パワーリハビリテーションに関する・・・・シリーズ(1)
2005年 12月 09日
厚労省は介護保険に生活機能障害(http://www.dinf.ne.jp/doc/japanese/intl/icf/about_icf.html)という概念を大きく導入している。(http://www.mhlw.go.jp/topics/2005/11/dl/tp1101-2c.pdf)
予防給付というのを、従来の要支援から介護度Iの8割程度の設定して、寝たきりにならない方法論を展開しようというのである。設置個所数は各保険者で弾力的に考えることになるが、おおむね人口二~三万人に一カ所が目安で、中学校学区1区程度にひとつ置いて、この方々のケアプランを作成、評価するのである。ところが、必要スタッフは3名。対象者は数百名となる。当地域で推定したら200名ほどのケアプランを1人で背負い込むことになるのである。
リハビリテーションの概念は今後も再三述べるように、個別化された問題点を掘り下げてはじめてプランニングができるのである。介護保険は生活機能障害へ特化しつつあると思うのだが、生活機能に対応するには細かい差別化が必要だろう。200名程度をどうやって個別化してプラン作成ができるのであろうか?
おそらく、雑な介護予防ケアプランにならざる得ないであろう、介護保険予防介入の中核はなんであろうか?それはパワーリハビリテーションだそうである。
日常生活、たとえば入浴、着衣、歩行といった動作は生活に必須である。disabilityの頻度を減らすことができれば65歳以上の老人にとって朗報である。disabilityは寿命の延長・高齢化とともに増加しているわけだが、老健施設入所、フォーマルな、あるいは、インフォーマルな居宅サービスに必要性が増加するという副事象をもたらしている。故に、この機能減退を回復する・予防するデザインが求められているわけである。身体、情的な社会的な、経済的な問題がこのdisabilityに寄与しているわけである。
そもそも、急性の医学イベント、卒中や・骨折などのリハビリテーションを受けている老人の機能回復に従来は関心が持たれており、昨今、老人のdisabilityに対する予防的介入において、特に強化運動が国際的な論文に掲載もされつつある。(NEJM Volume 347:1068-1074 October 3, 2002 Number 14)
日本でもその流れに沿って、強化トレーニング、特にResistance Trainingが科学的に、かつ、行政レベルで積極的に導入されていると思っている国民も多いと思う。それは全くの誤解である。パワーリハビリテーションとは強化トレーニング・Resistance Trainingとことなるものであり、劣化したギミックなのである。
パワーリハビリテーションなる、強化トレーニングと全く異なるトレーニング方法が厚労省や国会では幅をきかせ、フォーマルな施策としてH18.4月から導入予定なのである。
しかも、今まで科学的蓄積が多少あるStrength TrainingやResistance Trainingの利点を前面に出して、その利点を説明し、表層的に模倣し、ほとんど根拠無き特殊なトレーニング方法をその危険性・利益性を真に評価することなく多大なる国民負担を強いながら、机上の空論を展開する実験なのである。
1)他者の意見を聞かない一部の“リハビリテーション専門医師”が考案されたものであり、医療の場から離れた環境下で、医学的スーパービジョン無いものである(医学管理下置かれなければならない対象者を無視)
2)医学的問題を多く含有するであろう高齢者を、個々の医学的・社会的問題点を掘り下げるのではない(医学的諸問題無視)
3)漫然と、画一化された、その成果もまだ科学的エビデンスの構築されていない、実験レベルともいえる極軽度の筋肉トレーニングといえないほどのお飾りの筋肉運動である(既知の強化トレーニングと異なる奇異なトレーニング)
4)リスクや対費用効果を科学的に考慮することなく、コストカッター至上主義の政府・政治家の主導である(コストカット第一主義)
5)新たな利権を生じることでメリットのある厚労省と一部業者・リハビリテーション関係の一部医師などが推奨している(利権疑惑)
6)介護保険下の個別化が図られない半強制化された運動方法なのであり、リハビリテーションの概念から大きく逸脱したものである(塀の中のラジオ体操)
などが揚げられるが、各項目において詳細に解説する予定である。
外国では、このパワーリハビリテーションはどのように紹介されているかをみると実態と激しくかけ離れた報道がなされている。事例
Power Rehabilitation
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Japan has a larger proportion of elderly people than any country, and the population continues to age. Power Rehabilitation is a new program that aims to help release senoirs from their costly reliance on care helpers and return to an active life. Designed by a doctor specializing in rehabilitation issues, this strictly supervised course in using weights and physical training has had a high 75 % success rate in returning wheelchair patients to their feet and stroke victims to the dance floor.
<拙訳>
他国より高齢者比率が高く、高齢化がさらに進んでいる。Power Rehabilitatinはケア介助者に頼るための高齢者のコストを軽減し、活動的な生活に復帰させるためのあたらしいプログラムである。リハビリテーション専門医師がデザインし、この厳格にsuperviseされた方法が、ウェイトと身体トレーニングを行うことにより、車椅子の患者を歩行可能にし、卒中患者を舞踏フロアに復帰させる75%の成功率を示した。
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・・・・日本で行われている“パワーリハビリテーション”の現実を知ると、この記者は、きっと現実とのギャップに驚くであろう。
そもそも、稚拙な物理学しか知識のない私でも、“パワー”="power"という言葉に対して、きわめて奇異な印象をうける。パワー定義は力学では“仕事率”として定義されているはずで、理学療法という物理学をもその基礎としているはずのリハビリテーションの世界で、あいまいなTerminologyが使われて良いのか疑問を感じるのである。
「筋力強化を目的としない」ことで、目的はあくまでも動作のフォームとタイミングの獲得に置く”と竹内氏はのべている。(理学療法21巻7号(2004年7月))なんと、パワーリハとは、筋肉増強運動でもない、全く世界に例をみない、全く新しい手法の運動療法なのである。しかも、引用書籍の前半部分はEBMについて記載しているが、パワーリハの根拠は有る施設での前後比較の報告だけ。これでエビデンスや科学的な対効果比を語ろうとするのは非常に矛盾している。強引な語り口により、介護保険がねじ曲げられているのである。
一部研究者の意見だけを聞き入れ、コスト増大の危機に瀕する介護保険に、新たなコスト・無駄を持ち込む可能性のあるパワーリハビリテーション、それだけでなく、個別化して行うべきであるというリハビリテーションの概念から逸脱した方法論が、十分な科学的根拠もなく、導入されつつある。
来年春から本格導入がなされる前に、この問題に関して整理をする機会があたえられたので、肯定論も採用しつつ、なるべく客観的なデータをcriticalに記述していきたいと思う。
II.運動療法の効用
本来、規則正しく運動することは、老人にとっても健康上の無数の利益を与えてくれるものである。それは、下記ごとく、血圧、糖尿病、脂質、変形性関節症、骨粗鬆症、認知症などに及ぶ。米国でも75%以上の老人が身体運動の不足が報告されており、本邦でも同様である。
Benefits of Exercise in Older Adults
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老人の運動療法の効果
心血管
・生理学的パラメーターの改善
(最大酸素摂取量、心拍出量、準最大心拍・血圧指数)
・血圧の改善
・冠動脈疾患のリスクの減少
・うっ血性心不全症状の改善・入院率の減少
・脂質成分の改善
・糖尿病、2型
・疾患頻度減少
・血糖コントロール改善
・HbA1c値減少
・インスリン感受性改善
骨粗鬆症
・閉経後女性の骨塩減少低下
・股関節・椎体骨折減少
・転倒リスク減少
・変形性関節症
・機能改善
・痛みの軽減
・神経心理学的健康
・睡眠の質の改善
・認知機能改善
・うつの率の改善、Beckうつスコアの改善
・短期記憶改善
ガン
・大腸癌、乳癌、前立腺癌、結腸癌のリスクの減少
・QOLの改善、疲労の減少
他
・全原因死亡率の減少
・全原因疾患有病率の減少
・肥満のリスクの減少
・末梢性閉塞性血管疾患の症候の改善
American Family Physician February 1 2002
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運動処方は3つのコンポーネントからなり、1)好気的運動、2)筋力増強運動、3)バランス・柔軟性(資料によっては、これを別々にして4つの構成としてるものもある) である。
資料として、この3(4)の構成要因と効果に関するひとつのまとめを紹介する。
老人に対して運動への動機づけを行い、その身体的制限事項や合併症に応じてアドバイスするのが医師の役割である。個別化された患者のゴール、関心事、運動障壁について設定し、最善的に到達するように動機付けされなければならない。
“stages of change”モデル、個別化されたbehavioral therapy、活動的なライフスタイルがその戦略に含まれなければならない。長期的コンプライアンスをもたらすために、運動処方がなされなければならないのである。あくまでもニーズ・可能性・ゴールにより個別化されたものでなければならないのである。
介護保険下のパワーリハビリテーションの問題点は、1)個別化がなされていない集団的な画一的なものであり、2)動機づけがはっきりしないためコンプライアンス不良となる可能性が高い、3)ニーズ・ゴール・能力の個別化がなされていないためはっきりした目標がない漫然としたものとなる、4)筋力増強運動だけを前面に据えたため他の筋力増強・バランス・柔軟性などの重要な運動のコンポーネントが欠如している、ことなどがあげられる。
次章は、さらに詳しくパワーリハビリテーションについて分析してみる。
III. パワーリハビリテーションとは
定義
パワーリハビリテーションの定義:http://www7.city.toyama.toyama.jp/window/03_hoken/03/03_4.html
“パワーリハビリテーションとは、日常生活(活動)に必要な「身体的パワー」を増大させ、これをもとに活動への自信・安心感をもたらして活動的な生活(ライフスタイル)を再び取り戻す「行動変容」を最終目的とするリハビリテーションの手法”
そもそも、リハビリテーションの定義は、WHOにおいて、1968年、「リハビリテーションとは能力低下の場合に機能的能力が可能な限り最高の水準に達するように個人を訓練あるいは再訓練するため、医学的・社会的・職業的手段を併せ、かつ調整して用いること」とある。
パワーリハビリテーション推進者側の定義によると・・・
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身体的パワーとは
“個人に対するアセスメント・プランニング・実行”である
頻用されるパワーの定義
* 力:物体を動かす力
* 仕事量:物体を有る距離動かす力・エネルギー
* 仕事率:単位時間に行われる仕事量
パワーリハは、活動性をとりもどすためにpower up をはかるアプローチ
高齢者における活動性低下の原因
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* 動作性
* 体力
* 行動の縮小
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パワーリハは、高齢者の活動性の低下を以上3つに置き、3つを改善することを柱(パワーリハビリテーション ガイドブック から)
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パワーリハビリテーションに似た言葉で、パワートレーニングという言葉がある。これは、high-velocity、high-modalityな方法論をともなう、筋力増強トレーニングであり、高齢者に対して行う、合併症を気にして、おそるおそる行うような、筋力鍛錬をパワートレーニングとは呼ばないのである。
一方、健康パワーや成分や食品名を冠したなになにパワーなる、健康系の娯楽テレビ番組でパワーなる言葉が、その定義不明瞭のまま頻用されている現状がある。
元来、パワーとは、物理学者は、パワー(P)を単位時間あたりの仕事量(W)と定義。エネルギー流量としてモデル化されている。系における、仕事中の時間効率などと同義となる。
パワーの定義は、リハビリテーションの概念に従うつもりなら、その基本理念の物理上の定義に従うべきであり、仕事量・力を持ち出すのはおかしいのである。
一方、社会学者は、通常、他の人が反対してもある人が強引にその仕事をやり遂げる能力として定義があるが、むしろ、パワーリハビリテーション提唱者たちの強引さ(パワー)だけが目立つので、この意味での強引なリハビリテーションもどきとすべきなのでは?
話を戻すと・・・
運動をAerobic(好気的), Resistance(抵抗), Balance(バランス), Flexibility(柔軟)と分けるのが通例であり、パワーリハビリテーションと呼ばれているトレーニングは、このうちのResistance trainingが最も近く、介護保険関係は、国際的に定着しているResistance trainingという言葉を用いるのではなく、パワーリハビリテーションをもちいるのだろうか・・・理解に苦しむところである。
定義不明瞭のまま施行されるおそれがあり、また、日本のみ通じる命名方法は国際的な学術報告を制限され、国際的に通用する学術系用語が使われるべきであり、パワーを冠する命名には疑問を感じざる得ない。
パワーという言葉を用いたために、上記ガイドブックの説明で行けば、力学的な要素である“パワー”
を目的としたリハビリテーションであるとのことで、Well-being、QOL、Efficacy、Effectivenessなどを目標としていないものともとらえられてしまう。そういう危険性を考えもしなかったのだろう。
ただ単に、特定の商品と結びついた、maker-oriented、Shop-orientedな、rehabilitationであると言わるのもしかたがないのではないか。
さらに、“power rehabilitation”なる言葉はすでに他国で別の意味で多く使われている。
なお、リハビリテーションの概念はもともと個別化されたものであり、一様なtrainingをリハビリテーションと呼ぶのは、もともと間違いなのである。全国のリハビリテーション専門家たちはなぜこのようなリハビリテーションもどき、強制運動を非難しないのだろうか?
“パワーリハと呼ばれる手法は、①トレーニングマシンを用い、②PERの10-12(主観的運動強度「楽である」)の範囲、つまり③軽負荷の有酸素運動を、④上肢系2機種・体幹1機種・下肢系3機種を用いてそれぞれのマシンにつき10回×3セットずつ行い、⑤これを週2~3回(多くは2回)、3ヶ月を1クールとして行う”と、される。
IV.老化
・筋萎縮 Sarcopenia
“加齢による筋肉の量の減少は主に筋力低下が原因”とされる。筋力の減少がdisabilityの主因であり、筋肉の力とpowerが歩行能力の決定因子(Bassey et.al. 1992. Leg extensor power and functional performance in very old men and women. Clinical Science 82: 321-327)
若年・中年データからは体脂肪量と最大好気的運動能は、年齢に依存せず、週の運動時間数に依存するとのこと、75%以上が体脂肪の変動は身体運動に消費されるエネルギーに依存し、身体能力の程度はエネルギー消費量と体脂肪蓄積量に依存する。しかし、Klitgaardらの横断研究では、ランニングや水泳などの耐容性運動をする老人と、閉じこもり老人と、ほぼ同様なSarcopeniaの頻度であったという報告もある。
このことは、endurance exerciseはsarcopenia予防に役立たない可能性を示唆する。
(以下追考予定)
・Aerobic Exercise
・運動と炭水化物代謝
・運動と体重減少
・蛋白必要性と老化
・高齢者と心筋虚血
1920年代からすでに無症候性、すなわち胸痛をともなわない心筋梗塞および狭心症の存在が報告されている。1970年代移行、モニター心電図や24時間心電図などが行われ、無症候性心筋虚血の存在が注目されるようになり、むしろ無症候性の心筋虚血発作の方が有症状の発作より多いことが明らかとなった。糖尿病患者や高齢者では、心臓交感神経の求心性繊維の障害、神経の変性関与による痛み域値を増加、さらに、広範な心筋虚血が徐々に広汎に生じていることが多く、新たな心筋虚血の出現寺に痛覚刺激が伝播されがたいことがしられている。心筋虚血時に胸痛があることは冠動脈疾患の存在の警報となるのだが、ある日突然、致死性の心筋梗塞を発症し有り、高度の心機能低下による心不全の増悪がもたらされることは大きな問題である。(日本医事新報 No4262 2005.12.31 p87- 川崎成之亮)
無症候性心筋虚血は、通常の医療監視下でも予知・管理は難しい。にもかかわらず、国は医療外の施設で、運動療法を行おうとしているのである。
・ストレス
虚血性心疾患を有する患者に対して、ストレスマネージメントも重要で、心血管リスクを軽減する可能性とがある。
ストレスが心血管リスクを増加させ、心筋虚血や致死性不整脈に影響を与える。
パワーリハビリテーションなどへの自発的な参加と強制的な参加というのは、心的ストレスはかなり大きなものとなるだろう。介護保険下の個別化されてない強制参加は全国の高齢者に多大なるemotional stressを引き起こすこととなる。
(結論)
Aerobic exerciseと強化運動の組み合わせが唯一筋萎縮を改善するとされており、筋力増強運動のみで、老化機転を改善させるかどうかは未知数といわざる得ない。
次章で、国際的にみた、パワーリハビリテーションの原点であろうResistance Trainingについて、学習してみる。
続き:パワーリハビリテーションに関する・・・・シリーズ(2)
http://intmed.exblog.jp/2820329/
(一部文章に投稿予定の部分もありますので、引用などは自由ですが、当方Blogからの出典という記載は付記お願いします。)
by internalmedicine | 2005-12-09 18:27 | 運動系