急性肺障害:肺動脈モニタリングvs中心静脈圧モニタリング

持続的肺動脈カテーテルによるモニタリングの終焉・・・心不全治療周辺
でもふれてるが、ICU入室中の敗血症、ARDあるは病態の進展した心不全といった患者群で肺動脈カテーテルによる監視に関して厳しい研究結果が得られてる。


論文だけを見れば、PAC治療は不要と判断しそうだが、Editorialなどをみると、勧善懲悪的には行かない。

Pulmonary-Artery versus Central Venous Catheter to Guide Treatment of Acute Lung Injury
The National Heart, Lung, and Blood Institute Acute Respiratory Distress Syndrome (ARDS) Clinical Trials Network
NEJM May 21, 2006 (10.1056/NEJMoa061895)

背景:肺動脈カテーテル(PAC)の利点とリスクい関してのバランスは確立していない。
方法:急性肺障害と診断確定した1000名患者についてランダム化トライアルを行った。PACによるものとCVカテーテル(CVC)ガイドによる血行動態マネージメントの比較
退院前60日間の死亡率をprimary outcomeとする
【結果】
ベースラインは両群同等。死亡率はPACとCVC間で同等(27.4% vs 26.3% P=.69)
(注記:天下のNEJMでもこういう記載をするからなぁ・・・)
絶対的相違 1.1%(95%CI -4.4-6.6%)
人工呼吸不要日数:13.2±0.5 vs 13.5±0.5; P=0.58
ICU日数:(12.0±0.4 vs 12.5±0.5; P=0.40

少なくとも、治験期間中においては、PACガイド治療はショック患者の3つの測定値を改善せず、肺機能・腎機能の有意差もなく、人工呼吸セッティング、透析・昇圧剤使用への影響も与えてない。
水分バランスは両群同様で、輸液・利尿剤指示も同様比率であった。
ドブタミン使用は稀
PAC使用は約2倍のカテーテル関連合併症(主に不整脈)を生じる


Editorialでは、ARDSやうっ血性心不全、術後必ずしもPACは必要ではないが、必要でなくなったというわけではない。重症COPD患者、臨床的に重篤な肺高血圧症、、透析持続の患者はこのトライアルでも除外されていると書かれている。



重症患者でのルート確保というのは、CVラインが多いのだが、関わる医療事故が新聞掲載されることが多くなっている。送検された事例も多いようだが、積極的治療からの更なる撤退ということを現場の医療関係者は希望しているだろう


私の研修時代、集中治療はモニタリング全盛時代で、HurstやBraunwaldといった先生方の著書を読んでいた。
(Braunwaldが今年9月に来日するとのこと非常に楽しみ)
そういう時代はやはり理論優先の時代であり、その後のCost-Benefit studyなどのClinical Evidenceの時代とは異なる時代であったのだろう。
そういえば、大阪で医療訴訟の患者側代表として活躍中の御仁、自分の病院にモニタリングをめいっぱいして、これで医療事故が防げると昔見学者に豪語してたが・・・
モニタリング事態が合併症増加させることがはっきりしたのは、時代の皮肉だろう。

事故や問題が起きたときは、感情の発露は最後に、まず、分析的に原因を包括的に検討し、そして、再現性の確認などを科学的に行い、蓋然性が明瞭となった要因に対し、二度と不幸な転機が生じないように、エビデンスの集積とその対策の周知徹底をはかる・・・それから事故を生じさせた対象者への怠慢行為が有れば社会的にも責任をとらせるという手順をふむべきであろう。福島の問題は、医療事故調査に客観性や科学的分析などが著しく欠損しており、その状態で社会的な責任まで追及されてしまっているのである


Editorialに話は戻るが、
Clinical practice is rarely exclusively dichotomous
臨床の世界では白黒はっきりできることはむしろ稀

という一文がある。このことを、昨今、患者・家族、司法、医師までも、皆忘れているのではないだろうか?・・・メディアに関与する批評家・軽挙妄動医師たちが彼らの浅学のため、多くの視聴者に勧善懲悪的な、たとえば、肺動脈カテーテルすること自体が悪である、金儲けであるのような意見に左右されてしまうのである
メディアにおける医療医学的な情報提供に関して、一方的な情報提供を禁止するというような厳格なガイドライン策定が必要と思われる。

by internalmedicine | 2006-05-22 10:23 | 呼吸器系  

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