医師は、恐怖を感じさせる患者を治療してはいけない

日本だとこういう記載をすると、つるし上げにあうんだろうなぁ・・

NEJM perspective(NEJM Volume 355:2064-2066 November 16, 2006)に以下の文書が書かれていた・・


幾分でも身の危険を感じるときに拒否することは精神疾患患者を治療する精神科医師や医療従事者にとって自然なことである。
われわれが恐怖を抱く患者と、治療的な関係を結ぶことは困難。暴力のリスク、たとえその可能性が小さくてもそのリスクは存在し、十分警戒することが大事である。

Exworthy(Redford Lodge Hospitalの精神科医)が引用する "I guess I let down my guard and paid for it." (警備をおろそかにして、その代償を支払うこととなる)という言葉

警戒をすることは、患者への不安やおそれについて(医師・医療従事者の)関心が向いていることを意味する;医師はおそれを抱く患者を治療してはいけな


何に対してかというと、

2006年9月3日精神科のエキスパートであるWayne Fentoが彼のオフィスで、19才の統合失調症患者に殴られ殺された事件のことである。


この悲劇的な事件は公表され、精神疾患患者の潜在的危険性に関する議論に波及した。
精神疾患患者と関係する医療機関に関してその安全性について医療界で関心が持たれている。

1993-1999年のNational Crime Victimization Surveyによれば、非致死的、職業関連の暴力犯罪は、1000労働者に対して発生数12
医師では、その率は1000名に対して16、看護師は21
しかし、精神科やメンタルヘルス関連職業では68であり、精神医学管理者では69である
最近まで多くの研究は精神医学の患者における暴力の頻度や、暴力犯における逮捕、有罪判決、拘留のうちの精神疾患の割合などに関して注目が集まっていた。
たとえば、イギリス国家調査では統合失調症の障害リスクは殺人有罪判決のうち5%(he British Journal of Psychiatry (2006) 188: 143-147.)であるというものがある。統合失調症と殺人との関連は、殺人者において、一般人口における比率より統合失調症の割合が多いことが判明。ただし、これはselection biasがあり、逮捕・拘留、入院となったものはより暴力的で、疾患頻度が高いことが想定され、一般とを比べることは困難であろう。
より正確なバイアスのかからない地域サンプルの疫学研究がなされ、 NIMH's Epidemiologic Catchment Area (ECA) studyというので、5つのUSの地域の17803名のサンプルで調査されたもの。
(Violence and mental disorder: developments in risk assessment. Chicago: University of Chicago Press, 1994:101-36.)
“暴力”をナイフ・鉄砲などの武器使用で、パートナーや配偶者より他のひとに与えたもので、1回以上の暴力行為と定義したときの約7000のデータを集めた。
DSM-IIIで定義された、重症な精神疾患患者、すなわち、統合失調症、大うつ、bipolar disoderでは、攻撃的行動は、2-3倍であった。

絶対的頻度としては、生涯頻度として上記疾患有りは16% vs 無しは7%であった。
必ずしもすべての性心疾患が暴力と関連するわけでなく、不安症疾患はリスク増加と関連無しで、統合失調症、大うつ、bipolar disorderのほとんどの患者も暴力行為を犯すわけではないが暴力のリスク増加に有意に関連しているといえるのである。
重篤な性心疾患はきわめて稀であり、一般住民にとって包括的比率はほとんど寄与しない。寄与リスクは薬剤依存などよりも低い3-5%であろうと推定される。
(アルコールやドラッグ依存のある非精神疾患患者は、暴力行為報告は、依存のないひとの約7倍の頻度である)

ただし、精神疾患患者のうち薬物依存は暴力のリスクを増大する。有る研究では、暴力犯罪において、薬物依存、暴力犯罪の既往、ホームレス、医療状況の悪いものが独立したリスク要因である。
ECA研究によれば、リスクのない、もしくは一つのものの1年間の暴力行為出現率は2%で、多因子リスクで重篤な状況を生じることとなる。

治療患者と精神疾患無しのヒトの暴力リスクには差がないという研究結果。診断自身より、精神疾患の症状が暴力行為のリスクと関連しているように思える研究結果。


暴力による殺人というのに限れば、精神病者はリスクが高いようである。ただ、殺人という事象の責任を精神障害者に負わせるというのは問題である。
そういうリスクがほとんどの患者では無縁である。
リスクの層別化にて、より高リスク群の選抜と、その対策は必要であろうが・・・

ただ、リスクの高い患者へは、医療関係者としても、わが身をまもることを優先にせざるえないということは広く理解してもらわなければならないだろう。



by internalmedicine | 2006-11-16 16:52 | 医療一般

 

<< 肥満予防のため運動介入はBMI... CHICAGOスタディー:アク... >>