百日咳:学童感染の証拠

百日咳ワクチン接種歴9割の学童の遷延化咳嗽のうち4割に百日咳新規感染があったとのこと・・・あらたな公衆衛生的な対策が必要だろうという話


前提の知識として、乳幼児の診断も難しいのだろうが、年長児童~成人の診断はかなり難しいということが前提の話
学童期の子供の持続性咳嗽は診断・マネージメント上のジレンマを有する
医師にとっては正確な診断が困難で、両親が説明に対して不安を生じることがある。
喘息のempiricalな治療を受けたり、精査を勧められたりする。臨床的原因が判明せず1ヶ月以上超過することもある。成人に於いて、持続性咳嗽のBordetella pertussis感染頻度はUSで20% 
感染も、免疫も終生免疫の状態を続けるものでない。
臨床的症状・兆候の特異性無く、whooping coughが滅多にプライマリ・ケアでは診断できない。

・・・という基礎知識を

Whooping cough in school age children with persistent cough: prospective cohort study in primary care
BMJ 2006;333:174-177 (22 July)
14日間咳嗽持続5歳児にて2001年10月~2005年3月まで179名の子供

pertussis toxinに対するIgG抗体価(100ELISA units/ml IgG濃度をカットオフ値とする)


抗体陽性・陰性者の咳嗽持続比率推移



思春期・成人においてendemicな疾患であり得ることが示唆され、若年学童でもUKでendemicであることが示唆された。免疫のない人への過程での二次感染によるattack rateが90%と想定され、重要である。思春期の子供より若年自動では新生児の兄弟が居る可能性があり重大な問題である。

2週間以上咳嗽が続いたワクチン接種された学童に於いて、百日咳の感染と思われる事例37%であった。この子供のうち、ワクチン接種は86%であった


百日咳の定義
21日以上の痙咳発作があり,

かつ,

1) 百日咳菌の分離
2) 抗PT抗体(IgG)または抗FHA抗体(IgGまたはIgA)の有意の上昇
3) 確定百日咳患者との家庭内接触の条件のうち1つ以上を認めるもの
(SRL検査)

とされるそうだが、

菌はカタル期後半に検出され、痙咳期に入ると検出されにくくなるため、実際には菌の分離同定は困難なことが多い。血清診断では百日咳菌凝集素価の測定が行われることが多く、東浜株および山口株を用い、ペア血清(2 週間以上の間隔)で4 倍以上の抗体価上昇があるか、シングル血清で40 倍以上であれば診断価値は高い。ただし、凝集素を含むタイプのワクチン接種者では、シングル血清での判断に注意を要する。IDWR:感染症の話 百日咳

Harrisonsonlineでは、
百日咳の古典的症状が存在するなら診断は困難ではない。しかし、年長児童や成人では B. pertussis やB. parapertussisによる気道感染と他の気道感染を臨床的に鑑別することは困難である。
故に、検査が全例で必要となる。
リンパ球増加(絶対的リンパ球 >10 x 109/L)が若年児では多いが、成人・10代では少ない。
培養は“gold standard”;鼻咽頭吸引液が最も良いサンプル;10mlのシリンジにつないだflexibleなプラスチックカテーテルで吸引する。乾燥に弱く、適切な培養(Bordet-Gengou や Regan-Lowe)に遅滞なく培養すべき、リン酸緩衝生食でフラッシュすべき。培養5日で陽性となる。未治療百日咳の鼻咽頭培養は症状発症後3週間は陽性。抗生剤後5日以内で消失する。カタル期である鼻咽頭から回収されるので、感染が疑われない時期に当たり、培養による診断時期はかなり限られている(small window of opportunity)
成人・年長児童より幼児・若年児童では培養が陽性になりやすい。
4週間超過する咳嗽の場合、10代、成人に於いて検査診断困難なため、血清診断に関心が行くこととなる。

百日咳毒素、filamentous hemagglutinin、 pertactin、fimbriaeのIgA、IgG抗体検出のEIAが開発されている。
抗体の2倍、4倍増加が感染を示唆する。Bordetella属の交差抗原性(filamentous hemagglutininとpertactin)が診断的なseroconversionの意義付けを困難化する。医療的行為、ワクチンがさらに血清診断を複雑化させることとなる。
血清診断のクライテリア提言としては、正常の人の標準偏差の2-3倍以上を血清学的な陽性とするものである。しかし、商用的に広く使われている抗体はない。そして、特異的な検査は一般的受け入れられているものではない



以上のように、ハリソンでは、成人百日咳、血清診断に関してかなり懐疑的な記載である。

日本では、現実的には以下の検査は簡単に利用できない状況である。・・・薬剤導入だけでなく検査の健保適応がかなり遅れている日本(低医療費施策のツケがここにも・・)

IgG-PT(pertussis toxin)では、100U/mlというカットオフ値を年齢にかかわらず提唱されている。この抗体の推移(Journal of Clinical Microbiology, February 2000, p. 800-806, Vol. 38, No. 2
)

参考:
成人慢性咳嗽と百日咳(pdf)
Chronic Idiopathic Cough:慢性特発性咳嗽 新しい病名?

外国の咳嗽ガイドラインでは百日咳に関していろいろ記載があるが、日本の(慢性咳嗽の除外診断では百日咳が軽視されている。

咳嗽ガイドラインでは、百日咳疑いの場合は、PT、FHAへのIgG・IgA抗体の4倍増加を以て感染とする(Level of evidence:低; net benefit, intermediate; grade of evidence, C)

by internalmedicine | 2006-07-21 10:26 | 感染症  

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