メタボリックシンドロームは心血管疾患リスクとしてそんなによい指標か?


メタボリックシンドロームは将来のCVDや糖尿病のリスクを増やすということであるが、臨床的意義に関して、アメリカ糖尿病学会(American Diabetes Association American Diabetes Association)とヨーロッパの学会( European Association for the Study of Diabetes)のジョイント・ステートメントにて疑問が呈されている。

1)将来のCVDのリスクアセスメントツールとしてその価値は判明していない、特徴付けのはっきりしないentityである。
2)1つあるいは2つのCVDリスク要因を持つの治療において医療者をミスリーディングする可能性がある。
3)将来の糖尿病予測に関しては効果的だが、“耐糖能”を超えた意義があるのか不明である。



・・・こんな疑問が提唱者たち・国際的権威の有る学会で公表されているのに、国は施策としてメタボリックシンドローム導入を勧め、反対者を分からず扱いをし続けるお偉い先生方がいる日本・・・NCEPは推進側なので、当然肯定的な報告になるだろうと予想していたが、その中身をみるとますます疑念が深まるのである。こんな曖昧かつ心血管疾患予測性の低い概念、そして心血管疾患のみを念頭に置いた、日本と疾病構造の違うところから発生した概念を国家的に実践して良いのだろうか?


メタボリックシンドロームの臨床的意義を明確にしようとする動きがあるのは当然で、、これがはっきりとした区別ができるものであるかを調べたもので
San Antonio Heart Study (SAHS)の仮説をメタボリックシンドローム( (National Cholesterol Education Program [NCEP] risk factor categories)と糖尿病(2時間後血糖)を比較したもの

結論から言えば、メタボリックシンドロームは、CVDリスクとして、45歳時の男性、55歳児の女性で有意なリスク要因であり、糖尿病予測としては、耐糖能単独より優れているとのこと・・・


The National Cholesterol Education Program–Adult Treatment Panel III, International Diabetes Federation, and World Health Organization Definitions of the Metabolic Syndrome as Predictors of Incident Cardiovascular Disease and Diabetes
Diabetes Care 30:8-13, 2007

2時間後血糖値による糖尿病予測のROCカーブ、IGT、IFG、メタボリックシンドロームの感度、疑陽性率(FPR)
ATPIII定義は、IDF定義より感度が低く、より特異性が高い
ATPIIIとWHO定義の感度差はほぼ有意だが(P = 0.058)、WHO定義の方が得意度が高い(P = 0.014).




CHDなし男性において、45歳以上ATPIIIメタボリックシンドローム(オッズ比 92.5[95% CI 4.85-17.7]) と、2つ以上のマルチプル・リスク+10年冠動脈性心疾患(CHD)のリスク(10-20% 11.9 [6.00-23.6]) )は、CHDリスクを持っている男性と同様の心臓血管性疾患(CVD)リスクである。

女性においては、マルチプル・リスク+10年冠動脈疾患(CHD)リスク10-20%は頻度が少ない。

しかし、10年CHDリスク5-20%(7.72 [3.42-17.4])とATPIIIメタボリックシンドローム+55歳(4.98 [2.08-12.0])はどちらもCVD予測しうる。




NCEPリスク要因カテゴリー(JAMA. 2001;285:2486-2497. )と“メタボリックシンドローム”を用いて7.4年間のCVD発症オッズ比を95%信頼区間を用いて表現したもの → 

全例の部分だけ抜書きしてみる・・・
CHD and/or CHD リスク vs ATPIII定義メタボリックシンドローム

【男性】
感度:52.7 vs 60.2 %
NFP:9.9 vs 23.6 %
オッズ比:10.1 (6.38–15.9) vs 4.89 (3.15–7.60)

【女性】
感度:49.2 vs 57.1 %
NFP:13.2 vs 24.5 %
オッズ比:6.36 (3.79–10.7) vs 4.11 (2.46–6.87)


以上のように、メタボリック・シンドロームという概念はCVD・CHDリスク推定方法より決して優れているとは思えないのである。しかも女性においては、この指標はみるも無残と思うのだが・・・


お役人たちは、これでも、このメタボリック・シンドロームを金科玉条のごとく、錦の御旗とし続けて、税金を注入し続けるつもりなのだろうか?


もっとも、すべてを否定するつもりはない。糖尿病への高リスク群患者の指導として、また、男性などのCVリスクのalternativeな指標という意味では評価はできるであろう

by internalmedicine | 2007-01-05 10:47 | 動脈硬化/循環器  

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