小児のメタボリックシンドロームは決して増えないという矛盾
2006年 12月 15日
小児のメタボリックシンドロームは決して増えないというのに気づいたのだ。
なぜなら、根幹である腹囲異常を、パーセンタイルで定義しているからである。絶対値比較でないため、その世代でのメタボリックシンドロームは、常に一定なのである。
ちょっと、概念について御勉強してみよう・・・
"the metabolic syndrome"は、1988年、Reavenらがインスリン抵抗性と高血圧、脂質異常、2型糖尿病、他の動脈硬化性疾患との関連の関係を成人で提唱したのがはじまり
子宮内にいるときからこの症候群ははじまっていると主張も
肥満は、小児におけるインスリン抵抗性のもっとも大きい問題で、脂質代謝異常、2型糖尿病、長期血管疾患合併症と関連。
NHANES III(third National Health and Nutrition Examination Survey)などで調査されたサンプルでは、過体重思春期6.8%、肥満の28.7%に存在(1988-1994)。
(Arch Pediatr Adolesc Med 2003;157:821-827.)
このときのクライテリア
腹囲に関して、90パーセンタイル表示である。
日本における小児メタボリックシンドロームの報告
http://wwwsoc.nii.ac.jp/jasso/topics/pdf/topics11_196.pdf
だと、14.5%(男児:13.6%、女児:16.0%)とのこと
さて、本題だが・・・
個人的な意見だが、パーセンタイル表示というのは小児の成長の評価によく使われるものである。これを、メタボリックシンドロームという“特異的な疾患概念”に用いて良いものであろうか?
メタボリックシンドロームという疾患名?が存在する意義は、結局のところ、糖脈口か性疾患によるアウトカムに影響を与えているかどうかなのである。これに関しては結論はすぐには出せないし、研究スパンの長さが数十年に及ぶであろうから、神のみぞ知る領域・・・容易に結果を検証できないのである。
いいかえれば、疾患概念は言いたい放題なのである。
パーセンタイル表示を用いることは、逆に言えば、特定の比率でその疾患であると知らないうちに定義してしまっているのである。これは過大評価かもしれないし、過小評価かもしれない。
概念というより、診断基準が先走りしすぎるメタボリックシンドローム
“肥満という概念で診断・治療する以上に新たな付加的な価値がその診断概念にあるか”が、この病気の存在意義について本来必要な議論なのである。
なお、小児のインスリン値は高いのが当たり前だと思うのだが、一方ではパーセンタイル表示を用い、一方では成人の標準値を用いる矛盾を矛盾と思わない研究者たちに対する疑念・・・最近、この種のお話を拝聴したときに感じた疑問である。
インスリン抵抗性という指標が重要というなら、インスリン抵抗性でよいわけで、わざわざ“メタボリック”という用語を用いる(Hypertension. August 21, 2006.)理由がよく分からない。肥満という要因、インスリン抵抗性という要因、腹囲というプリミティブな指標、他の動脈硬化性疾患悪化要因が混在し、あいまいさを増長している。さらに、小児科領域においてもそれが広がっているのである。
厚労省がこの種の研究費に対して寛容になっているので、存在意義の議論を無視して、厚労省の気に入る研究をしているだけなのではという邪推なのだろうか?
by internalmedicine | 2006-12-15 08:32 | 医療一般