「職場高血圧」・「仮面高血圧」という造語にご用心

「職場高血圧」にご用心 健診「正常」でも仕事中は上昇
http://www.asahi.com/life/update/0721/007.html


この記事をみて、はっとした。なにか新しい研究結果でも発表になったのかと・・・

ではなかった。一人の医師が自説をのべているにすぎないことがすぐわかった。

疾患とか病態というのは、その後の予後やQOLに影響がある場合にのみ使うべき言葉であり、血圧がストレスなどで上がる現象がその後に影響をあたえるかどうかというのはその疫学データがなければわからないはずである。

"仮面高血圧"なる造語を作り上げ、睡眠時無呼吸などを除外せずに、自らの病院に受診する一群を対象にしているようである。これはα1遮断剤の宣伝に結びついているのだから始末が悪い・・・


新聞記事というのは読者を楽しませるための娯楽も提供せねばならないようだが、これは娯楽記事であり、一医師が妄言(訂正:私的な考え)を披露しているのにすぎないのである

まぁこういう私的な造語にふりまわされている全国各地の高血圧専門家がいるということも情けない話である。なにせ、桑島氏は全国各地を仮面高血圧をひっさげて学術講演会とやらをおこなっているのである。

そして、疑似科学的な新聞記事のいい加減さそのものも・・・そろそろ糾弾されてもいいと思うのだが・・



あえて桑島氏を弁護すれば、白衣高血圧と違い、昼間に高い血圧にさらされているとどうなるのか、その予後はどうなるのかという今後の研究テーマを世間に問うたものであろうと・・・みなさん、24時間の持続血圧測定はじゅうようですよと啓発することを前面に・・・となるのだが・・・紙面にはそういう謙虚さは現れていない。


朝日新聞記者の強引さなのか、氏自身の強引さなのか・・・


さらに言えば、以前言及した(http://intmed.exblog.jp/1516713/)が、”仮面高血圧”という氏の造語は英語訳すれば"masked hypertension"と混同されやすい。
masked hypertensionのほうは、このcitation map(http://hyper.ahajournals.org/cgi/citemap?id=hypertensionaha;40/6/795)をみてもオリジナリティーがあるとはいえない。・・・・そういう前科があるのである。





office hypertensionという医学用語は、一般のかたに“職場高血圧”と誤解されそうであるが、
白衣高血圧:「白衣高血圧(white-coat hypertension)」として広く知られているが、「診察室高血圧(isolated office hypertension)」の用語の方が望ましい。
という表現が引用されている如く、診療室での高い血圧の現象を呼ぶわけだが、これとの混同も予想され、桑島氏・朝日新聞は罪深い。今回も仮面高血圧と同じ事をやろうとしているのであろうか。


なお、参考のため2004年のあるレビュー(Eur J Intern Med. 2004 Oct;15(6):348-357.)をあげておく。
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白衣高血圧(WCHT)、いわゆる 'isolated office or clinic hypertension'は、医療環境で測定する場合に正常より高い値を示す場合を呼ぶが、昼の正常範囲は通常ABPや自宅血圧の値(収縮期血圧<135 mm Hg、拡張期血圧< 85 mm Hg)
WCHTの頻度は15%から50%超まで様々。未治療高血圧患者では、WCHTの頻度は女性、軽度OBPレベルが多い。(非)喫煙状況、高血圧の期間、左室容積、OBPの数、教育レベルなどの他の因子が一定してみられていない。WCHTの長期影響の研究の解釈が容易でないこと、正常血圧より悪化もしくは同等というデータがほとんどである。
WCHTが時折、前高血圧状態であるといおうことも考慮される場合があるが、確認できるデータがほとんどない。WCHTかつ高心血管リスクの患者もしくは目標臓器障害が判明している場合は薬物的に治療すべきである。しかし、合併症のないuncomplicatedの状態では、薬物治療は投与されるべきない、しかし、定期的な他のリスク要因の評価とともに、厳格なるフォローアップ、6ヶ月毎のOBP測定、1-2年ごとのABPが推奨される。
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ストレスと心血管障害の関係は重要なキーポイントだと思うが、個人的な造語で研究環境をみだすのはいかがなものだろうか?


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以上、朝日新聞に抗議メールを送ったがなしのつぶて(H17.7.30追記)

by internalmedicine | 2005-07-21 09:58 | 動脈硬化/循環器

 

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