はたして乳ガンリスク計算式は個人に適用できるのか?
2006年 12月 19日
乳ガンのリスク計算ができると聞けば、数字で出てくるため、なんとなくそれが個々人において確定的な真実であるかごとく、ひとり歩きしてしまう。
それを乳ガン治療のDecision makingにまでつかうことがまま行われていると思う。果たして、それはほんとによいのであろうか?
The Risk of Cancer Risk Prediction: "What Is My Risk of Getting Breast Cancer?"
Journal of the National Cancer Institute, Vol. 98, No. 23, 1673-1675, December 6, 2006
もっともよく知られているGail modelの乳ガン診断予測モデルで、
年齢、race、初経、初回生下出産、乳ガンを有する第一度近親(first-degree relatives)、以前の乳房生検数、atypical hyperplasiaの存在がその因子である。
このモデルで、5年以内と生涯(90歳まで)の女性の乳ガン診断尤度を予測するもので、これを含め類似の推定モデルはすでにインターネットでも利用可能である。
Memorial Sloan-Kettering Cancer Center. Prediction tools: lung cancer risk assessment
University of Texas Southwestern Medical Center at Dallas
NCIウェブサイトのGail modelは月2万~3万回の閲覧数であるとのこと。
個々にこの予測モデルを適用することがなぜ難しい。
多くの状況で、統計的に一致率0.66というのは個々のdecision makingをするにはあまりに低い数字である。
・現在のモデルのリスク要因がpopulationを通したものであり、個々への感度・特異性に優れたものではない
・加えて、リスク要因は、すなわち、約200に一つのリスクなどといった、検診の時に価値のあるものであり、それに強く関連のあるものである。それをそのまま、リスク要因の組み合わせをケースにおいて同様であると適応している前提に問題がある
・多くのリスク要因は乳ガンというリスクとしては比較的弱く、たとえ、“強い”リスク要因である年齢、マンモグラフィーの陰影、放射線被曝でさえ相対リスク10未満である(BRCA1変異若年女性は例外)
populationには良好な予測因子でも、個々の予測ではそのperformanceは発揮できない。インターネットで入手できるわけだが、高リスクと予測される有益な情報としても、その解釈には注意が必要である。個々の女性に正確に乳ガンになると予測できるわけではない。予測できるにはまだまだ多くの研究が必要なのである。
占いなどで“来年の運勢が良い悪い”などと予測するが、人の一年なんて、良いか悪いか白黒はっきりしたものでないのがふつうである。そういう曖昧性を利用して、説得してそれを生業とするのが占い師だと思う。医学的予測はそういうあいまい性があってはいけない。
予測式なるものが発表されると、適応できない状況までも、その数式を当てはめることがまま行われている。
比較的予測式が確立している乳ガンという場合でも、まだまだ個人の予測という面では問題点が多いということをあらためて感じる。
それは、ガン予測以外の分野でも同様と思う。メタボリックシンドロームなんて現実に適応できるかどうかなんて誰も知らないと思うのだが、日米の研究者の暴走・・・(後、自粛)
by internalmedicine | 2006-12-19 08:32 | 医療一般