糖尿病の一歩手前でも体重の5%を減らせばほとんど発症しないという科学的なデータ???

・・・そんなのが存在するのだろうか?

生活習慣病に関するメディアからの情報は信じられないものが多い。
メディアへのアピールを考えて、自重の聞いてない文言を簡単に発する科学者とは思えない学会指導者たちに問題もある。非科学的な発言が、結果的には、無責任な行政に利用されてしまうのである。


以下の報道では・・・肥満を予防しようとしているのか、メタボリックシンドロームを予防しようとしているのか、糖尿病を予防しようとしてるのか、あるいは、本来のCVリスク全く意味不明の記事になってしまっている。
 
 ↓


◆体重3キロ、ウエスト3センチ減
 肥満対策で学会提言
 内臓脂肪の蓄積が原因で心筋梗塞や脳梗塞などの危険が高くなるメタボリック症候群を抑えるため、日本肥満学会は26日、肥満症の人は食生活を改善、運動し、体重を3キロ、ウエストを3センチ減らす「サンサン運動」に取り組むよう呼び掛けた。
同学会などは、同症候群の診断基準として、ウエストが男性で85センチ、女性で90センチ以上で、最高血圧が130以上か最低血圧が85以上などの項目を定めている。
 この日、松沢佑次理事長らが神戸市で記者会見し、「過食や運動不足がメタボリック症候群の主な原因」と指摘。
小児肥満が過去30年で5倍に増えているなど、今後も患者の増加が懸念されるため、「3キロ」「3センチ」と具体的な数値を示して対策を呼び掛けることにした。
糖尿病の一歩手前でも体重の5%を減らせばほとんど発症しないという科学的なデータを参考に目標値を決めたという。
学会は「肥満症でない人は無理なダイエットをする必要はないが、現状維持に努めてほしい」としている。(メディファクス:H18.11.1)



そもそも、前提から、行政ははき違えをしている。国は医療費削減のため、ライフスタイル改善を前面においている。ところが、そうはいかないのである。

BMJ 2006;333:764-765 (14 October)
糖尿病は世界的には20名に1人、2025年には3億3300万人が罹患。
小血管・大血管合併症予防に治療が役立つ可能性はあるが、合併症が生じた後に診断されることも多い。故に予防・早期検診に関心が向くわけである。ライフスタイル改善と薬剤という予防介入研究に関して2つの戦略であるが存在する。
The Diabetes Prevention Program Research Group studyでは2.8年間の58%発症頻度予防
同様な報告がリスク状態のある522名の人で検討されたフィンランドの研究で同様の結果。
このライフスタイル介入群の問題点は“labour intensive”であることであり、体重減少・運動レベル達成のためには、16のone to oneセッションが必要ということである成功の可能性は高いが、基金のある医療システムと同様の結果を再現することは困難であろう。


要するに、外国の専門家はライフスタイルの介入には、一対一対応でなければ効果が少なく、人手がいるので金がいりますよ!と述べているのである。



もとにもどるが、「"糖尿病の一歩手前でも体重の5%を減らせばほとんど発症しないという科学的なデータ"がある」というのはいったいどこからの情報なのだろうか?

DPSにしても、ライフスタイルの改善で、58%減少というデータなのである。

Prevention of Type II diabetes in subjects with impaired glucose tolerance: the Diabetes Prevention Study (DPS) in Finland
[Diabetologia (1999) 42: 793-801]

Prevention of Type 2 Diabetes Mellitus by Changes in Lifestyle among Subjects with Impaired Glucose Tolerance
NEJM Volume 344:1343-1350 May 3, 2001 Number 18



私などが直感的に感じる、“ほとんど発症しないというのは数%に押さえられるイメージ”なのだが・・・
それも、一対一の対応によるライフスタイル介入によるデータで半減程度なのであり、この提言なるものの根底に疑問を感じる。そして、・・・それくらいなら薬物療法に・・・という考えも出てくるのである。

The Diabetes Prevention Program Research Group studyでは、2.8年で31%のメトフォルミンによる発症頻度減少が見られた。
troglitazoneでは、重篤な肝障害が見られたためマーケットから消滅した(Diabetes Care 2004;27: 256-63.)

肥満患者において、orlistatはプラセボ比較で37%リスク減少が示されている(Diabetes Care 2004;27: 155-61.)。

ramipril and rosiglitazone medication (DREAM)トライアル(Lancet 2006;368: 1096-105 N Engl J Med 2006 Sep 15

このトライアルでは2500万ドル費用がかかり、5269名の30歳以上のIFGやIGTを対象に、rosiglitazone 8mg/日、ramipril 15mg/日の対照治験で、プライマリアウトカムは3年間糖尿病発生・死亡であり、治験終了時306名(11.6%)のrosiglitazone群の糖尿病発生に対し、プラセボ686(26%)でハザード比 0.40(95%CI 0.35-0.46)であり、Ramiprilは糖尿病リスク減少を示さなかった。心不全リスク少ない(10年リスク0.33%)一群にかかわらず、有意な心不全の増加が見られたことは重大(7.03, 1.60 ~30.9 3年間NNH 250).

Thiazolidinedione類は液性貯留・心不全と関連、特にインスリンとの組み合わせで多い。3年後のアウトカムで明確なbenefitを見いだせず、心血管イベントが介入群で多かった(1.37, 0.97 ~ 1.94, P = 0.08).



ちなみに、肥満への運動療法に関しても限界がある。
身体運動のみでは、比較的な体重減少のみしか生じない
体重減少のメタ・アナリシスで、
 21週のエアロビック運動では2.9Kgの体重減少
 15週のカロリー制限では11Kgの体重減少
(Miller,Koceja,& Hamilton 1997)

身体運動30-60分、週3回に運動制限プログラムを苦あえると約2Kg体重減少が加わる
(NHLBI, 1998)

運動のみで体重減少を生じるのは非常に難しく、1ポンド(453.6 グラム)の脂肪を燃やすには3500Kcal必要
75Kgの体重の人で、1マイル(1.60 キロメートル)ウォーキングで、約100Kcal、故に1ポンドの脂肪を消費するためには35マイル歩く必要がある。
(Handbook of Obesity Treatment) Thomas A. Wadden (Editor), Albert J. Stunkard (Editor)

by internalmedicine | 2006-11-01 11:13 | 動脈硬化/循環器  

<< 運動とフリーラジカルの表層的な矛盾 被害者(と思い込んでいる人も)... >>