高齢者は孤独を感じたとき“抑うつ”は致死的となるのか?
2005年 01月 05日
Is Depression in Old Age Fatal Only When People Feel Lonely?
Am J Psychiatry 162:178-180, January 2005
http://ajp.psychiatryonline.org/cgi/content/abstract/162/1/178
目的:老人の抑うつ・自覚された孤独感のインパクトは大部分不明。老年期に於ける抑うつと全原因死亡率、とくに自覚された孤独感の潜在的影響について検討。
方法:前向きの住民ベースの85歳時の研究。
結果:うつが23%で存在し、結婚の状態、施設利用、孤独感と関連。
うつや孤独感をフォローアップ時評価すると、うつも、孤独感も死亡率には重要な影響を与えない。しかし、うつ・孤独感になやむ人たちは死亡リスクは2.1倍高い。
結論:このデータは、孤独感を自覚する抑うつの状態に寄与する死亡リスクの増加は、モティベーションの欠如に起因すると思われる。
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google scholarで“loneliness mortality”を検索すると
http://scholar.google.com/scholar?q=loneliness+mortality&ie=UTF-8&oe=UTF-8&hl=en&btnG=Search
と多く検索されます。
老後の孤独感というのは公衆衛生上の問題として取り上げられ、アルコール症(http://www.ilcusa.org/_lib/pdf/Butlerjune98.pdf)や家庭内暴力(http://www.blackwell-synergy.com/links/doi/10.1111/j.1365-2648.2003.02968.x/abs/;jsessionid=kXMyrgz8zA25)など・・・
英国の調査では65歳以上では約10%の人が“孤独感”を有する。
(http://www.ageing-in-europe.de/RN_abstracts_helsinki.htm)
ということで、かなりコモンな状況であることが示唆されます。
“孤独感”の疾病への関与
http://psychology.uchicago.edu/socpsych/faculty/jtcreprints/hc03.pdf
社会的孤立は癌の合併症・死亡率、心血管疾患、他の疾病原因の予測因子であり、社会との関係の健康へ与えるインパクトに関してはそのメカニズムははっきりしない。
社会との関係と生理学的プロセスという観点から見た、この問題に特異的な概念化(conceptualization)・操作性(operationalization)の欠如によることも原因の一つである。
社会的孤立が自覚された場合、主に、“孤独感”となるが、その病因と生物学的検討を組み合わせるレベルの解析がある。
3つの病前経路が示されている。
・health behavior
・excessive stress reactivity
・inadequate or inefficient physiological repair and maintenance processes.
自律神経、内分泌、免疫機能の経験的エビデンスにより、“孤独感”の生理学的影響は長い期間展開される。癌患者にとって、介入は、疾患の迅速なdemandに対するサポートを目的に施設的サポートが必要となる。
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配偶者を亡くしたときの抑うつ状態はよくみられるし、その後の死亡率増加とも関連があり、特に男性ではその影響が顕著。
死亡後の配偶者の孤独感防止というのが、公衆衛生上重要な問題として浮上しております。
日本において、老人の孤独感を社会レベルで、補助するというシステムは、高齢者生き甲斐対策なのでしょう。老人会や敬老会から地域での茶話などもう少し大事にしてあげてもいいのじゃないかと・・・
世代を超えた対話なども・・・
重要だと思います。
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日本では、地域という狭義のコミュニティーの崩壊が問題になっています。強力な工業先進国・都市機能優先という現状で、年代重層的なコミュニティーは若者から嫌われ、傲慢なエゴイズムが顕著となり、地域の商工会・青年団、祭りなどは一部を除いてノスタルジーとなってしまいました。
しかしながら、地域のコミュニティーの崩壊も大事ですが、まず、“孤独感”解消を促す新しいコミュニティー形成も必要なのではないのかと考えます。重畳的なコミュニティーの形成が有用なのではないでしょうか?
“net community”
http://www.google.co.jp/search?q=%22net+community%22&hl=ja&lr=&client=firefox&rls=org.mozilla:ja-JP:official&start=10&sa=N
は、ネット・リテラシーの問題もあり、現時点では地域という本来のコミュニティーの代換にはなり得ないと思いますが、
良質な“net community”は、孤独感を一部解消するようです。
たとえば、わたしの父母は孫とのメールのやりとりで気が紛れるようですし・・・
(科学的でないなぁ・・)
お役人様、地方の老人の孤独感解消のためにも、地方のネット充実をお願いしますだぁ・・
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ビートたけしが現れた頃からでしょうか?老人を面と向かって嘲笑することがテレビなどで公
然と行われてきました。メディアは抑制するどころか、彼を重用しつづけてきたわけです。
バブルのころ、すなわち、マネーゲーム優先の時代です。
そのバブルの絶頂期を代表する御仁が、老人を対象とする介護保険事業に手をだしたのは皮肉的と言わざる得ません。そして、リース会社の経営者が今度は医療へもうけ口を求めて、保険制度崩壊を求めているのです。
それから20年超・・・バブルの主役、団塊の世代が定年退職を迎えようとしております。彼らの世代が嘲笑しつづけた老人となる時代が近づいているわけです。人生の先輩である老人に対するリスペクトを忘れた社会はエントロピーの増大のごとく元には戻りません。負の連鎖が世代を超えて続くわけです。
さて、今後、この世代の人々は、自らもまねいた地域というコミュニティーの崩壊と、ネットなどの新たなコミュニティーの萌芽の中、“孤独感”に対してどのように向き合っていくこととなるのでしょうか?
by internalmedicine | 2005-01-05 10:57 | 医学