骨粗鬆症の身体所見検査スクリーニング

検査の優劣を示す指標として感度・特異度・尤度比が有ります。
(参考:http://www.med.nihon-u.ac.jp/department/public_health/ebm/ce206.html

しかしながらもっとも重要なのは検査前確率で、このことをわかってない人が多い。それで検査・診断プロセスに齟齬をきたすことが多いのです。私が人間ドッグというのが嫌いなのはそのためです。もし人間ドックというのが論理性をもって成立するとするならまず、検査をする前に十分な検査前情報を入力した上でもっとも効率の良い検査メニューを紹介するというシステムしかないと思います。

感度・特異度・尤度比などを明示していない検診システムは詐欺と同様です。

JAMAに骨粗鬆症のスクリーニング方法としてのおもしろい論文があります。身体所見によるスクリーニングはその辺で行われている超音波による骨粗鬆症検診よりはるかに優秀ということがわかります。

この女性は骨粗鬆症かどうか?(参照:http://jama.ama-assn.org/content/vol292/issue23/images/medium/jtw40043f1.jpg
JAMA. 2004;292:2890-2900.
http://jama.ama-assn.org/cgi/content/abstract/292/23/2890?view=abstractfp=2890&vol=292&lookupType=volpage
2名の観察者が独立して行ったもの。
さらなる検査なしで骨粗鬆症や、脊椎骨折を除外するのに十分な単独な検査方法はない
LR+:
・51Kg未満 7.3(95%CI 5.0-10.8)
・歯の数20未満 3.4(95%CI 1.4-8.0)
・肋骨-骨盤距離<2指幅未満:3.8(95%CI 2.9-5.1)
・壁-後頭部距離(http://images.google.co.jp/images?q=wall-occiput%20distance%20&hl=ja&lr=&client=firefox&rls=org.mozilla:ja-JP:official&sa=N&tab=wi) > 0 cm:4.6 (95% CI 2.9-7.3)
・自己報告猫背: 3.0 (95% CI 2.2-4.1)

【結論】
推奨されている骨密度スクリーニングに合致しない患者で、いくつかの簡便な所見、特に低体重は骨粗鬆症の存在の可能性が高く、早期検診の必要性を示唆。
壁-後頭部>0cm、肋骨-骨盤距離<2横指は椎体骨骨折の存在を示唆。

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よく検診でやられる超音波法(http://www.rada.or.jp/database/home4/normal/ht-docs/member/synopsis/030092.html)は
“T-Scoreが-1.52、感度0.66、特異度0.69”
http://www.med.kindai.ac.jp/pubheal/sahara99/021.htm
・・・尤度比は2.12です。

なんということでしょう、無駄が行われているのです。
(リフォーム番組みたいだなぁ・・・:もっとも住宅改修をリフォームというのは和製英語らしいが)


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骨粗鬆症治療の第一目標は骨折予防ですが、骨粗鬆症の診断基準は骨塩そのものなわけなので、微妙に方向性が違うのです。最近は骨代謝回転という要因も加味して分けようとしております(http://www.yamanouchi.com/jp/shinyaku/pdf/436_17.pdf
今回のJAMAの論文は、骨折と骨密度を両方に触れているのはさすがでしょう。日本の論文は骨密度の増加だけで終わってしまっているのも多い。



検診に関して地方自治団体の役人が十分医療関係者の意見を吸い上げて構築しているのか非常に疑問なことが多いのです。エビデンスのない検査器具を販売するメーカーが巧みに検診に入り込んでいることがあります。農林省の直属研究所が“血液どろどろ”検査機器まで手をだしている時代だから仕方がないのかもしれません。
検査というのは、事前確率に基づいて、どれほどの異常者をひろうか、あるいは、見逃し率はどの程度なのかを念頭に置いて、対象者を検討した上で行われるべきもので、十把一絡げの検診ほど無駄なものはない。それをわかってない。

by internalmedicine | 2004-12-15 10:32 | 運動系  

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