運動とフリーラジカルの表層的な矛盾

運動療法に関して・・・

肥満児への運動:FMD、IMT、リスク要因の改善効果
Meyer, AA, et al "Improvement of Early Vascular Changes and Cardiovascular Risk Factors in Obese Children After a Six-Month Exercise Program" JACC 2006; 48 (9): 1865-1870.
というのが最近では興味あるところか?


運動と死亡率の前向き研究ということで、いつも引用される論文を2つほど:
◆Physical fitness and all-cause mortality. A prospective study of healthy men and women
Blair,S.N. et al.:JAMA 262:2395,1989


<身体運動と全原因死亡率>

運動例:

* Washing and waxing a car for 45 to 60 minutes
* Washing windows or floors for 45 to 60 minutes
* Playing volleyball for 45 minutes
* Playing touch football for 30 to 45 minutes
* Gardening for 30 to 45 minutes
* Wheeling self in wheelchair for 30 to 40 minutes
* Walking 1.75 miles in 35 minutes (20 min/mile)
* Basketball (shooting baskets) for 30 minutes
* Bicycling 5 miles in 30 minutes
* Dancing fast (social) for 30 minutes
* Pushing a stroller 1.5 miles in 30 minutes
* Raking leaves for 30 minutes
* Walking 2 miles in 30 minutes (15 min/mile)
* Water aerobics for 30 minutes
* Swimming laps for 20 minutes
* Wheelchair basketball for 20 minutes
* Basketball (playing a game) for 15 to 20 minutes
* Bicycling 4 miles in 15 minutes
* Jumping rope for 15 minutes
* Running 1.5 miles in 15 minutes (10 min/mile)
* Shoveling snow for 15 minutes
* Stairwalking for 15 minutes



◆Changes in physical activity, mortality, and incidence of coronary heart disease in older men.
Lancet 351:1603-1608.


運動とフリーラジカルの表層的な矛盾_a0007242_8581855.gif





運動そのものが身体に悪いと警告を発する人もいる。その理由の一つとしてしばしば「活性酸素」が挙げられる。


“運動はフリーラジカルを発生、フリーラジカルは体に悪いわけだが、なぜ運動はからだによいのか?”という疑問が以前からある。

“フリーラジカル=悪者”って・・・健康食品業者や浅学・軽薄な専門家、マスゴミがラベリングする二分法はここでは成り立たないのである。

フリーラジカルは細胞膜、DNAを破壊するわけだが、科学者たちはフリーラジカルにも良い側面があることが分かってきたと説明する。
Johns Hopkins大学の神経学者Dr. John McDonaldは、細胞シグナルを助け、特定の遺伝子活性化を助ける働きがあるのではと説明している。運動はフリーラジカルを発生させるが、共に、フリーラジカルを吸い取るさる(sop up)分子を合成もする。
Arkansas Medical Science大学の運動生理学者でありWilliam J. Evansはそのように答えている。
言い換えれば、定期的運動は、“抗酸化システムも訓練する”こととなり、自然な公算かをboostingすることなのであると、Massachusetts General Hospitalの心臓運動研究室DirectorであるDr. David Systromは述べている。
“サプリメントがそのパフォーマンスや筋肉の回復の手助けになるかどうかは誰も知らないし、公算かがpro-oxidantとしての役割をすることもあり、どこで線が引かれるか誰も知らないのである”と述べている。
(引用:)


運動のやり方でもフリーラジカルの動態というのは複雑に変わるようである。
(http://www.taiiku.tsukuba.ac.jp/inst-hss/bulletin_pdf/25/1-11.pdf 筑波大学体育科学系紀要 25:1―11, 2002.)

以下、その引用
運動時には組織への酸素流量が安静時の約100倍に達する。ROSの直接測定が可能な電子スピン共鳴法(ESR)を用いて運動直後のラット骨格筋組織における活性酸素シグナルを観察したところ、シグナルの増加が確認されたことから、確かに運動を行うことによって、ROSが安静時以上に生成されていることが確認されている。また、Jacksonらは、ラットの下肢筋に電気刺激を加え、筋収縮させたところ、ROSのシグナルが70%増大したことを報告した。では、どのような運動が活性酸素生成あるいは酸化ストレスを増大させるのだろうか。また防御機構はどう変化するのであろうか。

1)運動の種類
Marazaticoらは、一過性の持久的運動およびスプリント後に生じる酸化ストレスと抗酸化能力について検討した。
よく鍛練された長距離ランナーにハーフマラソンを行わせ、その後の血漿MDA(マロンジアルデヒド:過酸化脂質の一種)を測定したところ、安静時と比較して運動直後に増加し、運動6時間後には安静レベルに戻り、24~48時間後には有意に低下した。
さらに、抗酸化能力については、運動直後にSODが27%増加し、CATは運動24~48時間後に増加し、GPxは変化しなかった

これに対して、短距離スプリンターに150mスプリント走を6セット実施させたところ、安静時に比べて運動6時間後にMDAが増加し、12~48時間後まで増加し続けた。
SODとGPxは運動直後に30%増加したが、CATの変化は認められなかった

これらの結果は、運動の種類によってROSの発生度とその影響度が異なることを示唆している。

また、筋力トレーニングや下り坂歩行(走行)時などでの伸張性筋収縮は、筋の微細構造の損傷を引き起こし易い。伸張性筋収縮運動の数日後にCK活性がピークに達し、また、マクロファージの浸潤を伴った筋線維の変性が組織学的に観察される。このような炎症細胞の働きの強まりは、ROSの生成や酸化ストレスを促進させる。

2)運動強度
酸化ストレスには、運動の強度が強く影響を及ぼすと考えられている。運動強度に依存してROSの生成および酸化ストレスが増大することが示唆されている。
非鍛錬男性に最大負荷運動および、最大下負荷運動(有酸素性閾値(AeT)と無酸素性閾値(AnaeT))を30分間行わせたところ、運動強度に依存して(AnaeT>max>AeT)、運動後にGSSG/TGSH比(酸化ストレスの指標)が高まった。
漸増負荷運動中に酸化ストレスマーカーである呼気中のエタンを連続的に測定した実験では、乳酸閾値強度で呼気中のエタンが上昇し、さらにVO2max強度で上昇した。
回復5分後も安静時レベルより高い値にあった。
また、Satoらは、ヒト好中球におけるROS生成(OCl-)Aと運動強度の関係を検討した。50%VO2max強度90分間の運動ではOCl-生成が認められなかったが、55%VO2max強度90分間の運動においては運動終了直後から3時間後まで有意な上昇を示したことから、好中球では運動強度に依存してROS産生が顕在化することが推測される。

7.活性酸素生成量と消去系に対する運動トレーニングの影響
トレーニングがラットのヒラメ筋におけるSOD活性に及ぼす影響を示した。
一日当たりのトレーニング時間に比例してSOD活性が高くなったが、運動強度への依存性は観察されなかった
高強度の有酸素トレーニングの継続により、安静時のMDAとSOD、GPx,CATといった抗酸化酵素活性がコントロールに比して高くなることが報告されている。
スプリントトレーニングでは、安静時のMDAおよびSOD、GPxが高くなる。
しかしながら、CATレベルは一般人や有酸素トレーニングを行っている人と比べて低く、酸化ストレスにさらされやすいかも知れない。トレーニングは、その強度、頻度、時間などによって生体内のDNA損傷を促進させたり、抑制したりする。よく鍛練された長距離ランナーに、漸増負荷トレッドミルランニングを疲労困憊まで実施させたところ、運動直後のMDA値に変化はなかったが、白血球のDNA損傷程度は増加した。
しかしながら、鍛練者においては、運動後の白血球DNA損傷の増加率が低いことが報告されている。
また、30日間の軍隊訓練(8~10時間/日)終了後における尿中の8-OHGua(DNAの酸化的損傷指標)排泄量が有意に増加したとの報告もある。
さらに、動物実験では、臓器(肝、肺、心臓)の8-OHGua量は、強制運動を行わせると臓器(肝、肺、心臓)の8-OHGua量が高くなり、自発運動では低いという結果が報告されている。
我々の研究室でもミトコンドリアDNAの変異が自発走では生じないことを確認している(未発表データ)。これらのことは、個々に応じた適度な運動を自発的に行うことは、生体に悪影響をを及ぼさない可能性がある

by internalmedicine | 2006-11-02 08:41 | 医療一般  

<< 死亡時の認知症頻度30% 糖尿病の一歩手前でも体重の5%... >>