知性は老人を必ずしも幸福・不幸にしない

IQというのが考案されたのも、実は、IQが高い方が幸福であるという仮説により始まったらしい・・・文献のReplyをみて、後述の論文の意味がわかりました。



Louis Termanらは“知能指数”(IQ:intelligence quotient)を提唱し、Stanford Binet Testというように発展させた。Termanらは高いIQを持つ子供は後年健康的でより長寿となるだろうと想定していたのである。天才を精神異常であり、「early ripe, early rot"」(早熟・早期腐敗)と考えていた多くの人は後年幸福な人生の阻害となるだろうと考えた。1925年それに対してTermanはIQ135名の11歳の子供たちにインタービューし、良く調和のとれた、適応能力のある、幸福に満ちた、健康な子供たちであると公表した(1)。研究はその後も続けられ、性生活、政治意識、所得、宗教的信念、身体的・精神的健康、生活や結婚の満足度にその範囲を広げ、80年続いた。この記録の分析で高いIQは必ずしも長寿を意味せず、being conscientious (実直であること)が生命予後改善効果を示すものであった。
自尊心や快活さのような他の性質が詳細にHowardらにより分析(2)され、中年時結婚していることが健康的に老年をすごすことを予測するものであった。50歳の幸せな結婚は80歳のときの幸せな老化の指標であり、メンタル的に活動性を維持すること、友達を多く持つことが、もう一つの幸福な因子であった(3)。Mayo Clinicの研究者たちはポジティブで楽観的な態度は悲観的な態度よりより幸福で、高齢でも幸福であると結論づけている(4)。

<この部分の引用文献>
1.Terman, L.M. (1925). Mental and physical traits of a thousand gifted children. Stanford, CA: Stanford University Press.

2. Friedman, H.S. (2003). Healthy life-style across the life-span: The heck with the Surgeon General! In J. Suls & K. Wallston (eds.), Social Psychological Foundations of Health and Illness (pp. 3-21). Boston: Blackwell Publishing.

3. Vaillant G. Aging Well (2003). London: Little Brown & Co.

4. Maruta T, Colligan RC, Malinchoc M, Offord KP Optimism-pessimism assessed in the 1960s and self-reported health status 30 years later. Mayo Clin Proc. 2002 Aug;77(8):748-53.
http://www.ncbi.nlm.nih.gov/entrez/query.fcgi?cmd=Retrieve&db=PubMed&list_uids=12173709&dopt=Citation






で、本来の文献

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若いとき知性も、年取った時に知性も、老人を必ずしも幸福・不幸にしない
Intelligence doesn't make older people (un)happy

幸福に年をとるとは? 現在の意見としては、“知能は...老年期において、生活の質の関連としては必須”である。知能は年少期における知能と関連があり、若年期の知能からの(加齢に関連した知能の)減少に関連する。若年時の知能も老年期の身体健康、生命予後とも関連する。
しかし、人生の幸せと満足度の両方とも、幸せに年をとることとの鍵となることは確実。
幸福は、“人間の行動の、最善かつ究極のモティベーション”と記載され;
このことは現在の知能とは関連がない。

若年時の知能レベルと障害における認知機能変化の総量は晩年の認知機能の重要な因子である。これらの要因が人々が幸福であるかと関連あるかどうかを調査したもの


痴呆なしの人々の中で、11歳・79歳の認知能力、障害の認知機能の変化いづれも老年期の生活の満足度と相関がなかった。 GowらはLothian birth cohort 1921という生活満足度を評価するライフスケールを用いて、現在老人である550名を調査。インテリジェンスは幸福の予測因子とならないが、成功する老化(successful ageing)を向上させるための他の要因の理解が必要。

http://bmj.bmjjournals.com/cgi/content/full/bmj;331/7509/141
BMJ 2005;331:141-142 (16 July)
Lothian birth cohortは550名の比較的健康なグループで(平均MMSE 28.2(SD 1.7) 18-30)。同様なmental abilityのテスト(Moray House test number 12)を10.9(0.3)と79.1(0.6)歳で比較し、三つの認知測定(cognitive measures):early life ability、late life ability、lifetime cognitive changeを行った。
このMoray House testスコアをIQsに変換し、年齢補正した。
11歳のIQは79歳のIQと一次回帰。
life scaleを用いた満足度評価を行いった

認知機能と生活満足度の完全なデータが得られた参加者415名、男性42.5%。MMSEスコア<24で7名除外。生活満足度と11歳のときのIQの相関、79歳のIQ両者とも統計学的な有意差無し。
ライフスケールと11・79歳の認知変化量との相関は若干あるが有意差はない(r = 0.05, P = 0.30)。男女間の差もない。

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知的能力が長けていると、すべてにおいてプラスになるものとおもったものが、どうもそうではない。むしろ誠実さが、快活さが、楽天性が、そして、そして幸せな結婚が、多くの友人が、人生の最終時候において、その人生の満足度をもたらすものである。

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ちょっと改変すれば結婚式のスピーチにでも使えそうですな。










言葉狩りのおかげで、cognitive という用語の訳にとまどうようになりました。
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Goo
にんち【認知】(名)スル(http://dictionary.goo.ne.jp/search.php?MT=%C7%A7%C3%CE&kind=jn&mode=0)
(1)それとしてはっきりと認めること。
「目標を―する」
(2)法律上の婚姻関係にない男女の間に生まれた子を、親が戸籍法の手続きによって、自分の子と認めること。自発的に行うことを任意認知、裁判による場合を強制認知という。
(3)〔心〕〔cognition〕生活体が対象についての知識を得ること。また、その過程。知覚だけでなく、推理・判断・記憶などの機能を含み、外界の情報を能動的に収集し処理する過程。


にんしき【認識】(名)スル(http://dictionary.goo.ne.jp/search.php?MT=%C7%A7%BC%B1&kind=jn&mode=0)
(1)物事を見分け、本質を理解し、正しく判断すること。また、そうする心のはたらき。
「経済機構を正しく―する」「―を新たにする」「―に欠ける」
(2)〔哲〕〔英 cognition; (ドイツ) Erkenntnis〕人間(主観)が事物(客観・対象)を認め、それとして知るはたらき。また、知りえた成果。感覚・知覚・直観・思考などの様式がある。知識。
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知的機能を表すのはどちらがよりよいのか
“cognitive 認知"”約 26,700 件
“cognitive 認識”約 12,700 件
ということで、暫定的に認知と訳しました。

若年時のIQが高ければ、Incomeも大きそうなのですが、階層固定化しているイギリスという要因も考慮した方がいいかも・・・と想像。

個人情報うんぬんという縛りがなければ1950年代後半あたりから日本でも子供の頃のIQ調査はされているわけで、現在の老年世代も調査されいるはずだし・・・

by internalmedicine | 2005-07-15 11:50 | 医療一般  

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