拡張剤使用後のスパイロメトリー

さるところで、COPDのgolden standardの拡張剤使用後のFEV1/FVCというのは、分子・分母ともair-trappingの要因が入っており、のぞましくないのではないかという議論があった。その通りだろう。
ただ、office spirometryしかできない私としてはVCというのを測定する煩わしさよりFVCの方がありがたい。以前、T.L.Pettyさんと個人的に親交のある某先生に、このことに関して聞いたことがあった。「外人なんてそこまで細かく考えてないよ・・・、多少の正確性を犠牲にしてもわかりやすさの方を求めるというのがPettyだよ」だそうで・・・

小さい数字を細かく検討したがるのは日本人研究者の癖のよう・・・でも、おおざっぱな外人をタイトレーションするにはそれくらいが良いのかもしれない・・・


一般住民における拡張剤使用後FEV/FVCの基礎的データが少ないということはご存じだろうか?・・・FEV1/FVCというのは脳内派生というのも一部事実なのである。拡張剤使用後FEV1/FVCがCOPD診断のゴールデンスタンダードであり続ける保証はないのである。

Post-Bronchodilator Spirometry Reference Values in Adults and Implications for Disease Management
American Journal of Respiratory and Critical Care Medicine Vol 173. pp. 1316-1325, (2006)
【目的】拡張剤後のFEV1、FVC、FEV1/FVCなどスパイロ使用を促す国際的ガイドラインがあるなか、拡張剤後の参照値がまだ確立されていないという矛盾
【方法】
一般成人対象で、2335名の対象者、非喫煙者23%(n=515)
拡張剤前後の肺機能のmedianや正常下限値の参照を4分位を用いてモデル化
【主な結果】
男女比率は年齢範囲26-82才において等しい比率。年齢とともにFEV1、FVCは低下するが、気管支拡張剤使用後の値に関して男性では有意さがない。
線形モデルではbest overall fitを示す。
拡張剤後のFEV1/FVCは正常下限に関して両性とも0.7を超過する。
拡張剤後予測式は予測FEV1、FEV1/FVCはlocally derived、拡張剤前のものより高い値である。
拡張剤効果は年齢とともに減少する。
【結論】この研究は気管支拡張後の肺機能の参照値開発を検討した最初の研究
Conclusions: The present study is the first to develop reference values for post-bronchodilator lung function.
高いFEV1予測値により疾患重症度の過小評価がなされることを避けることが可能となり、拡張剤推定値計算式はCOPDの患者マネージメント改善に役立つ可能性がある。




肺気腫の重症度と予後推定因子の問題、これもFEV1だけで決まるわけではなく、BODE指数などが、自覚症状・栄養状態・運動能力などの総合指標へと視点が移っている。

Predictors of Mortality in Patients with Emphysema and Severe Airflow Obstruction
American Journal of Respiratory and Critical Care Medicine Vol 173. pp. 1326-1334, (2006)
NETT研究の治療群である重症肺気腫609名のを対象に検討したもの

包括的にみれた、高い死亡率はこのコホートでみられ(死亡数12.7/100人年;292死亡数)、多変量解析にて、年齢増加(p=0.001)、酸素使用(p=0.04)、低%予測TLC(p=0.05)、高予測%RV(p=0.04)、最大心肺運動試験負荷(p=0.002)、下肺/上肺換気比(p=0.007)、修正BODE(p=0.02)が死亡率の予後推定となりえる。
FEV1は単変量解析では有意な予後推定因子 (p = 0.005)だが、多変量解析では有意ではなかった (p = 0.21)。

by internalmedicine | 2006-06-08 11:32 | 呼吸器系  

<< 妊娠初期(First Trim... 虫垂炎手術は夜間をさけて翌日に・・・ >>