ワクチンでは肺炎そのものは予防できない

NHKの“ためしてガッテン”のウェブサイトで、“「ワクチンでは肺炎そのものは予防できない」”とサイトかかれている。

この問題は再三ブログで取り上げてきた・・・ので、もう 飽きられているだろうが・・・

老人に対して“肺炎の予防ワクチンがあります”などと言ってワクチン接種を推奨する医師が多く存在し、万有製薬のくすりのしおり(pdf)にも、“肺炎球菌による肺炎などの感染症を予防するワクチンです”と書かれているので、そういう医師が存在することは当然なのかもしれない。

前述のNHKのためしてガッテンには、冒頭の記載の後、 “実は肺炎球菌ワクチンは、肺炎の発症そのものを完全に予防することはできません。しかし、肺炎が重症になるのを防ぎ、入院するまでひどくなることや死に至るケースを減らすことができます”としているが、ヨーロッパの学術誌(Eur Respir J 2005; 26:1086-109)では“ワクチンは肺炎の発症減少効果はないだろうが、重症度を減少させる可能性がある。老人のワクチン接種の有効性を指示するものであり、老人のシステミックなワクチンへの議論を開始すべき”と書かれているのでガッテンの記載とほぼ一致している。

製薬メーカーの方のパンフの方が誤解を受けやすい表現なのである。

そもそも氾濫する肺炎球菌ワクチンの誤解は
肺炎≠肺炎球菌による肺炎≠侵襲性肺炎球菌感染症 (IPD; Invasive Pneumococcal Disease)
2種類のワクチンの存在があることから派生する



私は、ニューモバックスを肺炎ワクチンと言い換えることに躊躇を覚える

なぜなら、ThoraxのエディトリアルThorax 2006;61:183-184の記載のごとく
polysaccharide pneumococcal vaccinationの老人・高リスク患者への使用はまだcontroversialである。途上国ではHIVと関連しない症例ではある程度信頼性があるが、先進国での9つのランダム化研究では決定的なものはない。

肺炎球菌による敗血症に関しては50%程度の減少効果ということは一定した結果を得ているが、肺炎などの基礎疾患なしの敗血症に関して抑制効果・予防効果は不確定。肺炎そのものに関してはさらなる混乱状態である
というのが一般的なとらえ方だと思うからである。


以前から、肺炎球菌ワクチンによる肺炎アウトカム減少効果に否定的なものが多かった
代表例:NEJM Volume 348:1747-1755 May 1, 2003 Number 18

現在も、NIA(National Institute on Aging)スポンサーの老人へのPPV研究が行われているが、肺炎予防としての肺炎球菌ワクチンの意義は懐疑的な意見が多いのである。

ただ、スペインの報告2題Eur Respir J. 2005 Dec;26(6):1086-91.Clin Infect Dis. 2006 Oct 1;43(7):860-8. Epub 2006 Aug 21.)が若干気にあるところである。



添付文書(pdf)

【効能・効果】
投与対象:2 歳以上で肺炎球菌による重篤疾患に罹患する危険が高
い次のような個人及び患者
1. 脾摘患者における肺炎球菌による感染症の発症予防
2. 肺炎球菌による感染症の予防
であり、肺炎球菌による肺炎の予防とは微妙にかかれていない。

添付文書には
〈臨床効果〉
国内6施設で総計163例について実施された臨床試験の概要は次のとおりである。163名の成人に本剤を接種し、そのうちの30名を無作為に選び、23種類すべての莢膜型に対する接種前ならびに接種後の抗体価をRadio‐immunoassay法で測定
し、抗体値が接種後増加したとある。

決して“臨床的アウトカム”として評価されたものではないのである。



誤解しないように記載するが、私は肺炎球菌ワクチンを否定しているのではないし、昨今のインフルエンザ+肺炎球菌ワクチンの有益性の報告が続出していることにも注目しているし、IPDは非常に怖い病気であり、年に何例もその気になればみることとなる疾患であり、重視すべきだと思っている。ただ、正しい情報でワクチン接種がなされているか・・・という疑問を持つのである。





私は元々NHKがきらいだが、ためしてガッテンは健康情報番組としては民間に比べものにならないくらいレベルが高いと思う。一つは専門家として出演するゲストがまともで、民間の売名行為だけの低レベル医師&非医師医学博士やなんたら博士とは比較にならないからである。
ただ、n=4で臨床的な実験をすること自体・・・ありえないことなので、NHKは科学性のない実験を企画放送した“無知”さを反省してもらわなければならないのである。専門家が正しいことを言っているとは限らないし、アップデートされてない情報でしゃべる場合もある。説明を簡略化しすぎて誤解を与える場合もある。

放送の問題点は一方向性であること、それを補正するには、別のメディアであるインターネットによる批判・批評が重要と思う。メディア側がインターネットを嫌っている理由は、自由勝手にやってきたやり方が通用しなくなったから・・・NHKも例外じゃない

by internalmedicine | 2007-04-09 09:56 | 呼吸器系  

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