むちうち≠ 低髄液圧症候群(脳脊髄液減少症)と思うのだが・・
2005年 05月 17日
<むち打ち症>実は「脳脊髄液減少症」と、全国で訴訟相次ぐ
http://dailynews.yahoo.co.jp/fc/domestic/traffic_accident/
(expireのため・・・Google cacheが残ってる時まで・・・>こちらへ)
この記事は、「むちうち症」と診断された被害者が、「脳脊髄液減少症」という病名を主張し、民事上の問題、今後は刑事罰にも影響を及ぼす可能性があるというもので・・・
この「脳脊髄液減少症」なる病名をぐぐると、専門家のページより、“被害者”団体やマスコミのウェブが多いのですが・・・
読売新聞によれば
http://www.yomiuri.co.jp/iryou/renai/20040504sr11.htm
“まだ、医学界で、ほとんど認知されていない・・・とのこと(強引な読売らしい記事・・・知らん医者がわるいような書き方です・・・JR西のインタービュー記者を彷彿と・・)
低髄液圧症候群(脳脊髄液減少症)は患者団体のページでは、“脳神経外科の権威ある雑誌に掲載された”とのことで、さっそくお勉強・・・・ところが・・・
当該ジャーナル
↓
Quantitative analysis of radioisotope cisternography in the diagnosis of intracranial hypotension
Eiji Moriyama, Tomoyuki Ogawa, Ayumi Nishida, Shinichi Ishikawa, and Hirochi Beck
http://www.ncbi.nlm.nih.gov/entrez/query.fcgi?cmd=Retrieve&db=PubMed&list_uids=15352599&dopt=Citation
─────────────────────────────────(一部のみ拙訳)
目的:低脳脊髄液圧診断の正確な診断のための通常の放射性同位元素脳室造影の定量的分析を試みた
方法:57名の低脳脊髄液圧疑いの57名の患者に放射性同位元素による脳室造影を施行。
111In-diethylenetriamine pentaacetic acidイメージを2.5、6、24時間
25名患者で脳脊髄液の放射能測定をスキャンニング中計測、放射性同位元素のクリアランスを検査。
多くのリークは腰椎仙椎領域で認められる。
放射性同位元素クリアランスbの分析にて2つのパターンが明らかになった。
レントゲンにて放射性同位元素のリークが認められなかった患者では、絶対的な指数カーブが見られた(R2 > 0.99)
放射能減少の活動性はe(-003)からe(-0.107)で低下する(平均 +/-SD e(-0.056 +/- 0.018;))
明確な放射性同位体のリークを有する患者のクリアランスは指数カーブでなく、急速相と遅延相に分けられる。
初期6時間はe(-0.219 +/- 0.127) (25 patients) 、後期は e(-0.076 +/- 0.021)
著者らは、異常なCSFの漏出による放射性同位体の早期減少は、外傷後の脊髄硬膜破壊によるというような、減少によるものと考察している。
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たしかに、一見、理路整然とした論文ではあるが、
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対照のないいわゆる仮説提示論文であり、
正常対照がない放射性同位体による値の変動だけを測定しただけであり、なにが黄金律なのかもはっきりしないし、当然、検査の妥当性がはっきりしない。
実地的にはこの検査による感度、特異度などは対照がないため全く提示できない。
リークの場所が明確でない(著者の推定では腰仙骨部)
圧≠リーク:論文では終始リークのことしか問題にしていない
検査ができましたという論文であり、決して疾患を提唱するような論文でもないし
疾患カテゴリーや診断の基準を示した論文でもない
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というポイントがあると思います。
むちうちに関しては、「外傷性頚部症候群とは,労働災害や交通事故などの外傷によって起こった頸部周辺の呼ばれる疾患を言います。かつて ”むちうち損傷”とよばれ・・・」(http://www.kijima.ac.jp/iin/i/sub4.htm)というのが一般的と思いますが、この論文では、“Most leaks were located in the lumbosacral region”、すなわち、腰仙骨部位がほとんど とかかれてます。外傷性頚部症候群とは部位的に離れすぎているのです。交通外傷で、当然腰仙椎部外傷するひともいるので、当然そういう疾患の人もあり得るでしょうが、むちうち= 低髄液圧症候群(脳脊髄液減少症)というのはあやまりと考えられます。腰仙骨部外傷の中にはいるかもしれないが・・・
職業柄、保険会社からとの関係に非常に苦労して、個人的には保険というものをあまり信用しておりませんが、今回の事例はEvidence-basedにも、また、Text-baseにもなってないやや先走りと思われる事例を、要求するというのはいかがなのでしょう?
マスコミがこんな新しい病気をしらんのか・・・ばか医者どもが・・・って番組をやったのでしょう。その残骸がWeb上の残っておりますが、系統的にその疾患の存在が妥当なのか、また、その診断の基準は、そして治療方法は、そして治療予後は・・・と検討しないと、民間の交通事故賠償保険どころか、公的医療保険崩壊に跳ね返ってきます。朝日新聞などは、交通事故賠償保険より公的保険を利用することを勧めている記事を書いたことがありますし、産業災害事故の担当者公務員も同様の発言をしておりました。
医療保険崩壊は、政府主導的な感も否めませんが、現時点のエビデンスに基づかない医療行為をそのまま保険で認めよというのは、まわりまわって、公的保険の崩壊をさらに促進することにつながります。
この低髄液圧症候群という病名に関して、いまひとつ私は納得がいかない・・・
by internalmedicine | 2005-05-17 15:14 | 医療一般