米国診療報酬システム(CMS)の問題点

アメリカさんからのごり押しの季節・・・年次改革要望書をもとに今年も米国からのご意見をありがたくいただいたのだろうか?


(医療というものを分かってない)経済関係の方々が言うとおり、医療というのは経済から独立して存在し得ないことはたしかである。ただ、医療報酬システムの構築は何を目標にするか・・・それこそが重要で、それは利用者の利益が大事であることは異論がないだろう。

米国の医療報酬システムは、ある面でわかりやすい。この目標が比較的明らかであり、裏では別の目的を持っていても表面上は客観的データの上で議論されているからである。日本のような、“診療報酬=医師の報酬”、“医者は金持ちだから減らして良い”という感情論のみでシステム自体をゆがめようとする軽薄な、ステージ裏でのパワーゲームがまかり通るわかりにくいシステムではないからである。

日本の医療を考える上で、CMSという、米国の新たな診療報酬システムの情報というのは重要であろう。ある人たちにとっては経営の方向性(どうせ米国に右へならへ・・・の日本だから)に役立ち、ある人たちにとってはいかに米国追随の医療体制に対抗するかの材料として・・・(私にとっては医者をいつ辞めようかという判断材料として・・・(笑))


Paying for Performance — Risks and Recommendations
NEJM Volume 355:1845-1847 November 2, 2006 Number 18
pay-for-performance programは、日本もそうだが、米国でもメディケアというシステム内では少なくともautonomyが保たれてきた。米国でも、医療の質と報酬システムの乖離がここ10年ほど特に問題となってきた。米国のそれは信頼しうる医療の質の評価システムが徐々にできあがりつつあり、それが病院や救急機能評価に使われている。
しかし、同時にパフォーマンスの多様性が判明した。そして、公的機関や民間機関、そして保険会社でも同時にコスト増加上昇による危機的状況になっている。そのコスト上昇に対し、支払い側は説明要求を行っている。同時に経済的インセンティブが、行政の影響力を与えることもよく知られている。

Centers for Medicare and Medicaid Services (CMS) という支払い側のセンターが出現し、それに対し医療機関側の注目が集まっている。
このセンターが何を目的にしているか、ケアの質の改善を目的としたものが望ましいところだが、それが“効率”(ie., ケアのコスト)が唯一の焦点となることをおそれているのであり、センター側の都合良く医療機関側を選択することにもっとも多くのおそれを持って見守っているのである。


現行のメディケアの医療機関パフォーマンス評価項目

・予防サービス
子宮頚癌検診:1-2年次のPapテストの一つ以上の比率
タバコ:2年間の1つ以上の測定時の患者の喫煙比率

・糖尿病
血糖試験:糖化ヘモグロビン試験の糖尿病患者での実施比率
血糖コントロール:糖化ヘモグロビン>9% 糖尿用患者の比率

・うつ
急性うつ治療マネージメント:大うつの新規診断比率と、12週の急性治療期間において継続されている抗うつ治療比率
うつ継続マネージメント:大うつの新規エピソードと6ヶ月以内に抗うつ治療継続されている比率

・過剰検査・治療測定についての項目
上気道感染(URI)治療:URI診断した患者のうち、エピソードの日から3日以内に抗生剤非処方比率
咽頭炎小児の検査:咽頭炎診断された患者のうち、抗生剤処方し、A群レンサ球菌検査比率


この現行の評価しても、現実に沿っておらず、たとえば高齢者において、多くの慢性疾患が有ること、リスク、benefit、患者の好みも多彩。
もともと少数の実態数である場合などサンプルサイズが適切でなかったり、個々の医師評価など困難であろうと記載されている。

医療機関への効率性要求が日本でも高まり、米国医療の一方的導入、画一的な評価そういったものが予想されるが、米国での経験ですでに問題点が明らかになっている。

リスクへの補償が十分でないため、重症患者やリスクが複合的に存在する場合、そのケースを避ける傾向が当然出てくる。
リスクだけ多くて、関わる報酬・評価が低い医療システムは、隘路に陥るのである。
日本で直面している産科医療や急性期医療における状況がまさにそうであり、いびつな評価システムの導入によりそれが促進する可能性が高い。
それを克服するためには、セーフティーネットによる補償があるべきである。

なにより、経済インセンティブの協調性は医療従事者のモラルを低下させる。
いままでの医療従事者の行動の源は、プロフェッショナルの(public)altruism<利他主義>であった。
それを真っ向から否定するメディア報道や軽薄なメディア出演者の発言・出版が相次いでいる。
この利他主義は、医療商用化により、その立場が大いに脅かされているのである。

by internalmedicine | 2006-11-05 12:12 | 医療一般  

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