救急医療における終末期医療のあり方に関するガイドライン案(抜粋)

日本救急医学会(代表理事=山本保博日本医大教授)の「救急医療における終末期医療のあり方に関する特別委員会」(委員長=有賀 徹昭和大教授)が検討していたもの。


救急医療における終末期医療のあり方に関するガイドライン案(抜粋)


I 問題の背景と基本的な考え方・方法
(1)わが国における救急医療現場での終末期の現状人は誰もが安らかな死を迎えたいと望む。しかし救命救急患者の場合は、患者本人や家族に終末期に対する心の準備は全くない。そして救急医療ではどのように厳しい状況であっても全力を傾けて蘇生や治療が行われ、医師が医学的根拠に基づき生命維持装置を取り外すことは現実的にはできない。

(2)治療中止基準の必要性
 救急現場では、延命措置を中止するのが妥当のように思われる状況があるにもかかわらず、その対応が明確に示されていない。従って、医師の個人的な判断で治療中止を実行すれば、その後の世間から誤解を招く結果ともなりかねない。この問題を解決するには、日本救急医学会として妥当な終末期の定義を設け、一定の条件を満たせば延命措置を中止できることを示す必要がある。

(3)終末期の定義とその判断
 ここで言う「終末期」とは、妥当な医療の継続にもかかわらず死が間近に迫っている状態で、救急医療の現場で①~④のいずれかのような状況を指す。
①法的脳死判定基準、または他の妥当な基準で脳死(臨床的脳死診断を含む)と診断された場合
②生命が新たに開始された人工的な装置に依存し、生命維持に必須な臓器の機能不全が不可逆的であり、移植などの代替手段もない場合
③その時点で行われている治療に加えて、さらに行うべき治療方法がなく、現状の治療を継続しても数時間ないし数日以内に死亡することが予測される場合
④悪性疾患や回復不可能な病気の末期であることが、積極的な治療の開始後に判明した場合

(4)本人または家族の意思の確認方法とその後の取り扱い
 主治医は家族に対し、治療を続けても救命の見込みが全くないことを十分に説明し、状況の理解を得る。ここで家族の意思が救急医療に積極的である場合には、あらためて説明し、その後に家族の意思を再確認する。
再確認した意思が、引き続き積極的な対応を希望している時には、それに従うのが妥当である。しかし、結果的に死期を早めてしまうと判断される医療行為、例えば外科手術などは行うべきではなく、現在行われている治療水準を維持することが一般的である。
そのようでなければ、複数の医師、看講師らを含む医療チームは、以下(4)-1~3を選択する。

(4)-1.家族に「受容する意思」がある場合
 家族と協議し以下の優先順位に基づき、治療中止の方法を選択する。
①本人のリビング・ウイルなど有効なadvanceddirectives(事前指示)が存在し、加えて家族がこれに同意している場合はそれに従う。
②本人の意思が不明であれば、家族が本人の意思や希望を付度し、中止に同意する場合に、家族の容認する範囲内で延命措置を中止する。
上記(D(かの順で、家族の総意としての意思を確認した後に、(5)から適切な対応を選択する。

(4)-2.家族の意思が明らかでない、あるいは家族が判断できない場合
治療中止の是非、時期や方法についての対応は、医療チームの判断に委ねられる。その際、担当する主治医個人のみによる判断ではなく、医療チームとしての結論であることを家族に説明する。この結果、選択されて行われる対応は、家族やその関係者が納得していることが前提となる。

(4)-3.本人の意思が不明で、身元不詳などの理由により家族と接触できない場合治療中止の是非、時期や方法について、医療チームにより慎重に判断する
医療チームによっても判断がつかないケースは、院内の倫理委員会等で検討する。

このような一連の過程については、後述する診療録記載指針(略)に基づき、診療録に説明内容や同意の過程を正確に記載し、保管する。

(5)治療を中止する方法についての選択肢一連の治療過程において、すでに装着した生命維持装置や投与中の薬剤などを中止する方法(with∴drawal)、またはそれ以上の積極的な治療や手術などをしない方法(withhoIding)について、①~④などを選択する。
①人工呼吸器、ペースメーカー、人工心肺などを中止、または取り外す。
(注)このような方法は、短時間で心停止となるため原則として家族の立会いの下に行う。
②人工透析、血液浄化などの治療を行わない。
③人工呼吸器設定や昇圧剤投与量など、呼吸管理・循環管理の方法を変更する。
④水分や栄養の補給などを制限するか、中止する。




「刑事訴追は想定していない」とのこと
ガイドライン案を取りまとめた有賀委員長は同日、会見し、「医学的かつ倫理的にきちんとしていれば刑事訴追されることは想定していない。ガイドラインに従えば、警察から意見があった時も、きちんと(経緯を)説明できる」とガイドラインの意義を強調した。
なお、厚労省が昨年9月にまとめた「終末期医療に関するガイドライン(たたき台)」は、患者の意思の確認方法や医療の決定プロセスに限定されており、今回のガイドラインは、救急現場におけるより具体的な対応を定めたものになっている。





朝日新聞の解釈だと・・・
「ガイドラインには、治療を中止した医師が患者を死亡させたとして刑事責任を問われることを防ぐ狙いもある。有賀委員長は「ガイドラインに沿った行為なら、仮に医師が刑事訴追を受けたとしても、学会として間違った行為ではないと主張していく」としている。 」



医者が決めることに不満いっぱいの朝日新聞
 ↓


これまで個別の病院や医師の判断で治療を中止し、刑事責任を問われることもあった医療現場にとって、初の指針となる。「家族が治療中止を判断できない場合は医療チームが判断できる」とするなど踏み込んだ内容なだけに、論議も呼びそうだ。

延命治療、意思不明なら医師が判断 救急医学会が指針案
asahi.com 2007年02月16日09時56分


原文をみると、当然のような気がするのだが、メディアは医者の判断全部が嫌いのようである

by internalmedicine | 2007-02-26 08:23 | 医療と司法  

<< アンチ・エイジング治療  ライノウィルスは単なるかぜのウ... >>