百日咳成人流行って・・・ほんとだったの?

当方の地域、成人百日咳が近年増えたという・・・認識がない。だが、2007年に発生したわが国初の成人集団感染事例というのは、”成人患者数を正確に知ることは難しい状況にある”にかかわらず、そのように報告されている(http://idsc.nih.go.jp/iasr/29/337/tpc337-j.html)。若干矛盾を感じるのだが、今年は、抗体検査が市中から消えるほど検査がなされたという事実はやはり存在する。・・・医師の認識が高まったせいだろうか?

同様なことが多くの場所で語られはじめている・・・e.g.)http://ameblo.jp/jinyu-inchou/entry-10106900003.html

たとえば、あるネット上の健康相談サイト・・・
7月の半ば頃から咳が出始め、夜間の発作がひどくなり・・・7月末に主人が近所の医者へ・・・血液検査をし、一週間後の結果を待つ間、すでに薬を服用しはじめ・・・8月1日、血液検査の結果から、百日咳と診断され、・・・
・・・こういう事例がネットに掲載されているが、どうも・・・ほんとに成人の百日咳ってまともに診断されているのだろうか疑問に感じる・・・最終まで読んでいただければこの診断治療に疑問を持つはずである(相談者の方の事実誤認があるのかもしれないが・・・)。


”成人持続咳嗽(2週間以上)患者におけるLAMP法による百日咳菌抗原遺伝子陽性率と臨床像”(Vol. 29 p. 75-77: 2008年3月号)では、LAMP陽性と陰性の臨床病勢の違いは、①発作後咳き込み(陽性18/20 vs 陰性 8/19) ②吸気性笛音(陽性 10/20 vs 陰性 2/19)の2つに有意差があるようである。咳嗽後無呼吸や嘔吐、胸痛の訴えも若干多い。


3年前のNEJMの総説一部抜粋
Pertussis — Not Just for Kids
N Engl J Med Vol 352(12):1215-1222 Mar. 24, 2005

速くて努力性の呼気(とぎれなく続く連続性の咳き込み)とWhooping sound(吸気性笛音):http://www.whoopingcough.net/Paroxysm.wav
咳嗽後嘔吐も多い。発熱無く、咳嗽発作と咳嗽発作の無症状の時期がなく、無呼吸やチアノーゼ、肺炎、気胸、肺高血圧、痙攣、脳症といった合併症も存在する。6日間以上の持続性咳嗽では、13~32%のB. pertussisの感染が認められ、成人例の1/3にはのどのいがらっぽさ、30代以上では発汗が40~50%で、典型的な痙性咳嗽は8~82%、咳嗽後嘔吐は17~50%と報告のばらつきが大きい。


【検査】

直接検出法
・直接蛍光抗体法
・分離培養法
・PCR法

蛍光抗体法は感度・特異度ともおとり、現在推奨されない

【分離培養】Regan-Lowe培地による鼻咽頭分泌物(吸引検体が望ましい)
3週間以内の患者には推奨

【PCR法】菌体検出期間が長いが、疑陽性が多い
CDCでは、咳嗽出現後3週間以内、他の症状が現れてから4週間以内は、培養・PCR両者施行を推奨している

【ELISAによるB.pertusis抗体測定】
急性期(発症後1週間以内)と回復期(4~6週間後)のペア血清

3週間以上経過時点のワンポイント判断は、血清抗体検査として陽性基準の確立している検査が普及してない、市販検査では感度に限界があること、結果に時間がかかることなどでその有用性に限界がある。

CDCでは、症状発現後4週間(咳嗽出現後3週間以内)の培養検査とPCR検査の組み合わせが有効で、4週間経過以降は血清抗体検査のみが有効としている


【治療】
百日咳患者には抗菌薬を投与し、すみやかに病原体を除去し、他者への感染を予防すべきである。異論はあるものの、症状の出現後1週間以上経過したあとに抗菌薬が開始された場合の効果には疑問がもたれる
青年や成人の散発例では、痙咳期に病院を頻回に受診するが、この時点では、抗菌薬の効果はあまりない。


Todar's Online Textbook of Bacteriology Bordetella pertussis and Whooping Cough



百日咳診断の目安(案)



ちなみに日本で一般的に行われる抗体検査は細菌凝集法であり”小児の伝染性呼吸器疾患である「百日咳」の起因菌に対する抗体検出検査”とされ、
前野-東浜株:ワクチン等による受動免疫によるもので抗体が高値になる
山口-小林株:比較的最近の流行株
※両株には交差反応性が存在
※受動免疫又は自然感染によるものでも両抗体陽性になる場合がある

http://data.medience.co.jp/compendium/main.asp?field=06&m_class=01&s_class=0041



成人において未だ確定してない検査で、その判断基準に問題があるやり方(ペア血清を確認せず、タイミングも)で診断され、そして治療も有効期間とされる時期を過ぎて行われている・・・このような診断治療が日本中で行われていたとするなら・・・



単抗体だけを診断の根拠とすると、過剰診断の元である
a0007242_14312669.jpg

Assessment of Serum Anti-Bordetella pertussis Antibody Titers among Medical staff Members Jpn. J. Infect. Dis., 61, 371-374,2008
      ↑
赤線より右は健常者でも抗体>320倍は多いと言うことを示し、抗体1回測定での診断の危険性は自明である。

by internalmedicine | 2008-08-19 15:39 | 呼吸器系  

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