シックビルディング症候群により耳鼻科受診、病欠増加(in France)



sick building syndrome(SBS)は、“ビルディング内居住者の環境が急性の健康状態あるいは快適さに影響をあたえるもので、ビル内に居住する時間と関連し、特異的な症状や原因を同定できないもの”と定義されています。

日本の和製英語“シックハウス症候群”(市民団体造語?)とはかなり異なる表現で、シックハウス症候群は医学的に確立した単一の疾病というよりも、「居住者の健康を維持するという観点から問題のある住宅において見られる健康障害の総称」を意味する用語であると見なすことが妥当

「MCS(Multiple Chemical Sensitivity:多種化学物質過敏状態)/化学物質過敏症」として報告されている症候は多彩であり、粘膜刺激症状(結膜炎、鼻炎、咽頭炎)、皮膚炎、気管支炎、喘息、循環器症状(動悸、不整脈)、消化器症状(胃腸症状)、自律神経障害(異常発汗)、精神症状(不眠、不安、うつ状態、記憶困難、集中困難、価値観や認識の変化)、中枢神経障害(痙攣)、頭痛、発熱、疲労感等が同時にもしくは交互に出現するとされている

“シックハウス症候群”は曖昧模糊たる表現で研究者などは使うべきではない表現と考えます。おおざっぱに言えば原因判明しないものをSBSと呼び、特定の化学物質を念頭に置いたものをMCSと解釈します。


さて、今回とりあげた論文は、SBSを念頭に置いたもので
Air conditioned buildings increase risk of sickness  BMJ 2004;329:529 (4 September)
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眼、皮膚、上気道の炎症、頭痛・疲労感を訴えるビル関連症状であり、sick building syndromeを含む

“エアコンのあるオフィスで働く女性は、自然の換気だけのビルより2.3倍耳鼻咽喉科に受診する傾向にある:(odds ratio 2.33 (95% CI 1.35 to 4.04))
病欠の尤度は1.7倍高い。


冬暖かくて、夏涼しいという穏和な環境で、エネルギー効率や生産力が増すといった利点は、病欠やビル関連症状から起因する損失が勝るのかもしれない。”
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おフランスのお話ですから、気候の異なる日本とは状況が違うと思いますが、日本でもSBSを念頭に置いた検討が必要でしょう。


それにしても、市民団体の一部の活動が、科学的思考を妨害している場合がめだつようになってきましたねえ・・・

by internalmedicine | 2004-09-03 11:26 | 医療一般  

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