扁桃腺や虫垂に変異クロイツフェルト・ヤコブ関連プリオン異常発見に関する考察

variant CJD(変異クロイツフェルトヤコブ病)に関しては
ここのPDFがかなり詳しい。

1996年3月以降の1年間に提示された原因物質の関連を裏づけるさらなる証拠
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· 1994 年以前はvCJD の症例がない
· 英国以外では1例の記録のみ (フランス)
· サル(マカック)にBSE を接種した場合と同様の病理的所見
· 菌株のタイピングに関する研究
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ということで、

ここにかかれている直近推計は
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ガーニほか(2003 年5 月)
2002年末までに死亡した121例 
最良推定値 161件 95%信頼区間で130 件から661 件
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ということで考えられていたいわけですが


以下の内容の報告が電子版で報告され、虫垂と扁桃腺組織のプリオン蛋白の集積が、UKで4000名弱になるのではということが示唆され、拡がりへの不安を鼓舞するメディアが多くみられたようです。もっともこのことの臨床的な意義は不明な部分が多いわけですが・・・(もちろん意味がある場合も・・・そして輸血・移植による二次感染も)

Higher numbers than previously predicted could be incubating vCJD
BMJ 2004;328:1279 (29 May), doi:10.1136/bmj.328.7451.1279
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UKの多くの人が以前考えられていたよりvCJDをincubateしているかもしれないという新しい研究
13000近い虫垂と扁桃腺試料の分析でvCJDに関連するプリオン蛋白のうち3つに蓄積していることが判明
しかし、わずかひとつの試料だけが既知のvCJD例の組織からのものでプリオン集積のパターンであった。他の2つは集積のパターンが異なり、些細なものとしてこの事実を片付けることができないが、その意義付けは不明。
UKでの10-30歳にvCJDが進展するリスクが多いということは100万人あたり237名、合計3808名と推定(95%CI 49-692人/百万人)
この研究はearly viewとして“the Journal of Pathology”に掲載

この予測が確かになるのなら、最近の予測よりかなり多くのvCJD数となることを示唆する。2004年3月までUKで146名、フランス6例、カナダ・香港・アイルランド・イタリア・アメリカ1例の確診・疑い例がある。
この観点から言えば科学者たちはvCJDの拡がりは比較的少なく、将来的にも540例程度と推定している。
Derriford病院組織病理専門家であるDr David Hiltonは、、プリオンの存在パターンが異なる、臨床的に明確でない状態があるということが判明したわけで、警告を発している。“警戒すべき発見であり、軽んじてはいけない。vCJDについてまだ多くしるべきことがあり、組織中の蛋白の存在が直ぐにvCJDへ進展するということをかならずしも意味しない。新鮮な扁桃腺を前向きにスクリーニングすることで重要性が判明することが重要。8万から10万の新鮮な扁桃腺の巨大研究によりクリアカットに結果をするだろう”と述べている。
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・nvCJDとBSE(狂牛病)の関係があきらかに
Agents of new variant CJD and BSE are identical
BMJ 1997;315:831-836 (4 October)
http://bmj.bmjjournals.com/cgi/content/full/315/7112/831

・手術標本でnvCJDのテストをした
Surgical specimens to be tested for new variant CJD
BMJ 1998;317:617 ( 5 September )
http://bmj.bmjjournals.com/cgi/content/full/317/7159/617

・羊もBSEの可能性が
Possibility of BSE in sheep causes alarm
BMJ 1998;317:700 ( 12 September )
http://bmj.bmjjournals.com/cgi/content/full/317/7160/700

・骨に牛肉は無関係だと直き、わかる
All clear soon for beef on the bone
BMJ 1998;317:1548 ( 5 December )
http://bmj.bmjjournals.com/cgi/content/full/317/7172/1548/b

・nvCJDが扁桃腺に見つかる
New variantCJD found in tonsils
BMJ 1999;318:215 ( 23 January )
http://bmj.bmjjournals.com/cgi/content/full/318/7178/215

・nvCJDによる死亡が急激に増えている
Deaths from nvCJD rise sharply
BMJ 1999;318:829 ( 27 March )
http://bmj.bmjjournals.com/cgi/content/full/318/7187/829

・BSEとvCJDの関係がさらに確固なものに・・
Study strengthens link between BSE and vCJD
BMJ 2000;320:78 ( 8 January )
http://bmj.bmjjournals.com/cgi/content/full/320/7227/78/a

・CJDのデータ関係は報道する前に明確にすべき
扁桃腺と虫垂組織のvCJDの証明分析に関わることは複雑で、感情的な医学情報を大衆に与えるという点で科学者にとってその困難さに直面することとなる。結果関連が確実であるときに特に注意が必要である
Implications of CJD data need to be clear before release
BMJ 2000;321:701 ( 16 September )
http://bmj.bmjjournals.com/cgi/content/full/321/7262/701

・vCJDは血液を介することもありえると言っている
Scientists show that vCJD can be transmitted through blood
BMJ 2000;321:721 ( 23 September )
http://bmj.bmjjournals.com/cgi/content/full/321/7263/721

・nvCJD:疫学的にはないはず・・(BSEとの関係否定意見)
New variant Creutzfeldt-Jakob disease: the epidemic that never was
BMJ 2001;323:858-861 ( 13 October )
http://bmj.bmjjournals.com/cgi/content/full/323/7317/858?ijkey=d34c61ff79981e9afb9e93fcdd437d149ee580d5&keytype2=tf_ipsecsha

・実験的治療で二次的vCJD
Second vCJD patient to receive experimental treatment
BMJ 2003;327:886 (18 October), doi:10.1136/bmj.327.7420.886-a
http://bmj.bmjjournals.com/cgi/content/full/327/7420/886-a

こうやってみると、UKでのBSEとnvCJDの歴史的な流れがすこし見えてきます。


<私見>
日本におけるBSE対策である、全頭検査はその科学的な意味合いというより感情的な消費者の行動を押さえるために行われていると思うのですが、cost-benefitの問題であり国民が受容するのであれば仕方がないことだと思います。ここに米国が無理強いする筋合いがあるのか・・・と、これは感情的に怒りたくなるのは筋論でしょう。

でも、全頭検査があまり意味がないという根拠の一つは以下の通りだと思います。
おそらく数十万頭に1頭以下のレベルで検出されてないのだから、感度・特異度などのおなじみ検査理論からいっても意味のない検査なので、あくまで日本の自主的判断ということを政府は強調するでしょうが・・・
283万頭の年間処理数から考えて、年間1頭のBSEがみつかり、半数が一次検査のために半数で良いという場合、感度が99.999916%の検査でないといけません。
100頭に一頭にまけても、99.9915966%なわけですから、こういう検査はありえないと思うのですが・・・
こういうのって、検査すれば全部診断できるという空想によりできあがっております(MRIやPET、CTだけすれば癌がすべて見つかると思っている人たちはホントにおおいのですがそれと類似してます)。

参考:畜産統計感度、特異度

<追加:私見>
日本でも一応扁桃腺・虫垂組織のプリオン関連を調べた方がよいと思うのですが・・ただ、最低でも頻度から考えて10万検体程度の検体が必要なのでは。同意書が得られるかな?

by internalmedicine | 2004-05-28 16:12 | 医学  

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