飲酒運転:血中濃度推定式ってあてになるのか?

飲酒運転や酒気帯び運転というのは、その社会的地位を抹殺される覚悟でなければできない。飲酒運転の危険性は否定できようもないし、飲酒運転による事故は、意図的な刑事事件と同等の厳罰で良いと思う。

ただ、いまの裁判の現状を見聞きする限り、裁判官の直上的裁量などが目に余り、科学的な量刑システムにはほど遠いと思う。(司法試験が変わり、司法資格が若干広き門となったわけだが、今後、司法への風当たりは強くなるだろう。・・・医師という職業がそうであったように・・・)


酒気帯び運転、計算式で立件 数時間後に出頭、濃度を逆算 大阪地検 積極活用
地検交通部では男について飲酒運転の立件可能性を検討。事故後アルコールが検知されたことや、男が「事故前日の午後7時から約3時間、缶ビール6本を飲んだ」と具体的に供述したことから、体内アルコール保有量を調べる計算式に数値を当てはめたところ、事故当時酒気帯び状態だったことを裏付ける数値が得られたという。

 この計算式は「ウィドマーク法」と呼ばれ、体重や飲酒量、血中アルコール濃度が飲酒後に下降していく際の係数などを数式に当てはめることで、飲酒から一定時間経過した後の血中アルコール濃度を算出することができる。産経関西


それほど、信用できる計算式なのだろうか?・・・疑問視せざる得ない。

戦前のスイス人科学者の名前をだすところが、権威主義の司法関係者らしさを感じる。

Widmarkの式はアルコール動態モデルの代表的なものだそうで、"未知パラメータとして飲酒経過時間tを推定する場合・・・不適"であるとのこと。故に、Widmarkの式は、時間が自明の状況にて用いざる得ない。また、特定のアルコール量にてエタノールの最大濃度を過大評価している式であるとの報告がある。



アルコールの血中濃度推定がいかに難しいかを示す事例として、今年、Clinical Trialsを見ると、“Influence of Age and Sex on Alcohol Metabolism and Acute Responses”なる研究が行われている。この論文前文の中に
今までの研究では、男女でアルコールの薬剤血行動態の違いがあるという報告があり、性別が他の要因、体脂肪(および総体水分量)の少ない人、肝臓のサイズ、胃や肝臓のの酵素活性の違いから影響が及ぶ可能性がある。また、性ホルモンであるエストロジェンやテストステロンが影響を及ぼす可能性がある。
高齢者は、アルコールにより敏感で、傷害を受けやすいが、pharmakokineticsやpharmacodynamicsは未だ不明.
とあり、個体差など曖昧なところが多いということが分かるだろう。

このような未だ曖昧な基準で、取り締まりが許されるのだろうか?

・・・直情的な司法判断が続く中、この数値式の曖昧さを科学的に判断できる司法関係者がどの程度いるのだろう・・・一般市民として不安を感じる。
飲酒運転に関しては一切被疑者にならないようしなければ、とんでも司法判断が、一見科学的と誤解されている方法で判断される可能性がある。


<蛇足メモ>
95%がdehydrogenase酵素により代謝を受け、その85%が肝臓
15%まで胃内で代謝去れ、女性では男性より女性が50%胃内部のアルコール脱水素酵素が少なく、女性は男性より中毒・慢性影響を受けやすい。
2段階の代謝:acetaldehydeへの転換、それからaldehyde dehydrogenaseによりCO2と水へKrebs回路を経て代謝される。

高用量では膜機能障害("fluidization")
低用量ではシナプスへの影響
 GABAA-2L subunit:アゴニスト作用:蛋白キナーゼリン酸化、細胞内mRNA変化
 GABAによりAch、NMDA、DAへの影響
  Achの遊離抑制:認知機能障害
  NMDA受容体のglutamateへの抑制
  VTAからDAへの報酬系(reward center)と呼ばれる側坐核へのagonize
  アルコール、ニコチンの依存形成に働く経路


http://science.education.nih.gov/supplements/nih3/alcohol/guide/info-alcohol.htm


血中濃度推定(ビール飲酒後)
http://www.beertown.org/education/calc/bac/bac.aspx

by internalmedicine | 2006-10-03 09:20 | 医療一般  

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