新生児蘇生 純酸素 vs 室内空気

呼吸停止というのは異常事態であり、ACLSでは純酸素?という常識だと思ってたのだが、新生児呼吸停止の蘇生においてその常識が覆ろうとしているかも・・・(まだ、確定的なエビデンスはないようだが・・)

International Guidelines for Neonatal Resuscitation(PEDIATRICS Vol. 106 No. 3 September 2000, p. e29:http://pediatrics.aappublications.org/cgi/content/full/106/3/e29%20)でも以下の記載がある。
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酸素・換気:100%酸素が補助呼吸の時推奨される;しかし、酸素が利用できないときは、陽圧換気を室内空気で開始しなければならない。
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無数の動物実験と2つのヒトの研究(Vento,2001 and Vento, 2003)で、酸素を用いた蘇生で酸化ストレスの生化学的な証拠が挙げられてきている。 しかし、重症の呼吸停止において、肺血管抵抗や他のアウトカムに関する、酸素vs室内空気蘇生の比較研究はない。
http://www.aap.org/nrp/pdf/airvsoxygen.pdf


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Room-Air Resuscitation Causes Less Damage to Heart and Kidney than 100% Oxygen
American Journal of Respiratory and Critical Care Medicine Vol 172. pp. 1393-1398, (2005)
http://ajrccm.atsjournals.org/cgi/content/abstract/172/11/1393
呼吸停止新生児の蘇生において、純酸素は、室内空気より酸化ストレスの原因となりやすい。さらに、組織ダメージと関連する可能性がある。
目的:室内空気(RAR)下と100%酸素投与(OxR)下における蘇生による再酸素化による心臓・腎臓への組織障害を重度呼吸停止時新生児において、比較したもの
非呼吸停止期新生児を対照群として比較した。

方法:前向きランダム臨床治験として、ガス混合物をマスクして行った。
glutathione(GSH)、酸化glutathione(GSSG)、superoxide dismutase(SOD)活性を酸化ストレスの指標として用いた。
血中心筋トロポニン(cTnT)と尿中NAGを心臓、腎臓の障害の指標として用いた。
2週間毎日NAG測定を行った。

両呼吸停止群は酸化ストレスを示した。
対照群と比較して
・GSH/GSSG比減少
・SOD活性のadaptive increase
・NAGとcTnT(組織ダメージのマーカー)の高値

しかし、RAR群より、OxR群はNAGとcTnTの値が有意に高値となり、GSH/GSSG比は低下、SOD活性が増加。

さらに、NAG値はOxR群の正常値より高値を維持している。
一方、RAR群のNAGは1週目で正常化する。
cTnTやNAGやGSSGの間の線形の関連が認められた。
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あくまで、組織ダメージの指標比較だけであり、臨床的アウトカムを比べたものでないため、この報告でガイドラインまで変更とは考えられないが理論的根拠にはなるのかもしれない。


最近のAmbu蘇生バッグは最近酸素リザーバ装備されてるんだよなぁ・・・
http://www.mmjp.or.jp/IMI/infant.htm

ということを思い出しつつ・・・

成人での蘇生は短期的には純酸素投与がなされてるし、実際、再呼吸バッグのないものでの蘇生をせざる得ない環境というのは疑問を感じていたものだが・・・成人ではどうなのだろう?



酸化ストレスと未熟児といえば・・・未熟児網膜症を思い出します。
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米国では1940 年より強制循環式閉鎖式保育器が普及し、低体重児の管理や予後が大きく向上しました。未熟児網膜症は1942 年にTerry によって初めて報告されました。この頃は、未熟児の管理に高濃度の酸素が用いられていましたが、1952 年にはPatz が、過剰な酸素投与が未熟児網膜症の原因であると報告しました。この1943 年から53 年の10 年間に全世界で1 万人(そのうち米国では7,000人)の未熟児網膜症による失明患者が発生しました。これを教訓として、1955 年からは酸素投与は制限され、1956 年にはAmerican Academy of Pediatrics が吸入酸素濃度を40 %以下で投与する方針を出しました。このAAP の酸素投与量がスタンダードと見られたこの期間に、未熟児網膜症に関する非常に多くの医療過誤訴訟が起こされました。米国の未熟児網膜症に関する最初の訴訟は1949 年で、以降、米国の裁判で問題となったのは、「酸素投与量や期間が過剰であった」というもので、40 %以上の酸素を使用した症例は過失と判断され、ほかに「眼底検査が行われていなかった」「眼底検査の遅れのために冷凍凝固法による治癒の機会を逸した」というものが中心で、医師は10 万ドルから100 万ドルの高額の賠償金を支払わされました。
一方、我が国ではTerryの報告から8年遅れて未熟児網膜症の第1 例の報告がありました。
我が国に閉鎖型保育器が普及したのは、酸素制限時代になってからです。米国のように未熟児網膜症の多発時代を経験しなかったために、この疾患への日本の医師の関心は薄かったものと思われます。
1974 年(昭和49 年)の岐阜地裁の、未熟児網膜症の最初の患者勝訴判決は、全国紙に大々的に報道され、医学界、法学界、社会に衝撃を与えました。
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http://www.pfizer-zaidan.jp/fo/business/pdf/forum6/fo06_008.pdf

by internalmedicine | 2005-11-22 10:13 | 医学  

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