目に映ったもの、反射的に頭に浮かんだものを脈絡なくしゃべり続けていたにすぎないのである。


診療する側のから言えばまことに効率の悪い診療効率となるわけであり、日本の低医療費の中で、訴え閾値の低い患者さんの存在というのがいつかは日本でも問題になるだろうが、面接という診察行為が市民権を得てきた以上、今度はそれをサイエンティフィックに分析する診療科学が必要であろう。このような患者は、心療内科や精神科が・・・というより、プライマリケア医がかかわるべき分野なのだろうし、実際に、まちの開業医がこういう訴え閾値の低い人たちを診療の対象としているのであろう。

不定愁訴というのは、表面上脈絡がないため、聞き取る方にかなり忍耐力が必要となる。
訴えを遮ることの弊害というのが問題であるが、外来患者が込んでいたり、重症患者のクリティカルな状況が控えてたりすると気が気でなくなる。
系統的でないと医師が判断する3つ以上の訴えを不定愁訴と仮定義しておき、比較的余裕のある時期である先週から、外来患者比率で100例シークエンシャルに記録してみたら、3割程度であり、10以上訴えを揚げた患者も5名存在した。当方の外来での比率に偏りが無いと仮定すれば、開業医レベルでは不定愁訴の外来における比率というのは無視できないインパクトを持つはず・・



身体化障害という疾患がある。

あるレビューによると・・
“Somatization”は、1920年代、心理分析のWilhelm Stekelのドイツ語の誤訳からはじまり、1980年後、再び盛んに用いられるようになったらしい。・・・
DSM-IIIにて精神的診断用語として導入され、それ以降、文献研究が発展し、様々な入れ替えがなされた。中立的な意義付けや一部DSM分類の権威という力で、この言葉は、意味合いに変化が生じた。“ヒステリー”という古代的な言葉に置き換わるなら、改悪され?(pejorativelyに)用いられることとなった。他に“Briquite's syndrome”という言葉もsomatizationと同義語として用いた。
しかし、DSM-IVはこれらの診断名を捨てた。言葉の中立性という面では重要だが、ヒステリーという言葉の長い歴史は忘れてはならない、診断・治療に多くかかわってきたのだから・・・

身体的多愁訴(multiple physical complaints)を訴える患者となると・・・うつ症状との関連ということになるのだろう
睡眠障害(PPV 61%)、倦怠感(PPV 60%)、3つ以上の不定愁訴(PPV 56%)、非特異的に筋骨格筋症状(PPV 43%)、背部痛(PPV 39%)、息切れ(PPV 39%)、症状増幅(amplified complaints)(PPV 39%)、曖昧な状態の訴え(vaguely staed complaints)(PPV 37%)



a)機能的な身体的distress: Diagnostic Interview ScheduleのSomatic Symptome Index(SSI)測定
b)重篤な疾患の存在がないのに関わらず、自覚症状の程度の高いhypochondriasis(心気症)
c)主に現行のうつ・不安患者での臨床的な身体所見
という一過性の所見を含む概念から


身体化(somatization)は、DSM-IVでは、長期継続する疾患として限定的にこの疾患を用いるようになっている。

30歳代以前に多くの身体症状の病歴があり、数年以上継続している一群を呼ぶとのことで、一過性の不定愁訴は呼ばない
すくなくとも4つのクライテリアが合致しなければならない・・・
1)身体の少なくとも4カ所に関わる病歴、具体例としては頭痛、背部、関節痛、胸痛、腹痛、生理痛、性交時痛など
2)少なくとも2つのGI症状、吐き気、bloating、嘔吐、下痢、食物不耐
3)少なくとも一つの性的・生殖器症状の既往、性的興味の欠如、勃起・射精問題、不規則な生理期間、過剰な性器出血、妊娠中の嘔吐
4)少なくとも一つは神経学的所見に類似、筋力低下、麻痺、平行・coorination、けいれん、幻覚、触覚・視覚・聴覚・味覚・嗅覚消失、嚥下、会話、健忘、意識消失の問題、偽性の神経学的所見は"conversion"(転換)として知られている


このような厳格な身体化障害とは別なのか軽症例なのかわからないが、日本には“視覚・聴覚など感じたこと、頭に浮かんだことをすぐに医師に訴える”患者の一群が存在する。面接や心理的介入、薬物的介入が対象者のQOLなどを改善しているのかどうかは不明であるが、医療費や医療効率上へのインパクトを与えている可能性がある。

by internalmedicine | 2006-06-26 12:10 | 内科全般  

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