膿性鼻汁を有する急性鼻炎(色のついた鼻水)での抗生剤投与:システミックレビュー

ICDで、acute prulent rhinitisという病名はどれに相当するか・・・急性副鼻腔炎もしくは上気道感染(複数部位・部位特定不能)と推定。

成人気道感染症診療の基本的考え方では
1.上気道感染症
a.急性上気道感染症:急性上気道炎(いわゆる
“かぜ症候群”),急性の副鼻腔炎
b.慢性上気道感染症:慢性上気道炎,慢性副鼻腔炎
2.下気道感染症・・・(後略)
と分類されている。

ここに、“ウィルス性上気道炎”は書かれているものの、“かぜ症候群”との概念に関して明確に書かれたところはない。

“膿性鼻汁をともなう”急性の鼻炎を、急性上気道炎の概念の中でどう扱うか?治療に関わるのである。


上記学会ガイドラインでは・・・
“鼻汁,鼻閉,くしゃみに対して副交感神経系の亢進,アセチルコリンの作用による鼻粘膜の充血,腫脹によってみられる症状である.抗ヒスタミン薬,吸入副交感神経遮断薬,点鼻血管収縮薬などが鼻粘膜のうっ血,浮腫を改善する目的で使用されるが,これらの長期連用には問題がある.従って短期間,回数を限り使用することを原則とする.”
とのこと

化膿性鼻汁における記載がないため、抗生剤濫用の可能性がでてくる

“化膿性は“かぜ”のありふれた症状である。膿性、透明な鼻汁でもその自然史に代わりがない(J Fam Pract. 1983 Jul;17(1):61-4.)などという報告にかかわらず、繰り返し、成人・小児とも抗生剤処方が繰り返される。
多くのガイドライン(e.g. (Ann Intern Med 2001;134: 495-7.)でも、膿性鼻汁というだけで抗生剤使用すべきでない。しかしながら、その後の散発するアモキシシリンが化膿性鼻炎の持続期間縮小の報告などあり、やや混乱を呈する部分がある。
と下記論文の序章で書かれ、結論から言えば、化膿性鼻汁があるからといって急性鼻炎への抗生剤治療することは、有益性、有害性のバランスから考えて望ましくないという報告

Are antibiotics effective for acute purulent rhinitis?
Systematic review and meta-analysis of placebo controlled randomised trials
BMJ 2006;333:279 (5 August)
化膿性鼻炎に関する寄与データのpooled effectにより、5-8日における抗生剤の有意なbenefit:相対リスク 1.18 (95% 信頼区間 1.05 ~ 1.33, random effect)、 1.21 (1.08 ~ 1.35, fixed effects)
もし、Herneのデータに膿性鼻炎が含まれるとするなら、相対リスク 1.21(1.09 ~ 1.34, fixed effects)
相対リスク1.18を採用すると、NNTは0.85~15となり、ベースライン0.35となる



様々な抗生剤使用
demethylchlortetracycline in Howie (1970)
amoxicillin and co-trimoxazole in Taylor (1977)
cefalexin in Todd (1984)
amoxicillin in De Sutter (2002)

2つの研究のpoolingにて、アモキシシリンの相対リスクは1.26(1.11 ~ 1.45 fixed effects)

副作用にプール化相対リスクは 1.45(1.10~1.94 fixed effect)で4つの研究から得られたデータである。
NNHは12-78で、統計的に有意なデータである (0.1898 to 0.02815)
有害性は主に胃腸疾患と少数の皮疹である。

フンネル・プロットにて少数研究の証拠不足が示唆された。




ref.)
メタアナリシスの場合、Fiexed effects modelやRandam effects modelが用いられ、
前者は、偶然による誤差であると仮定するものであり
後者は、研究毎にプロトコールの違い、患者の違い、地域の違いといった不均一性(heterogeneity)が研究の偏りに関与しているという考え
故に、Randome effets modelの方が信頼区間の幅が広くなり、有意差が出にくくなる(Beginners' Training Sheet for Systemic Review(pdf)より一部改訳)
メタアナリシスを容易に行うためのStatsDirect マニュアル(pdf)

Funnel Plot(BMJ 2000;320:1574-1577)
(ある薬剤の薬効は偏った研究発表により誤評価されている


ref.)
“かぜ症候群”という症候群・病名の存在理由なんてない

毎年おなじみの抗生剤パンフレット

とりあえず“かぜ薬”を処方する? レジデントノート2006年1月号 Vol.7 No.10 特集:“かぜ”を読む!

by internalmedicine | 2006-08-04 10:20 | 呼吸器系  

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