小児科医の家族への医療過誤開示傾向調査

小児科医師の行動傾向の疑似行動調査ということになるだろうか?

患者・家族も疑ってないのに、わざわざ波風を立てて、医療過誤を提示する必要があるのだろうか・・・って考えは、海外ドラマERでも描かれていた(参考:http://www.superdramatv.com/line/er/episode.html)。

大元の論文は
Medical Error Disclosure Among Pediatricians
Choosing Carefully What We Might Say to Parents
Arch Pediatr Adolesc Med. 2008;162(10):922-927.



PEDIATRICIANS MORE LIKELY TO DISCLOSE MEDICAL ERRORS THAT ARE APPARENT TO FAMILIES, SURVEY FINDS
Arch Pediatr Adolesc Med. 2008;162[10]:991-992.
小児科医を調査して、患者・家族に医療過誤(medical errors)をdiscloseするかどうか、どのように報告しているかのばらつきがあることを報告
両親に明かでない過誤についての情報共有についてはshareすることが少ないということを
Archives of Pediatrics & Adolescent Medicine10月号で報告

こどものケアでおきる過誤(error)が生じたときに両親は聞きたいが、このdisclosureはかならずしも行われない。過誤(error)を親にdiscloseすること、こどもにもdiscloseすることは、" exceptionally challenging conversation"(きわめて能力の試される対話)であることが判明したと著者らは述べている。

University of Washington School of Medicine(Seattle)での研究で、205名の小児科医(56%の回答率:369名検討)で、2つのシナリオについての11の質問でおこなわれたもの

1)インスリン過剰投与の結果入院し、ICU入室した場合で、家族に明かであるような場合
2)検査を行ったが、その後の検査フォローアップを行わなかった結果、感染・入院を生じた場合で、両親には明かでない場合



176名の小児科医と29名の指導医について検討された
・161 (79 %)が重症と記載し、171(83%)が"非常に”・"きわめて”責任があると答えている
・91(44%)が過誤(error)による評価へ支障を生じることについて関心を示し、69(34%)が訴追の可能性を考える
・109(53%)が過誤(error)を確実にdiscloseし、82(40%)もおそらくdiscloseするとしているが、14(7%)がもし親から尋ねられたときだけdiscloseすると答えている。
・95(46%)が"error”という言葉をdisclosingの時に用い、54(26%)が、こどもに有害性を生じた原因を明確にして謝罪し、103(50%)が将来の過誤(error)予防に対する明確なプランを明らかにする
・後者の検査シナリオ時に比べて、過誤(error)の明かなシナリオでは、2倍のdiscloseが行われ(77% vs. 33%)、明確な謝罪がなされる (33% vs. 20 %)


こどもの理解度にばらつきがあり、それに応じル必要があるので、小児医療過誤(medical errors)のdisclosingは影響を受けるだろう。加えて、こどもがhelplessな状況(誰も信用できない)におちいること、過誤(error)が長期的に身体・知的発達に与える影響の情報の欠如や法的な制限が小児科のdisclosure決定に影響を与えるのだろう。


小児科医、こども、家族の間の関係は、信頼が先細りで、医療過誤(medical error)の発生を減少させることで有意に減少する事のできる可能性があると著者らは述べている。一方、両親はこどもの医療における過誤(error)について知らされるよう熱望している。

この研究では小児科医が医療過誤(medical error)のdiscloseするタイミング、方法についてばらつきがあること、家族に明らかでない場合の過誤(error)のdiscloseは少ない傾向があるということが判明した。

医療職ガイドラインのインパクトの研究、革新的教育介入が、disclosureの患者の思考と現行の職業的行動の格差を減ずるために役立つだろう・・・という著者ら


私は、謝罪マニュアルトラップ(2007年 08月 16日)に記載したごとく、日本では米国より謝罪する前提ができていない。医者・家族・患者ともに不幸なシステムだと思う。


この設定に、私は、疑問を持った。
これは、ヒューマン・エラーとシステム・エラーなのか、この前提がはっきりしない。質問された側が、後者のシナリオをヒューマンエラーと捕らえてない可能性もあるのではないかと思う。

日本には、米国より謝罪する前提条件ができていない。"親の死に目会えず精神的に苦痛」 東北大を提訴 ”(河北新聞 2008年10月02日)という記事が掲載されていたが、訴訟リスクは至る所でころがっており、訴訟リスクを避けることが前提の医療にいつのまにか日本の医療は変容してきているのだ。

そういう中で、謝罪しろ!・・・だけでは、医療過誤が社会でポジティブな影響を与えることなく、は闇の中に消えていくだけだろう。
そして、真に患者本位の医療は消滅していく。



ある雑誌を見ていたのだが、いわゆる大学病院の医師側専門家と弁護士たちの対談記事が掲載されていた(Medical Doctor 10月号、STOP THE 医療崩壊)。

"non-punitive confidential independent expert analysis credible timely system-oriented" ←これを検索すると、日本語のサイトだけが検索される。


一部の医師・識者と言われる人達が暴走している可能性がある。

Voluntary, Anonymous, Non-Punitive System Leads to a Significant Increase in Reporting of Errors in Ambulatory Pediatric Practice
http://www.innovations.ahrq.gov/content.aspx?id=1901


医療過誤を少なくする前提として、自発性、無記名、非訴追性によるレポート数の増加が前提なのである。手を挙げさせ、しかも処罰ありの、事故調では・・・実効性もない絵に描いた餅で終わるだろう。


"松井菜摘”という弁護士が「診療における説明義務に関する判例が出てから、同意書のみならず、小さなリスクに関してまで説明しなくては、という防御的な対応になったという批判はあります。しかし、医療者がリスクとベネフィットをどう考慮してこの医療が適切だとかんがえたのか、という説明をすればよいと考えます。逆に普段ほとんど考えてないようなリスクまで、数字を羅列するだけの説明をして、患者に有用性の判断を丸投げするのは問題だという裁判官もいます。医療の思考プロセスをわかりやすく患者に伝える、ということを日々の診療でっこころが毛手ほしいと思います。」と書いているが、この弁護士先生、EBMの基本を知らないようだ。こういう連中が医療訴訟に関わっていることこそ危険と言わざる得まい。
Stevens-Johnson症候群での判例を無視して、自己主張のみを行う
・・・こういう弁護士がいる限り、医療訴訟・訴追の危険による医療崩壊はとまるまい。

by internalmedicine | 2008-10-07 11:14 | 医療一般  

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