NIHコンセンサスステートメント: マルチビタミン・ミネラルサプリメント(MVM)
2006年 08月 01日
NIH CONFERENCE:National Institutes of Health State-of-the-Science Conference Statement: Multivitamin/Mineral Supplements and Chronic Disease Prevention <Ann Int Med 5 Sep 2006 Vol 145 Issue 5>
MVMの使用が急激にここ十数年増大し、食事サプリメントが米国などは半数以上が使用する事態となっている。一般的にMVM使用は健康な人が使用するため、アウトカムに関して解釈困難に陥ることが多い。十分な知見の集積が無い状態である。
ビタミン・ミネラルの栄養源摂取不足における補充が当初であったが、次第に、栄養強化(fortification)という意味合いとなり、上限を超えた摂取、それに伴う有害性も危惧されるようになった。今、国家的に正確なかつ現在のデータをつかむ方法を追求する努力が必要である。
慢性疾患予防に関するMVMの有効性・安全性の系統的評価において、明確な結論・推奨をくだすほどの研究が少なく、有益性を強く推奨する研究は少なかった。
閉経後女性におけるカルシウムとビタミンDが骨塩増加と骨折減少をもたらすというような、有益性のあるエビデンスも存在する。しかし、他の研究では喫煙者におけるβカロチンの肺癌リスク増加などリスクも考えられる。
MVMの安全性・質の公的な安全性のレベルとしては不適切であり、製造側には副作用報告の必要性が無く、FDAも認可や一般に対する情報提供のregulationを有していない状態である。
結論としては、アメリカ国民に対して、現行のMVM使用は慢性疾患予防に関して推奨するに科学的エビデンスが足りない・・・とのこと
National Institutes of Health (NIH)コンセンサス・state-of-the-science statementが、医療関係者・公的な代表者の独立したパネルで準備されたものが発表されている。
1)AHRQ( Agency for Healthcare Research and Quality)に密に基づく系統的な文献レビューの結果である
2)研究者のプレゼンテーション、2日間のパブリックセッションのカンファレンスによるもの
3)パブリックセッションの一部で行われた公開ディスカッションの間での疑問点とステートメント
4) 2日目の残りと3日目の朝のパネルのクローズドな審議
このカンファレンス用に準備されたエビデンス・レポート
http://www.ahrq.gov/clinic/tp/multivittp.htm
慢性疾患予防として米国の一般民が使用する有効性を明確にする目的の研究は数少ない。
低栄養状態の中国での一つのトライアルでβカロチン、ビタミンE、セレニウムが胃癌頻度・死亡率減少、癌全体の死亡率減少を示している。
フランスのトライアルでは、ビタミンC、ビタミンE、βカロチン、セレニウム、亜鉛にて、男性では癌リスクの減少がみられたが、女性では見られなかった。
心血管系へのbenefitはいずれのトライアルでも見られない。
マルチビタミン・ミネラルサプリメント使用は白内障予防にbenefitなし
亜鉛・抗酸化物質は、疾患リスクの高い加齢性の黄斑変性予防にbenefitを示した。
少数の例外を除いて、βカロチンもビタミンEサプリメントも癌予防、心血管疾患、白内障、加齢黄斑変性ののbenefitなし
βカロチンサプリメントは喫煙者・アスベスト暴露者において肺癌リスクを増加させる
葉酸単独やビタミンB12 and/or ビタミン6は認知機能に於いて有意な影響を与えない。
セレニウムは癌予防のbenefitが考えられるが、心血管予防に於いてbenefitなし
カルシウムは閉経女性の骨炎減少を予防、椎体骨骨折減少させるかもしれないが、非椎体骨骨折ではない。
エビデンスから、骨炎維持、股関節・非椎体骨折・転倒予防におけるビタミンD with/without カルシウムの用量依存的benefitが示唆される。
ベータカロチンの皮膚黄染化をのぞいてマルチビタミン・ミネラルサプリメントの副作用に関して一致したパターンは見られない。
この会における、multivitamin/multimineral:MVM(マルチビタミン・マルチミネラル)の定義は、3種以上のビタミン・ミネラルでハーブを含まないものであり、食品栄養のボードによりキメラ得た耐用上限量を上回らないもので、健康へ悪影響のリスクの少ないもの
1)MVMサプリメントの大衆使用の現行のパターンと頻度
2)MVM使用者と非使用者の食事栄養について知られていることは?
いくつかの研究によれば、MVMサプリメント利用者は、非利用者に比べ微量栄養素摂取が多い。
さらに、MVM使用者は摂取量が多く、上限を超えている事が多い。
Consequently, MVM users have an increased intake but are also more likely to exceed the upper level.
“fortify”(栄養強化:強壮)する特定の食品は、ビタミンやミネラルを強化するどころか法律に従っておらず、摂取量算定を困難としている。(注:fortificationという言葉はビタミン欠乏状態で用いられた言葉である。“強壮”という言葉への誤訳と思われるのだが・・・)
MVMの成分のデータベースがないことで、摂取量の推定困難としている。
2つのアクション、1)MVM利用者の自己報告の質を高めること、2)MVMサプリメントの正確な成分データベース構築が早急に求められている
3)慢性疾患予防の単独のビタミン・ミネラルサプリメントの有効性は
・βカロチン
・ビタミンA
・ビタミンE
・ビタミンB2、ナイアシン
・ビタミンB6
・葉酸(± ビタミンB12)
・セレニウム
・カルシウム±ビタミンD
有益な効果をもたらすという慢性疾患予防に関するビタミン・ミネラルの個々の、あるいは、ペアのトライアル自体少なく、一般へのβカロチンサプリメント推奨のエビデンス無く、喫煙者はβカロチンサプリメントを避けるべきであると強く推奨されるエビデンスは存在する。カルシウム、ビタミンD複合は閉経女性に対して骨塩・骨折への有益性を示す。
単独研究・セカンダリアウトカム研究により、セレニウムは前立腺、肺、直腸結腸癌リスク減少を示唆。ビタミンEは女性における心血管死亡リスク減少、男性喫煙者の前立腺癌減少。ビタミンA+亜鉛は中国の田舎での非噴門部胃癌のリスク減少。ナイアシン、葉酸、ビタミンB2、B6、B12のトライアルでは慢性疾患へのpositiveな効果は見られない
4)一般人への慢性疾患予防にMVMは何に対して有効であるか
5つのRCTがUS,UK、中国、フランスで行われた。それは、3-7種のビタミン・ミネラル、1つ以上の介入群を含むものである。
中国の研究は対象者はBMIが全て正常範囲内で、微量栄養素の不適切な摂取が示唆されるなど他国でこの結果を適応するには不適切と思われる。眼科疾患においては全てのひとに眼疾患が存在したり、2カ国の有病率が異なるなどそのままこのエビデンスを適応できるかは問題である。
・癌:癌発生頻度、死亡率、両者とも減少した2つのトライアル、中国ではビタミンE、βカロチン、セレニウムのアームに於いて総癌発生、死亡率は有意に減少し、食道癌、胃癌という2つのタイプの癌も頻度・死亡率減少。食道癌の減少が数年において有意に減少。
この研究の他のarmでは、亜鉛・ビタミンAにおてい非cardia胃癌の減少の相関有り、他の胃癌、食道癌の減少は見られなかった。
フランスにおいては、ビタミンE、セレニウム、ビタミンC、亜鉛を含む介入に於いて、男性における包括的な癌発生頻度減少の相関が見られたが、他の個別の癌では明確でなかった。包括的な男性死亡率は介入群で低かったが、女性ではそれも見られない。
中国では若年女性介入群では食道癌の発生頻度減少あったが、高齢者では高頻度となった。フランス男性では、PSA正常対象者で、介入にて前立腺発生減少したが、高いPSA値基礎値の場合は頻度増加がみられた。
・CVD:MVM使用にて有益性、有害性に関するレビューされた研究なし
・Cataract:白内障進展に関して目標アウトカムでは混合した結果。軽度で、一致していないが、有益性に関する2つの研究がある。
・加齢黄斑変性症:一つの研究でビタミンE、C、E、βカロチン、亜鉛の進展軽減の報告がある
上記、statementも以下のブログに記載の論文を考えれば、少々手ぬるい気がする・・・
・カルシウム+ビタミンDサプリメントの効果・・・骨折予防効果なし、腎結石増加、直腸癌予防効果なし
http://intmed.exblog.jp/3205715/
・ビタミンで心筋梗塞二次予防を悪化・・・ホモシステイン仮説の否定
http://intmed.exblog.jp/3331974/
米国政府のスタンスが今後どうなるか知るすべもないが、上記報告書を読むと、ビタミン過剰摂取に対する警告、製造責任の明確化に動くような気がする。
先進国において健常者がビタミン・ミネラル・サプリメントにこだわるのは、単純に無駄金を消費し、心配しなくてもよいかかる製品の有害性の機会を増やしているにしか私には思えないのだが・・・人の金の使い道をとやかく言うのも何だけど・・・サプリに金かけるくらいならもっと有意義な金の使い方があるように・・・
by internalmedicine | 2006-08-01 10:38 | Quack