心不全女性の治療:女性の方が病気になりやすく影響も大きいが、死ににくい

女性外来というと、“診察や相談だけでなく、他の診療科の女性医師と連絡を取り、症状に応じて女性医師を振り分ける窓口的な役割も”とある大学の女性外来紹介欄に記載がある。要するに女性医師が女性をみるところを女性外来というらしい・・・ちっとも医学的じゃねぇや・・・

性差も有れば地域差もあり、年代差もある・・・・臓器別ぶった切りという診療科目制度は考え物だが、女性だから女性医師ってのも・・・かなり乱暴なぶった切りのような気がする。
前にも書いた覚えがあるが、大学でこんな診療科をつくるなら、ベネフィットを科学的に証明してほしいものだ。

今まで、“女性の心不全”という講演・講義を聞いたこともない・・・そして、“循環器病の診断と治療に関するガイドライン(2004年度合同研究班報告(pdf))”では“女性の心不全”という項目は2カ所で、DIG サブスタディーでは“ジゴキシンは女性の心不全患者においてむしろ予後を悪化させるというエビデンスも得られている”というところと、“SOLVD 試験の結果ではとくに女性において左室駆出率が10 % 減少すると脳卒中が58 % 有意に増加し,一方,男性では有意な増加を認めなかった”という記載のみである。

クリーブランド・クリニックでは、“女性の心不全”をテーマにしている記述があった。

心不全治療の研究は主に男性であり、薬理学的・病態的に性差があるのに、女性でも一般化されてしまっているという話。
CLEVELAND CLINIC JOURNAL OF MEDICINE VOLUME 74 • NUMBER 6 JUNE 2007(pdf

リスク要因は同じだが、相対リスクが異なる。
【疾患ごとの検討】

・冠動脈疾患
女性は冠動脈疾患由来は少ない。
非虚血性心筋疾患女性に比べ、冠動脈疾患を有する場合の女性では予後が悪い。理由は不明だが、合併症が多い、急性冠症候群、不整脈合併などの理由

・糖尿病
若年女性で、糖尿病が女性心不全リスクとして強い因子。Framingham Heart Studyでは、35-64歳の女性では、若年糖尿病男性と同じ頻度。閉経後冠動脈疾患女性の心不全の場合糖尿病が強いリスク要因となる。メカニズムは不明だが、糖尿病が左室壁容積や壁厚の予測因子となっている。左室肥厚が初期心不全の病態と考えられるため、拡張性心不全の原因になっているのではないかと考えられている。

・肥満
男女とも肥満は心不全と関連。Framingham女性では、心不全リスクは1kg/m2あたり7%増加、過体重女性は正常体重より50%増加

・高血圧
男女とも心不全の重要なリスク要因である。女性の方が心不全に先行する高血圧頻度が多い。Framighamでは女性59%、男性39%で先行する高血圧があった。

・弁膜性疾患
Framinghamでは男性より女性の方がより弁膜症が多かったが、このこれは理学所見であり、エコー上確認されたものではない。

・特発性心筋症

女性は男性に比べ少ない。

・化学療法
進行乳ガンの化学治療にdoxorubicin(Adriamycin)が用いられ、これは用量依存性に心不全リスクを生じる。trastuzumab(Herceptin)治療乳ガン患者で、HER2蛋白に対するヒトモノクローナル抗体は左室機能低下が生じることがある。副作用は頻回で、trstuzumabとanthracyclineを併用したときによく生じる。

・周産期心筋障害
妊娠最終月と出産後5か月以内に既往のない心不全が生じることがある。頻度は3000-4000につき1例で、リスク要因として多胎、子癇前症、妊娠高血圧、アフリカ系アメリカ人など


病態生理の違い
・女性の方が駆出率が高い
女性の方が左室収縮駆出率が高く、圧用量関係は同様であるが、女性ではより左室拡張期末期容積が小さい

・女性の方が肥厚しやすい
もともと女性は心筋細胞容積が小さく、故に、症状発現までの許容範囲が大きく、代償しやすく、症状進行が遅れる。リモデリングに関しては女性の方が線維化・アポトーシス・心筋壊死が生じにくい。ただ分子レベルではまだ知見が少ない。

・エストロゲンが有利に働く
リモデリングに性ホルモンが関係。エストロゲンは左室容積・線維化・レニン値を減少させ、血管拡張性に働くが、アンドロゲンは逆。17βエストラジオールは圧負荷による心筋肥厚を促進。閉ホルモン補充療法による経後女性は左室収縮機能低下による死亡例は少ないという報告がある。一方ではHERSやWHIの研究ではホルモン補充療法にて入院数についてプラセボとの差を認めなかった。・・・例数が少なかったとかいろいろ差の出ない良いわけが続いている。

・女性の方が呼吸苦、浮腫を生じやすい


女性は、病気になりやすいが、死ににくい。
うっ血性心不全による入院は女性の方が多く、女性の方が男性に比べ、QOL悪化、呼吸困難悪化、機能状態悪化、うつになりやすい。だが、女性の方が生存予後はよい。この理由は不明である。


心不全トライアルは、低駆出率男性に偏在しやすい。

治療による男女差検討・・・>
・Carvedilolは中等度心不全・収縮期機能低下の女性で有効
・ACE阻害剤咳嗽は女性の方が出やすい
・ARBの知見少ないが、Candesaltanでは心不全女性で有効
・女性の死亡率減少をサブグループ解析で示されたのはアルドステロン拮抗剤であり、RALESとEPHESUSトライアルはそのメカニズムまで突き止められてない。女性の方がFramingham Heart Studyではアルドステロン値が高いという報告。女性ではこのアルドステロン高値と左室壁厚が正の相関があり、左室肥大が心不全の重要なリスクということでいみが有るのかもしれない。
・ジゴキシンは入院減少させるが、予後を改善しない。DIGトライアルで、有意差はないが、女性では死亡リスクを増加させる懸念があるとされた。血中濃度依存が考えられ、女性の血中濃度増加が寄与?
・抗凝固剤・抗血小板剤では、収縮期低下例では血栓塞栓が女性の方がリスクが高い

by internalmedicine | 2007-06-06 12:11 | 動脈硬化/循環器  

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