トリインフルエンザ NEJM update:感染爆発~パンデミック・フルー

NHKの「シリーズ 最強ウイルス 第1夜 ドラマ 感染爆発~パンデミック・フルー」という番組が話題になっており、わたしも 視聴した。(実は2話はみてない・・・録画のみ)

タイムリーなのか、本日、トリインフルエンザ(H5N1)のアップデート情報がNEJMに掲載され、斜め読み・・・
Update on Avian Influenza A (H5N1) Virus Infection in Humans
N Engl J Med. Vol. 358 (3)261-273 Jan. 17 2008


ドラマ自体は、内容がももりだくさん過ぎて、消化不良の感じはあったが、問題提起として、NHKは良い仕事をしたと思う。マニュアルが官僚システムによって全く機能しない、あるいは、フェーズコントロールを甘く判断したがるという心理特性がはたらくなど・・・は良い私的だったと思う。

少々不思議だったは、インフルエンザ発症の緒端から、検体を保健所に送っていたことは
通常あり得ないと思う

さらにこまったことに、現在の商用インフルエンザ抗原迅速検査キットはH5N1の検出頻度が低い可能性を指摘されている。そして、通常のインフルエンザとH5N1を鑑別できない。

実際には、重症感の激しい、なんらかの発熱性の気道系疾患が急激にある地域に集団発生するという形をとるほうが自然と私は思う。

下記NEJMのupdate(引用:http://content.nejm.org/cgi/content/full/358/3/261/DC1)では
1)急性発症の発熱    咳嗽 and/or 咽頭痛    7日以内の暴露 ・・・の3つを満たすこと
2)急性発症の発熱  and (原因不明の肺炎の世話をしている医療関係者など or H5事例との接触)
3)原因不明の重症肺炎の急激な進行 or 肺炎の集積 or 肺炎や死亡例につながるインフルエンザ様症状の集団発生
を想定している。

いづれも検査として、病歴聴取+身体所見+H5検出の気道サンプル、胸部レントゲン、CBC(分類を含む)、酸素飽和度、生化学・凝固検査を行う

周辺にH5N1のに雰囲気のない、1)に関しては、
・肺炎・呼吸苦があったとき、即、入院、飛沫核感染・接触感染precautionとモニタリングを引く
→他の問題がありそうな場合はそれに対する対処

→他の原因がはっきりしない場合は、N1として治療、発熱期間中自発的に自宅にこもってもらう、症状悪化の報告を患者に助言しておく
・さらにH5陽性なら、N1標準regimenの完遂と症状悪化報告助言
・臨床的悪化なら入院、飛沫核感染・接触感染precautionとモニタリングを引く


2)・3)に関しては、即、入院、飛沫核感染・接触感染precautionとモニタリングを引く




治療に関しては、

呼吸苦・肺炎事例
→ないものは軽症事例
・N1治療(oseltamiviru or zanamivir 標準regimen)
・他の病因も検討、適切な治療を行う


→あるものは中等症・重症事例
・喀痰・気道吸引物・血液などのサンプル;微生物・H5診断
・oseltamivir治療(regimen修正も考慮)
・CAPのempiric治療
・他の病因も検討
・aerosol発生のリスク事例では空気感染precaution使用


ARDS管理の強化治療マネージメントと微生物サンプリングとH5診断の繰り返し


ドラマではタミフル耐性となっていた。すぐ考えつくのはリレンザ(zanamivir)だが・・・
N1ニューラミニデースへのoseltamivir-抵抗性variant(H274Y66 or N294S)に対してzanamivirは有効だが、まだH5N1に対して研究がない。肺炎や肺外疾患の患者への感染部位へのsuboptimal deliveryとなるのだが、関心が持たれており、zanamivirやべtのニューラミニデース阻害剤peramivirの経口投与も実験では有効性が認められている。



なお治療法として
・低酸素補正と合併症への治療がこの治療の根本
・ステロイドはルーチンに使用すべきでない。有効性が認められておらず、高用量・長期化で合併症の危険性が危惧される。特に中枢神経系へのtoxoplasma症の危険性がこの論文で特筆されている。北ベトナムでは、ステロイド使用29例中59%死亡で、非使用は24%であった (P=0.004) (Cao T, Thanh Liem N: personal communication)


とくに、医療関係者に対して、いまのところステロイド禁止ということを啓発しておく必要はあろう。

予防に関しては、不活化H5ワクチンが開発されている。
reverse geneticsによりビルレンスに関わる世代抗体を許しているが、連続性のないウィルス候補、cross-clade immunogenicityへも対応できるワクチンの開発がなされている。H5は免疫原性として弱いため、アジュバントなしのsubvirionワクチンでは、1回も投与を受けてない対象者は、2回投与が必須となろう。oil-in-waterアジュバントを用いたもの、すなわち全ウィルスH5N1ワクチンの使用は、priming doseなしで抗原量を減らすことができ、抗原のdriftを生じたウィルスにも対応できる可能性がある。
どのワクチン候補も、特異的アジュバント、加工法、容量、安定性、抗原比率などの臨床的試験を必要とする・・・


さらに、H5N1への防御に必要な抗体量は不明で、抗体反応期間も限定的で、ブースター効果がおそらくあるだろう・・・(後略)

by internalmedicine | 2008-01-17 09:32 | インフルエンザ  

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