プライマリ・ケア医への患者の評価は正しくない

医療の質の複合的・多次元的なとらえ方というのがなされつつあった1980年代からの動きはアウトカム・ムーブメントがあり、患者の視点から医療を捉えることであった。
医療におけるパターナリズムからの脱却等という言葉とともに、患者主体の医療という標語の元、患者の要望・志向を受け入れることが、最優先すべき医療のベストアウトカムであるかごとく思われている時期があった。
同時期、世界各国とも同様な傾向であり、USなども患者レポートを医療プランの質の評価基準として用いているのである(Med Care. 2001 Dec;39(12):1313-25.)。イギリス・USで患者の一般医家への評価作業がなされている(Med Care. 1998 May;36(5):728-39.,Family Practice Vol. 17, No. 5, 372-379。多くの状況で検討され、一般医家評価の研究は一般医家評価質問指標((www.gpaq.info/と修正されている。

しかしながら、患者からの評価がカルテから得られたデータで評価したところのgood clinical practiceとほんとうに相関があるかどうか?


・・・それを調べた研究
     ↓
Patients' own assessments of quality of primary care compared with objective records based measures of technical quality of care: cross sectional study
BMJ 2006;333:19 (1 July)
一般医家への老人患者自身の技術的な医療技術の質の評価は、技術的な医療技術の測定とは密接な相関はない
横断的研究で、65歳の>3000名異常の一般医家への評価を行ったもの
患者自身の評価と客観的臨床行為記録の結果、モニターされた高血圧では0.22、コントロールされた高血圧では0.30、インフルエンザワクチンでは-0.05であった。



患者の主観的要望の達成のみが、ベストな医療であるという行き過ぎた時代の傾向に関して、ブレーキがかかるべき・・・という方向性を示唆する論文と私は思う。



厚労省の医療保険制度を検討する委員会など、患者側代表を組み入れ、患者ニーズをふまえた議論をすることになった。・・・選ばれた代表が・・・ほんとに患者側代表なのか議論が必要

そして、患者側の要望が、すべての規範基準であれば、それも正しいのか・・・という疑問もでてくる。自分の都合の良い時間に診療を受けられ、待ち時間が無く、苦痛のない、治療効果の最もすばらしいもの、要望通りの結果が当然で、そして負担金が少ない医療・・・そういったものが患者側の希望であろう。それは誰かの負担や犠牲がなければできない。

患者の希望している医療というのが、よりよい臨床的なアウトカムを目的とした医療を理解し、そのための選択を好むかというはなはだ疑問というのが一般医家の感想ではないかと私は思うのだが・・・パターナリズムが流行らない時代、それを理解していただくのもはなはだ困難になってきた。

私でも、全くの間違いではないが、もっとエビデンスのある診療方法をした方がよいのに・・・と思う医師がいる。現実には、主観的患者の訴えやニーズを満たす医療機関の方が患者が多いのだろう。そして一般医家もそういった流れに疑問を感じながらも、経営のため従わざる得ない。

医療技術・知識だけが一般医家・開業医の存在意義だけではないのだろうから、まぁ、そういう医療機関もあって良いとは思うのだが・・・いろいろ疑問に感じる


患者の表層的ニーズではなく、最終的なアウトカムを考えた医療を行うことが大事と私は思うのだが(偉そうに言えるほどの医者じゃないので・・・)

by internalmedicine | 2006-06-30 11:33 | 医療一般  

<< 決められたとおり薬を服用する人... 豊胸術脂肪注入は不適切と・・・ >>