進行期認知症の経管栄養問題
2006年 12月 11日
日本では、議論そのものをあまり聞くことがない。
“経管栄養をはじめなければ訴えられるという恐怖感”も今年あたりから検察庁などのおかげで現実のものになりかけている。選択肢自体が日本にはないのかもしれない。
だが、経管栄養は、食べたくないものへの食事の強制となり、患者のAutonomyを侵害するという考え方もあるのだ。
考慮すべき倫理的側面:
Beneficence (“Do good”)
Non-Maleficence (“Do No Harm”)
Autonomy
Justice
Ethical decision-making for tube-feeding should reflect a balance between benefits and risks
BMJ 2006;333:1214-1215 (9 December)
食事摂取量の減少と体重減少は、高齢者の加齢現象である。老人の食事摂取はまた、義歯があわないこと、機能的なdisability、うつ、孤立、貧困などがの病的な要因でも生じる。認知症でない老人栄養不良患者は栄養的な補助によりbenefitがあることはエビデンスの構築がなされている。チューブ栄養の高度の認知症患者のランダムトライアルがなされておらず、観察研究の結果や他の条件でのトライアルの結果で、専門家意見のコンセンサスとして、高度認知症患者のチューブ栄養は生命予後を改善しないし、そのqualityも改善しないという結論に達した。
BMJ 2004;329:491-4.
N Engl J Med 2005;353:2607-12.
Nutr Clin Pract 2006;21:118-25.
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JAMA 1999;282:1365-70.
N Engl J Med 2000;342:206-10.
Proc Nutr Soc 2001;60:179-85.
Curr Opin Clin Nutr Metab Care 2002;5:35-42.
なぜ、そうなのか?
・チューブ栄養の生命予後短縮化ははしばしばdeliveringの不足という問題もあるが、それだけで説明できるものだけではない。主に2つの理由から高度認知症患者ではチューブ栄養による利点がないことが説明されている
・身体的、神経学的リハビリテーションを損なわれてるため、空腹をしらない
・代謝率(metabolic rate)が低いこと(身体運動が少ないため、筋萎縮・)
低栄養の状態こそ生理学的ホメオスターシスなのである
チューブ栄養が高度認知症患者の死亡予防に役立たず、QOL改善もしないという臨床的が経験がこの概念を支持するものである。入院前より体重減少が見られ、低代謝率であり、体重そのものは観察期間中不変が多い。
医師は、認知症患者では体重の変化により飢餓が進行しているか判断できる。すなわち、一定の体重なのか、正常下限なのか、飢餓の進行なのか、他の医学的状況があるのかである。
患者の自立(autonomy)の倫理は、代謝の側面からも考慮されるべきである。
ビタミン不足は重要である。
葉酸欠乏、ウェルニッケ脳症、壊血病などが高度認知症で見逃される危険性がある。これらの疾患はマルチ・ビタミンで予防できる。
通常の毎日の食事を否定することは悪いことであるというモラル議論
食事を希望し、摂取できない状況(口腔の状況、機械的状況・リスクなどが理由の場合)では経管栄養の候補となる。
飢餓死が避けられないという体重減少患者の中には存在するが、経管栄養のモラル議論は、単に食事が多くとることへ嫌悪感を示しているに過ぎない場合や体重が一定でそう変わらない場合には適応すべきお話ではない。
ある場合は、家族が、一定の体重十分食事をとってないからと家族が訴える場合がある、実際には逆に体重が増えている場合さえあるのだが・・・
経管栄養は分化基準にに深く基づく事があり、代理の意思決定への心理学的影響を与え、cosmeticな理由が影響を与えることもある。経管栄養の副作用や危険性を最小化し、家族に信頼される方法で臨床医はそれを遂行するというのは難しく、定かな方法ではない。体重減少を防ぐ最小量を与え、もし副作用イベントが生じたら撤退するというのがその目標となる。
Should formal clinical trials of tube feeding be carried out in severe dementia?
適切なエビデンスに基づく医療に関してはトライアルデザインに期待が持たれている。何を治療すべきかという疑問にはっきり答えられるトライアルである。
医療側も単純にやせてるからと経管栄養を開始し、栄養不良を放置したと家族から訴えられる危険性すらある。結果、10年以上経管栄養で老人施設で・・・という・・・だれにも幸福をあたえない状況が出てくるのだ。
by internalmedicine | 2006-12-11 09:03 | 内科全般