福島県立大野病院・産科医逮捕”事件”

医師会FAXニュース(平成23年7月29日(金))から・・・

医療界にとっても、司法にとっても、行政にとっても・・・忘れてはならない”逮捕事件”

◆無罪までの2年半「まるで異国」
 大野病院事件の加藤医師

 福島県立大野病院事件で逮捕、起訴され、無罪判決を受けた加藤克彦氏(国立病院機構福島病院産婦人科部長)は24日、日本医師会が東京・本駒込の日医会館で開いたシンポジウムに出席し、逮捕時の心境を語った。
加藤氏は無罪判決までの2年半について「とても長く、知らないことが次から次へと起こり、現実味が薄くて異国の地で過ごしているような状態だった。無罪になって、ほっとした」と振り返った。
無罪判決の会見の後、加藤氏が事件について公の場で話すのは初めて。

 加藤氏はまず亡くなった患者にお悔やみを述べた後、関係者に感謝の言葉を述べた。
現在は産婦人科医として診療を再開しており「臨床現場に復帰して3年目になった。臨床の感覚が戻るまでには多少時間がかかったが、現在は地域周産期医療を頑張らせてもらっている」と現状を報告した。

 事件については「経験したことを話すのは初めて」とし「実際は思い出したくもないというのが本音」と述べながらも、事の発端から丁寧に説明した。
手術中に患者が亡くなったことは「主治医として大変つらい出来事だった」と振り返った。
2005年3月に福島県が公表した医療ミスを認める報告書を見た際には「これでは自分が逮捕されてしまう」と主張した。
しかし「遺族が補償を受けられるようにこの書き方になった」との理由で受け入れられなかった。

 家宅捜索の後に事情聴取を受けるため移動した警察署内で突然、逮捕状を執行された。
「逮捕になると医療界が大変なことになると話したが、無視された」。
検事の取り調べは「精神的につらいものがあった。寿命が縮むというのは、こういうことなのだと感じた」。
拘留中は署内で提供される新聞は1面から3面まで切り抜かれ、時には1面がないときもあった。
事件の反響の大きさを感じたという。

 保釈後は県から、休暇を取るか、別の県立病院で勤務するか選択を迫られたが、保釈条件などの理由から「休暇を取ることを選ぶしかなかった」と振り返った。
「裁判が終わるまでは一切診療ができない状況だった。裁判中は不安で、いつまで続くのか本当に心配だった。このまま続けば産婦人科医として臨床の場には戻れないと感じた」。
事件当時の指導教授で昨年6月に亡くなった福島県立医科大の佐藤章名誉教授に対しては「命懸けで守ってくれた。感謝の気持ちは言葉で言い尽くすことはできない」と述べ、他の数多くの医療関係者にも感謝の言葉を連ねた。


◆刑事裁判の無罪事例から学ぶ
 日医総研シンポ

 24日の日医総研シンポジウムでは、福島県立大野病院事件だけでなく、刑事訴追された後に無罪判決を得た他の事件の当事者らも登壇し、医療事故での刑事裁判の問題点などを指摘した。

 東京女子医科大病院で心臓手術を受けた12歳の女児が死亡した事故では、人工心肺装置の操作ミスによる脱血不良が原因として、装置を操作した佐藤一樹医師(現・いつき会ハートクリニック)が業務上過失致死罪に問われ、2002年6月に逮捕された。
この事件で検察側は、心臓外科の専門医を除く非専門医で構成した大学の内部委員会が作成した報告書の内容に基づいて佐藤医師を起訴。
弁護側が医学水準に基づいた事実認定を求めた結果、検察側の主張は退けられ、09年4月に佐藤医師の無罪が確定した。

○「医学的観点より患者側の説得が優先」

 佐藤医師は院内事故調査報告書の問題点として「医学的観点からの原因分析よりも患者側を説得させる説明が優先される」と指摘し、病院開設者側の都合で作成されるとの懸念を示した。
その上で報告書を発表する絶対条件として、委員会は調査終了前に当事者から意見を聞き、同意拒否権を担保する必要があるとした。
委員会と当事者の意見が異なる場合には、当事者意見の要旨を報告書に添付することも必要と提言した。

善意の結果「刑事責任問うべきでない」

 杏林大の「割りばし事件」について、当時、患児を診察した耳鼻咽喉科医を指導していた長谷川誠・元杏林大耳鼻咽喉科教授は、無罪判決までの事実認定の過程を説明。
医学的には世界的にも前例がない極めて難しいケースだったと振り返り「善意に基づいた医療行為の結果については、刑事責任を問うべきではない」と繰り返した。
また、マスメディアによる強力なバッシングが担当医の人生を棒に振る結果に追い込んだと悔しさをにじませた。

 シンポは「さらなる医療の信頼に向けて―無罪事件から学ぶ」をテーマに、東京都内の日本医師会館で開かれた。
47都道府県から参加があり、会場に入り切らない参加者のために特設会場も用意された。
日医はシンポで「医療事故調査に関する検討委員会」がまとめた医療事故調査制度創設の提言を説明した。


◆院内調査委と第三者機関は併存で
 東京大・樋口教授

 東京大大学院法学政治学研究科の樋口範雄教授は24日、医療事故調査制度の在り方について「第三者機関をつくって院内事故調査委員会と協調し、競争させるべきだ」と述べた。
東京・本駒込の日本医師会館で開かれた日医総研シンポジウムで、医師法21条をテーマに基調講演した。

 厚生労働省「診療行為に関連した死亡の調査分析モデル事業」運営委員会の座長を務める樋口氏は、院内で発生した事故を院内で調査できないようでは困るとして院内事故調査委の必要性をとなえた。
ただ、院内調査委の調査は身内に甘くなることも考えられるため、第三者機関の創設は必須だとした。
院内調査委と第三者機関で見解が分かれることがあるが、医学の進歩で将来的に正解が導かれることもあると説明した。

 第三者機関については「日本全体をカバーすることは難しいが、小さなものを1つつくり安全弁とする。ただし、そのコストはかけざるを得ない」と述べた。

(メディファクスより)

by internalmedicine | 2011-07-30 08:07 | 医療一般  

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