低炭水化物・高脂質食の健康被害と思われるケース

低炭水化物食による食事制限がだいぶ市民権を得てきたようである。しかしながら、この制限法は、ダイエットの王道とはなりえないだろうと推測ができていたのである。

なぜなら、低炭水化物食の体重減少は水分喪失によるもので、一過性の現象に過ぎないだろうと推定されるからである

500kcal/に摂取量を減らすと、1週間あたり0.45~0.9kg減量だが、低炭水化物・高たんぱく食は初回2~3Kg体重減少する。
決していわゆる“体の代謝が変わった”というミラクルではなく、単純に食事由来の利尿作用によるものといわれている。
炭水化物摂取を制限すると、体水分組成が変わる、肝臓・筋肉のグリコーゲン蓄積の移動によるものである。グリコーゲンの各1gあたり水2gが動く。肝臓のグリコーゲン蓄積は100g、筋肉は400gである。これで約1Kgほど移動する。 対象者たちはこの変化を喜び、その虜になっているのすぎないのである。

2番目のプロセスはカタボリズムからのケトン産生と内因性脂肪である。ケトンは腎臓で濾過され、非吸収性のアニオンであるが、腎臓の内腔液が腔内の遠位端の塩運搬を増加させ、腎臓のNa増加、水分喪失を促すこととなる。
800カロリー低炭水化物・高蛋白によるケトン産生性食事は同じ800カロリー混合食との比較で10日で4.5Kgvs 2.8Kg体重減少となり、初回の変化が出現する。
エネルギー・窒素バランスの研究によれば、結局はこの体重減少は水分喪失によるもので説明可能である。
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しかしながら、この利尿作用は長続きせず、結局は、カロリー制限のみがさらなる体重減少の成功決定因子となる



なぜ、突然、このことを述べるかというと、わらっていいともという番組でひたすら低炭水化物をとりあげていたから・・・その誤解の流布に驚いてしまったからである。

タモリはテレビファソラシドあたりから好きで、好んでラジオ・テレビを見聞きしていた。ところが、“タモリは2-3年でテレビから消えると書いた当時メジャーだった、五味なんたら・・・という姓名判断の占い師がいて、このことは忘れまいぞと思っていた。結局、ご存じの通り、タモリは30年過ぎても芸能界から消えてない。

そういう関係で、タモリには非科学的なものをテレビで推奨しないでほしいと思っているのだが、笑っていいとものゲストとの対話で低炭水化物について話をしていた。
物知りを自称している芸能界のねえちゃん・おじさんたちが比較的この話をするようになり、日本でもこの方法が流布してきているようである。

件のいんちき健康テレビ番組が低炭水化物・高脂肪食を放送していた事もあり、ものを考えない芸能人たちにも流布したのだろう・・・一発、タモリさんからきつい一言をと思うのだが・・・


有害性の知識などない芸能人(事象研究者や大学関係者なども含む)がテレビで中途半端な情報を垂れ流す危険性というのはTBSの番組で懲りなければならないのである。

医療無資格者が有害性を含む“健康法”を電波で垂れ流すこと、資格があっても科学的・客観的事実と逸脱した情報を無責任に表明することなど、管轄する行政もより厳しく対処すべきであり、形骸化しているテレビ局内内部監査も徹底されるべきである。
・・・本来放送というのは公共のものを借り受けて事業しているわけだから、永遠の権利というわけではないということをNHKを含め放送事業者は理解すべきである。



低炭水化物・高脂質食の健康被害と思われるケースが報告されている


A life-threatening complication of Atkins diet
The Lancet, Volume 367, Number 9514, 18 March 2006
40歳女性で呼吸困難、5日前からの食欲低下、嘔吐
低炭水化物高蛋白Atkinsダイエットを順守し、肉・チーズ、サラダ食を1ヶ月前からはじめていた。

推奨分のビタミン摂取し、 chromium picolinate、 Atkins Basic (multivitamins; Atkins Nutritionals, Inc, USA)、 Atkins Essential Oils (omega fatty acids)、 Atkins Dieters' Advantage (electrolytes and extracts)、 Atkins Accel (a “thermogenic” formula)を服用していた。
モニター1日二回尿検査し、dipstickによりケトン陽性

1ヶ月で約9Kg以上体重減少

中等度呼吸苦、呼吸回数20-30/min

腸音は過活動であり、軽度心窩部に圧痛有り


BMI 41.6kg/m2で、ABGはpH 7.19、PCO2 (3.9kPa29mmHg)、PO2 15.7kPa(118mmHg)
アニオンギャップは26mmol/L、CO2 8mmol/L

血糖4.2mmol/l、lipase 326U/L
アミラーゼ正常
WBC 13×10^5/L

検尿にてケトン尿症

【臨床経過】
ICU入室し5% dextrose(150mmol/L 重炭酸)を30ml/Hにて投与
第2日にてWBC正常化し、lipase 848 U/Lとピークまで増加し、第3日にて正常化
腹部CTにて正常膵機能
第3日 血中重炭酸は26mmol/Lまで増加
第4日にて退院

【考察】
鑑別診断は、高アニオンギャップ性のアシドーシスであり、メタノール過飲、ethylene glycol、salicylate、 L- or D-乳酸アシドーシス、糖尿病ケトアシドーシス、アルコール、飢餓である

D-乳酸アシドーシスは抗生剤や腸の手術関連であり、今回はその原因は見あたらず
アセトン陽性で、β-hydroxybutyrateは390μg/mL(0-44)であり、ケトアシドーシスを含むものであった
Serum was positive for acetone, and β-hydroxybutyrate was high at 390 μg/mL (normal 0--44 μg/mL), consistent with ketoacidosis.

飢餓時インスリン減少によりケトンは肝臓で産生される。
低炭水化物食であるAtkinsなどではケトン産生をもたらす。
実際Atkins食の本ではケトン尿の定期的モニタリングを推奨しており、それにより長期継続の担保としているようである。
ケトン尿は、治療不応性のてんかん児童の治療に、このタイプの食事を使用するが、生命危機に至るような代謝性アシドーシスを引き侵す報告を知らなかったが、今回のケースは腎不全のない例で脱水をきっかけに生じたものであると著者らは推測。他にストレスも引き金になると付記している。


Adkinsダイエットにより生じたケトーシスの事例で、重症となり、軽度膵炎・胃腸炎を生じたものと思われ、今後この問題点を認知しなければならないと結んでいる。



<著者からの反論>(The Lancet 2006; 368:23
今回の事例は、BMIかなり高度で、合併症や併用薬との関係などが示唆されること、Atkins食の基本から逸脱したエネルギー摂取であったこと、低炭水化物・高脂肪食は多くのバージョンが存在し、マクロな栄養指標による方法が有効であるという報告もある(Efficacy and safety of low-carbohydrate diets: a systematic review.JAMA 2003; 289:1837-50.)。
ケトン食ベース6ヶ月のRCTにて体重減少、他のメタボリック関連諸問題である、高血圧・脂質・インスリン抵抗性に関して改善する効果をもたらすということを忘れてなならない(Ann Intern Med 2004; 140: 769-777.)
ただし、システミックレビューレベルでは、十分なエビデンスはない(Atkins and other low-carbohydrate diets: hoax or an effective tool for weight loss?The Lancet 2004; 364:897-899)



逆に、低脂肪食が必ずしも肥満につながらないらしい、また、低炭水化物・高脂質食・高たんぱく食は、食欲減退させるし、腹持ちの問題でもあると根拠無く思っている。・・・いずれにせよ、長続きしようもない食事療法オプションである。短期間集中的減量には合致するのかもしれない・・・

by internalmedicine | 2006-07-03 12:00 | 医療一般  

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