経口バソプレシンV2-受容体拮抗剤を低ナトリウム血症全般に使用した臨床トライアル
2006年 11月 15日
電解質排泄の増加を伴わず過剰な水分のみを排泄する水利尿作用を有する経口投与可能な非ペプチド性バソプレシンV2‐受容体拮抗剤
効能・効果は、「異所性抗利尿ホルモン産生腫瘍による抗利尿ホルモン不適合分泌症候群(以下:SIADH)における低ナトリウム血症の改善(既存治療で効果不十分な場合に限る)」
同様な非ペプチド性バソプレシンV2‐受容体拮抗剤に関するTolvaptanを、慢性心不全や肝硬変の体内水貯留をきたす低ナトリウム血症全般に使用した臨床トライアルの報告
Tolvaptan, a Selective Oral Vasopressin V2-Receptor Antagonist, for Hyponatremia
N Engl J Med 2006;355:2099-112.(pdf)
【方法】2つの多施設ランダム化二重盲検プラセボ対照トライアルにおいて、tolvaptanの有効性をeuvolemicあるいはhypervolmicな低ナトリウム血症において評価。
患者をランダムにプラセボ(223名)、経口tolvaptan(225名)を15mg/日に割り当てた。
必要なら、血中ナトリウム濃度をベースに30mg/日から60mg/日に増加。
2つのプライマリエンドポイントは、血中ナトリウム濃度の平均AUCの変化を基礎値から第4日目、基礎値から30日目までの変化を評価
【結果】血中ナトリウム濃度は、第4日でプラセボ群と比較してtolvaptan群で増加(P<0.001)し、完全に30日後も増加(P<0.001)
軽度から著明な低ナトリウム血症の状態は改善(P<0.001)
The condition of patients with mild or marked hyponatremia improved (P<0.001 for all comparisons).
tolvaptan中止後の週で、低ナトリウム血症が再燃
副作用は、口渇、口腔乾燥、尿量の増加を来すこと
n engl j med 355;20 www.nejm.org november 16, 2006 p2146(pdf)
低ナトリウム血症は院内の電解質異常の中でもっともcommonである。そのマネージメントに関しては数多くの研究やレビューがある。腎臓の集合尿細管のV2受容体を介した慢性心不全や肝硬変の体内水貯留は、心拍出量増加や肝硬変の拡張した内臓循環で、最初に働くpositive defenseである。
SIADHは、もちろん別の現象である。
SIADHの水貯留は生理学的な目的を持たないものであり、低ナトリウム血症は緊急測定を要するほど重大な問題である。
低ナトリウム血症のマネージメントは段階治療によるもので、軽症例では水分制限、症状有りの時は、注意深く食塩を投与することまで行われる。
慢性心不全や極度の低ナトリウム血症において、管理は常に容易とは言えず、あまりに早すぎる補正は橋部および橋外髄鞘融解(PEM)を生じる危険性がある。
vasopressin V2受容体拮抗剤に関心が集まり、低ナトリウム血症治療に直接、安全に治療できることことなった。
V2受容体は低ナトリウム血症において単独のプレイヤーでないという理解がひろまっている。
V1A受容体を含めた他のホルモンは、このホルモンのpressor actionを
V1B受容体は、vasopressin刺激性のadrenocorticotropin分泌を含み
他のまだ特徴化されていない受容体も存在する
V1A受容体の活性化はeuvolemicやhypervolemicな低ナトリウム血症で特に重要で、vasopressinの血中濃度高値が持続する。
実際、vasopressinは末梢循環の強力な昇圧物質ということから名前の由来があり、イヌの冠動脈床の収縮物質であることが締めさえている。
動物実験のエビデンスから、vasopressinは心臓への直接作用を有し、培養筋肉細胞のカルシウム濃度増加を生じ、潅流ラット心臓の心筋肥厚を生じることが示唆されている。
vasopressinはendothelinの合成を促進し、angiotensin IIへの影響に寄与する。
心血管疾患のV1A受容体の役割は、GoldsmithによりReviewされ、V1Aを介した作用は心不全患者のvasopressin値が疾患初期において増加し、低ナトリウム血症が明らかになる前から増加していることがレビューされている。
vasopressin受容体拮抗剤が、ホルモンの副作用を早期にブロックする可能性が示唆され、V2受容体のペプチド拮抗剤が試験され、動物モデルでは効果があったが、ヒトではineffectiveであった。
最近、高through put technologyにより、非ペプチド受容体拮抗剤が作られ、ヒトで効果があることが示され、いくつかが臨床トライアル中である。
V2受容体拮抗剤 Tovaptan、V1/V2受容体拮抗剤 conivaptan(Vaprisol)は、それぞれ、USでは第三相臨床治験となっている。
tolvaptanやconivaptanはbenzazepine誘導体である。
Schrierらは、2つの多施設、ランダム化、二重盲検トライアルを行い、対象者も慢性心不全、肝硬変、SIADH、他の原因による低ナトリウム血症を含むもので、重症度も軽症から重症までさまざまであった。
Study of Ascending Levels of Tolvaptan in Hyponatremia(SALT-1、SALT-2)の2つのトライアルのあわせた研究で、V2拮抗剤の有効性を示した研究がこの論文である。
この報告で、30日間外来治療患者であり、入院患者でなく、患者の身体的・精神的well-beingに関する評価を含む者で、有意に急速に血中ナトリウムや尿量の増加をプラセボに比べて認めた報告である。さらに、治療終了後30日を超えてこの増加は続いた。
Tolvaptanは15mg/日で開始し、4日で30mg/日、さらに60mg/日と増加させた。135mmol/l未満の患者で投与量を増加し1日5mmol/l未満の増加をさせた。
tolvaptan割り当ての223名のうち4名で、最初の24時間で146mmol/lの血中濃度を超えた
高濃度の時は、投与量減少・中止
副作用は口渇と口腔乾燥;もっとも重篤な副作用は低血圧、dizziness、syncopeであった。
対照群でもadverse eventsを生じたが、これは基礎疾患によるものであろうと考えられた。心不全、肝性脳症、急性呼吸苦、浮腫を含む
死亡率はtolvaptanとプラセボ群で同様。
自己アンケートスコアでは、tolvaptane治療を受けた著明な低ナトリウム血症の患者ではmental componentの認知ドメインの改善、なかでも、包括的well-beingの改善、集中力の改善がみられたが、身体的コンポーネントは差異がなかった。
by internalmedicine | 2006-11-15 15:53 | 医療一般