虫垂炎診断

虫垂炎は生涯において約7%が罹患する疾患で、10-30歳にそのピークがある。腹部超音波やCT等の発達もあるが、まず疑う場合は、病歴や理学所見に頼らざる得ない。

臨床症状や理学所見について今まで記載されているところをみると、
・ 右下腹部領域(RLQ)圧痛が96%でみられるが、非特異的。左下腹部(LLQ)圧痛がこの部位まで病変が広がる場合や、内臓逆位の場合に、認められることがある。

・ 反跳痛(rebound tenderness), 叩打痛(pain on percussion), 硬直(rigidity), 防御(guarding)が最も特異的な所見と言われている。

・これがあるからといって除外できるわけではない、少数の患者にみられる所見
・ Rovsing sign (LLQ圧痛によるRLQ痛)
・ obturator sign (伸展性の右股部の内旋によるRLQ痛)


・ psoas sign (右股関節の過信邸のRLQ痛)


・ cough sign( sharp pain in the RLQ elicited by a voluntary cough )は限局性腹膜炎診断に有用、腹部遠隔部位の叩打のよるRLQ痛誘発、踵部からの叩打による反応などは腹膜の炎症を示唆する。

・ Markle sign(ジャンプ後つま先から踵に落ちるときに特定の腹部領域に痛みが走るもの)は限局性腹膜炎の感度の高い診断法


AFP に 書かれている尤度 
陽性尤度
RLQ痛:8.0
痛みの移動:3.2
嘔吐前腹痛:2.8
食思不振、吐き気、嘔吐:上記3項目よりよりLR+は低い
硬直:3.76
Psoasサイン:2.38
反跳痛:1.1~6.3
発熱:1.9
防御・直腸部圧痛:硬直、psoas sign、反跳痛よりLR+は低い


陰性尤度
RLQ痛:0~0.28
以前に経験したことのない痛み:0.3
痛みの移動:0.5
防御:0~0.54
反跳痛発熱、硬直、psoas sign:0~0.86


LRの表示幅が広くて、何がなにやら・・・で、JAMAには子供に限定した虫垂炎の診断尤度が書かれている。
Does This Child Have Appendicitis?
JAMA. 2007;298:438-451.
腹痛の子供で、虫垂炎に関連するサインとして最も有効なのは発熱
陽性尤度比は 3.4(95%CI 2.4-4.8)
陰性尤度比は、0.32(95%CI 0.16-0.64)


疑診選別された患者で、rebound tendernessは虫垂炎の可能性を3倍に増やす
陽性尤度比は、3.0 (95%CI 2.3-3.9)
陰性尤度比は、0.28(95%CI 0.14-0.55)


腹部中央から右下部への痛みの移動というは、右下腹部痛のみの訴えよりその可能性増加
移動性疼痛症状陽性尤度は、 1.9-3.1
右下腹部痛のみ尤度は、1.2(95%CI 1.0-1.5)


末梢血白血球数 <10000/μLは虫垂炎可能性低下
尤度は0.22 (95%CI 0.17-0.30)


好中球 ≦6750/μLの場合も可能性低下
尤度は 0.06(95%CI 0.03-0.16)


症状・サインの組み合わせが有効で、特にさらなる検査が必要としないと判断する場合に重要となる


小児の場合、発熱、移動性疼痛が確認に、白血球・好中球増多なしが除外に有効と言うことになるようだ。成人とはちょっと趣が違うようであり、臨床サインはここでは触れられてない。



虫垂炎診断に関わる話題
・ 虫垂炎診断のためのCRPカットオフ値
・ 虫垂炎の誤診率は昔と変わってなかった
JAMA. 2001;286:1748-1753

Limited computed tomography with rectal contrast (CTRC) の感度94%、特異度 94%( JAMA. 1999;282:1041-1046.


エコー、CT診断のメタ/アナリシス
【小児】
超音波検査:感度88%、特異度94%
CT検査:感度 94%、特異度95%
【成人】
超音波検査:感度83%、特異度93%
CT検査:感度94%、特異度95%

Radiology 2006;241:83-94.



Subject: 虫垂炎の誤診率は昔と変わってなかった
CTや超音波や腹腔鏡まで使うようになったのだから、虫垂炎の誤診率もさぞ減ったことだろうとしらべてみたら、なんと減少どころか、一部増加もあるらしいという話です。 http://jama.ama-assn.org/issues/v286n14/images/jtw10034f3.gif フルテキストをみてないのでわからないのですが、重症度で補正したのかしら?抗生剤にて手術件数も減ってるはずだし、診断・治療困難例も増えてるはずだし、という疑問も湧きます。悪党マスゴミに悪用されるかもしれない論文でもあるかも?なんて、もしかして、高価な器械を使ってもホントに誤診なんて減らないのでしょうか? Has Misdiagnosis of Appendicitis Decreased Over Time? A Population-Based Analysis http://jama.ama-assn.org/issues/v286n14/abs/joc10703.html
【序】虫垂炎と思われる患者の誤診は不必要な手術というadverse outcomeを生む。CT、US、腹腔鏡は虫垂炎と思われる所見を有する患者に用いられ不必要な手術が減少したと思われる。
【目的】虫垂切除を受けた患者の誤診の頻度がCT、US、腹腔鏡使用により減少したかを決定する目的。
【デザイン・設定・患者】後顧的、population-based cohort studyで85790名
【おもな測定項目】populaiton-baseな性・年齢による標準化された急性虫垂炎(穿孔・非穿孔とも)と正常の虫垂の頻度の比較
【結果】63707の偶発的でない虫垂切除の患者さんのうち、84.5%は虫垂炎(25 .8%は穿孔)で、15.5%は虫垂炎との診断と関連せず。年齢・性で補正後、 population-basedの不必要な虫垂切除の比率は時代の変化に関わらず不変である。


生殖可能な女性では、populaiton-basedな誤診の頻度はむしろ年毎に1%ずつ増加している(P=.005)。誤診の頻度は65歳以上では年に8%増加する (p<.001)が、5歳以下では増加はなかった(P=.17)。誤診となった腹腔鏡的虫垂切除の頻度は快復より有意に高い(19.6% vs 15.5%,p<.001)
【結論】予想に反し、不要な虫垂切除となった誤診の率はCT、US、腹腔鏡の導入にもかかわらず、変化が無く、穿孔の頻度も減少していない。このデータではpopulation levelでは、虫垂炎の診断は診断機器の発展に関わらず改善していない。

by internalmedicine | 2007-07-25 09:58 | 消化器  

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