MRSA伝播を防ぐための個室隔離・コホートは無意味
2005年 01月 08日
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MRSA伝播を防ぐための個室隔離・コホートは無意味
Isolation of patients in single rooms or cohorts to reduce spread of MRSA in intensive-care units: prospective two-centre study
http://www.thelancet.com/journals/lancet/article/PIIS0140673605177836/abstractMRSAによる院内感染はICU内ではコモンである。伝播を防ぐため感染・コロナイズされた患者を個室への移動、cohort(同種感染症だけの部屋に集めること)・隔離することが行われているが、そのベネフィットは他の予防処置を凌駕するほどの効果ああるか不明であった。
MRSA伝播を防ぐために感染・コロナナイズされた患者を部屋移動させる・させないことの効果を評価したもの。
【方法】ティーチングホスピタルのICU1年間の前向き研究。MRSAコロナリー形成の頻度評価のため週毎のスクリーンを用いた。中間の6ヶ月、MRSA患者を他の多剤耐性菌や注目すべき病原体がなければ個室やコホート(感染者病室)へ移動せず、個室やcohortへの移動をさせなかった。手洗いを励行させ、コンプライアンス監視した。
【結果】患者背景やMRSA獲得頻度は部屋移動の有無にかかわらず同程度。
粗Cox比例ハザードモデルでは部屋移動を行わない期間の伝播増加の証拠はなかった(0·73 [95% CI 0·49-1·10], p=0·94 one-sided)
MRSAの特異種の伝播も手洗い頻度も、管理方法の違う時期間での変化無かった。
【結論】MRSA陽性患者を個室・感染病室へ移動させることは「交差感染(CrossInfection)」を減少させない。重症患者を移室やisolationすることはリスクを増やすこととなるので、MRSAがendemicであるICUでisolation policyの再評価が必要と示唆され、MRSAの伝搬予防のより有効な方法が必要とされる。
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現在は、どこの医療機関の感染対策も、MRSA保菌者はともかく、さすがにMRSA感染者に対しては隔離が基本だと思います。
たとえば、“個室隔離が不要と判断される場合とは, (1) MRSA保菌部位からの飛散の恐れがない, (2) MRSA保菌部位が完全に被覆可能で, 処置時にも飛散の恐れがない, (3) 同室内の患者にMRSA感染リスクの高い易感染性宿主がいないような場合”というように・・・
実は、呼吸器の医者のはしくれとしては強調したいのですが、“メチシリン感受性黄色ブドウ球菌(MSSA)とくらべてMRSA(メチシリン耐性黄色ブドウ球菌)は臨床症状、予後はほぼ同等”なのです。
(http://www.ncbi.nlm.nih.gov/entrez/query.fcgi?cmd=Retrieve&db=PubMed&list_uids=10524959&dopt=Citation)
たしかにやっかいな菌がひとつ増えるよりはない方が望ましいことは確かですが、ことさらMRSAだけを問題視するのはおかしい。そのことにより、真に必要な治療を阻害し、その人の予後をわるくする可能性があるということも有るのです。
そういうことを示唆してくれた文献と言うことで興味深い文献でした。
常在感染化したMRSAを、保有(コロナイゼーション)=感染と勘違いして、多大の費用と手間を医療機関にかけさせ、介護保険利用時にMRSA保菌ということで現場にとまどいを生じさせる弊害を作り、メディアは医療不信を増長させるという側面もあります。MRSAが検出したら、鬼の首をとったごとくさわいでいるマスコミやアンチ医者もいるようですが、騒ぐときには、人権を配慮し、保菌状態と感染を区別して、今回の論文も参考にして頂きたいものです。
by internalmedicine | 2005-01-08 16:21 | 感染症