集団検診としてみたトランスアミナーゼ異常とNASH



肝機能異常をASTやALTなどのトランスアミナーゼ異常に使うのはちょっとはばかられるのですが、慣習的に用いられています
住民検診・人間ドックなどで、その後のdecision makingをなにも考えずに行われている場合、現場に混乱をもたらすだけです。
C型肝炎のウィルス検診では大量の無症候性のHCV感染症をあぶり出しました。それはmassやpopulationとして考えたときに意味のあることなのでしょうか? また、無症状かつトランスアミナーゼ異常を示す検査値異常を指摘されたがウィルス学的検査では陰性の対象者をどうすべきか非常になやむわけです。でも、重大な鑑別診断として、NASHがあがっていることは確かですが、疾患特異的な治療アプローチがあるかというと疑問ですし
“慢性肝炎診療のためのガイドライン”はまだこのNASHを正面から取り扱ってないと思います。

Should a liver biopsy be done in patients with subclinical chronically elevated transaminases?
Eur J Gastroenterol Hepatol. 2004 Sep;16(9):879-83.

をもとにした、journal watchのsummaryから

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USでは2.8%が異常ということで、90%が無症状です。NASHを有するALT上昇を有する患者の増加があり、この病体は肝生検だけで診断できるものである。
肝生検に関わる費用と合併症を考えれば、臨床的と生化学的ファクターが
Given the expense and morbidity associated with liver biopsy,
研究者たちは臨床的・生化学的ファクターがTransaminase増加している疾患なしの生検必要な個人を、繊維化程度を判定し、NASH診断確立のため区分けできるかを研究している。67名の血清学的な検査陰性で6ヶ月以内のALT増加を後顧的に検討。60%が無症状、のこりは症状のばらつきがみられる。14名(21%)は高度繊維化NASH(fibrosis score ≥2)、13名(19%)は軽度繊維化、6名(9%)は重症だがunexplained fibrosis、34名(51%)は正常組織
ASTは正常範囲以上と、ALT増加正常域の2倍以上では有意に重症の繊維化と相関(オッズ比 12.1、7.4)
BMI25kg/m2ではオッズ比7.5だったが、trasnferase値はNASHと有意に相関せず

肝酵素の慢性的な増加の多くは、血清学的に潜在的な疫学は同定できる。経皮的冠生検は、CHC患者では一般的には推奨されるが、それは肝酵素では組織を推定できないからである。
血清学的な陰性患者では、画像診断は軽度-重度繊維化、脂肪肝を有する患者か、NASHを有する患者かを鑑別できない
正常より高いAST、正常上限の2倍、片方・両方を満たす場合でBMI増加している患者では繊維化の程度するためには生検すべきである。
2型糖尿病患者の予後因子として評価した場合、NASHとの相関はもっと有意にでるだろう。2型糖尿病患者には肝生検をと推奨する。
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このjournal watchの記述はなにもかも肝生検のようです。


C型肝炎では肝硬変までシームレスな病態であること、また平成10年12月より一部のインターフェロンで肝生検が不必要となりました。そして、今回念頭に置かれているNASHは肝生検のみが実質診断可能な診断方法で、一番正確かつ信用できる肝炎の診断法であることはまちがいないのではあります。
でも、検査コスト・合併症から治療予後までトータルに考えたときのcost/benefit、cost/efficacy、cost/effectはどうなのでしょう。
BMIが明らかに高く、AST↑・ALT上限2倍以上↑の時に、他の肝疾患を血清学的に除外し、生活指導やベースの疾患コントロールを厳重にしたときと、肝生検リスクやコストを考慮したときの検討が必要とおもわれるのですが・・


肝生検の死亡率リスクは0.01-0.1%、合併症は0.1%
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http://annals.org/cgi/content/full/118/2/96
Ann Int Med 15 January 1993 Volume 118 Issue 2 Pages 96-98
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N Engl J Med, Vol. 344, No. 7 February 15, 2001
(なぜか総説のフルテキストPDFが・・・)


http://digestive.niddk.nih.gov/ddiseases/pubs/nash/#diagnosis
アメリカ人の2-5%、脂肪肝(炎症や肝臓のダメージがない)は10-20%。
肝臓に脂肪が蓄積していることは決して正常ではないが、それ自体が害をもたらしダメージを持続性の生じさせている。肝臓のスキャンにて診断できるのは通称、nonalcoholic fatty liver disease (NAFLD)。肝生検は単純な脂肪肝とNASHを鑑別する手段となる。
http://www.ncbi.nlm.nih.gov/entrez/query.fcgi?cmd=Retrieve&db=PubMed&list_uids=10573511&dopt=Citation
年齢(P =. 001)、肥満(P =.002)、糖尿病(P =.009)、AST/ALT比>1 (P =.03)が有意な繊維化推定因子
BMIは唯一の独立した脂肪浸潤の程度を示す因子(P =.003)
transferrin saturationは繊維化と単変量では相関(P =.02) 、高度線維症の女性ではその傾向がある (P =. 09)。鉄や性別では有意な差はなかった。


組織診断の提案例
http://www-east.elsevier.com/ajg/issues/9409/ajg1377fla.htm


京都大学の肝移植事例
http://www.mhlw.go.jp/shingi/2003/10/txt/s1015-2.txt

http://jspk.umin.jp/27/27thB.html


日本では腹部超音波が多数なされ、NAFLDが多く見つかってます。それに対する、decision makingの検討もなされてないと思います。


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by internalmedicine | 2005-02-02 12:44 | 消化器  

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