終末期医療の決定プロセスに関するガイドライン解説編
2007年 05月 28日
終末期医療の決定プロセスに関するガイドライン 厚生労働省 平成19年5月
1 終末期医療及びケアの在り方
① 医師等の医療従事者から適切な情報の提供と説明がなされ、それに基づいて患者が医療従事者と話し合いを行い、患者本人による決定を基本としたうえで、終末期医療を進めることが最も重要な原則である。
② 終末期医療における医療行為の開始・不開始、医療内容の変更、医療行為の中止等は、多専門職種の医療従事者から構成される医療・ケアチームによって、医学的妥当性と適切性を基に慎重に判断すべきである。
③ 医療・ケアチームにより可能な限り痺痛やその他の不快な症状を十分に緩和し、患者・家族の精神的・社会的な援助も含めた総合的な医療及びケアを行うことが必要である。
④ 生命を短縮させる意図をもつ積極的安楽死は、本ガイドラインでは対象としない。
2 終末期医療及びケアの方針の決定手続
終末期医療及びケアの方針決定は次によるものとする。
(1)患者の意思の確認ができる場合
① 専門的な医学的検討を踏まえたうえでインフォームド・コンセントに基づく患者の意思決定を基本とし、多専門職種の医療従事者から構成される医療・ケアチームとして行う。
② 治療方針の決定に際し、患者と医療従事者とが十分な話し合いを行い、患者が意思決定を行い、その合意内容を文書にまとめておくものとする。上記の場合は、時間の経過、病状の変化、医学的評価の変更に応じて、また患者の意思が変化するものであることに留意して、その都度説明し患者の意思の再確認を行うことが必要である。
③ このプロセスにおいて、患者が拒まない限り、決定内容を家族にも知らせることが望ましい.
(2)患者の意思の確認ができない場合
患者の意思確認ができない場合には、次のような手順により、医療・ケアチームの中で慎重な判断を行うl必要がある。
① 家族が患者の意思を推定できる場合には、その推定意思を尊重し、患者にとっての最善の治療方針をとることを基本とする。
② 家族が患者の意思を推定できない場合には、患者にとって何が最善であるかについて家族と十分に話し合い、患者にとっての最善の治療方針をとることを基本とする。
(諺家族がいない場合及び家族が判断を医療・・ケアチームに委ねる場合には、患者にとっての最善の治療方針をとることを基本とする。
(3)複数の専門家からなる委員会の設置
上記(1)及び(2)の場合において、治療方針の決定に際し、
・医療・ケアチームの中で病態等により医療内容の決定が困難な場合
・患者と医療従事者との話し合いの中で、妥当で適切な医療内容についての合意が得られない場合
・家族の中で意見がまとまらない場合や、医療従事者との話し合いの中で、妥当で適切な医療内容についての合意が得られない場合等については、複数の専門家からなる委員会を別途設置し、治療方針等についての検討及び助言を行うことが必要である。
終末期医療の決定プロセスのあり方に関する検討会 平成19年5月
【ガイドラインの趣旨】
終末期における治療の開始・不開始及び中止等の医療のあり方の問題は、従来から医
療現場で重要な課題となってきました。厚生労働省においでも、終末期医療のあり方に
ついては、昭和62年以来4回にわたって検討会を開催し、継続的に検討を重ねてきた
ところです。その中で行ってきた意識調査などにより、終末期医療に関する国民の意識
にも変化が見られることと、誰でもが迎える終末期とはいいながらその態様や患者を取
り巻く環境もさまざまなものがあることから、国が終末期医療の内容について一律の定
めを示すことが望ましいか否かについては慎重な態度がとられてきました。
しかしながら、終末期医療のあり方について、患者・医療従事者ともに広くコンセン
サスが得られる基本的な点について確認をし、それをガイドラインとして示すことが、
よりよき終末期医療の実現に督するとして、厚生労働省において、初めてガイドライン
が策定されました。.
本解説編は、厚生労働省において策定されたガイドラインを、より広く国民、患者及
び医療従事者に理解いただけるよう、「終末期医療の決定プロセスのあり方に関する検
討会」において議論された内容をとりまとめたものです。
国に対しては、本ガイドラインの普及を図るとともに、穏和ケアの充実など終末期を
迎える患者及び家族を支えるため、その体制整備に積極的に取り組むことを要望しま
す。
基本的な考え方は次の通りです。
1)このガイドラインは、終末期を迎えた患者及び家族と医師をはじめとする医療従事者が、最善の医療とケアを作り上げるプロセスを示すガイドラインです。
2)そのためには担当医ばかりでなく、看護師やソーシャルワーカーなどの、医療・ケアチームで患者及び家族を支える体制を作ることが必要です。このことはいうまでもありませんが、特に終末期医療において重要なことです。
3)終末期医療においては、できる限り早期から肉体的な苦痛等を緩和するためのケアが行われることが重要です。緩和が十分に行われた上で、医療行為の開始・不開始、医療内容の変更、医療行為の中止等については、最も重要な患者の意思を確認する必要があります。確認にあたっては、十分な情幸酎こ基づく決定であること(インフォームド・コンセント)が大切です。その内容については、.患者が拒まない限り、家族にも知らせることが望まれます。医療従事者とともに患者を支えるのは、通常、家族だからです。
4)患者の意思が明確でない場合には、家族の役割がいっそう重要になります。.この場合にも、家族が十分な情報を得たうえで、患者が何を望むか、患者にとって何が最善かを、医療・ケアチームとの間で話し合う必要があります。
5)患者、家族、医療・ケアチームが合意に至るなら、それはその患者にとって最もよい終末期医療だと考えられます。医療・ケアチームは、合意に基づく医療を実施しつつも、合意の根拠となった事実や状態の変化に応じて、柔軟な姿勢で終末期医療を継続すべきです。
6)患者、家族、医療・ケアチームの間で、合意に至らない場合には、複数の専門家からなる委員会を設置し、その助言によりケアのあり方を見直し、合意形成に努めることが必要です。
7)終末期医療の決定プロセスにおいては、患者、家族、医療・ケアチームの問での合意形成の積み重ねが重要です。
1 終末期医療及びケアの在り方
① 医師等の医療従事者から適切な情報の提供と説明がなされ、それに基づいて患者が医療従事者と話し合いを行い、患者本人による決定を基本としたうえで、終末期医療を進めることが最も重要な原則である。
*注1 よりよい終末期医療には、第一に十分な惜報と説明を得たうえでの患者の決定こそが重要です。ただし、②で述べるように、終末期医療としての医学的妥当性・適切性が確保される必要のあることは当然です。
② 終末期医療における医療行為の開始1不開始、医療内容の変更、医療行為の中止等は、多専門職踵の医療従事者から構成される医療・ケアチームによって、医学的妥当性と適切性を基に慎重に判断すべきである。
*注2 終末期には、がんの末期のように、予後が数日から長くとも2-3ヶ月と予測が出来る場合、慢性疾患の急性増感を繰り返し予後不良に陥る場合、脳血管疾患の後遺症や老衰など敬ヶ月から数年にかけ死を迎える場合があります。どのような状態が終末期かは、患者の状態を踏まえて、医療・ケアチームの適切かつ妥当な判断によるべき事柄です。また、チームを形成する時間のない緊急時には、生命の尊重を基本として、医師が医学的妥当性と適切性を基に判断するほかありませんが、その後、医療・ケアチームによって改めてそれ以後の適切な医療の検討がなされることになります。
*注3 医療・ケアチームとはどのようなものかは、医療機関の規模や人員によって変わり得るものですが、一般的には、担当医師と看護師及びそれ以外の医療従事者というのが底本形です。なお、後掲注6)にあるように、医療・ケアチームに、例えばソーシャルワーカーが加わる場合、ソーシャルワーカーは直接医療を提供するわけではありませんが、ここでは医療従事者に含みうる意味で用いています。
*注4 医療・ケアチームについては2つの懸念が想定されます。1つは、結局、強い医師の考えを追認するだけのものになるという懸念、もう1つは、逆に、責任の所在が曖昧になるという懸念です。しかし、前者に対しては、医療従事者の協力関係のあり方が変化し、医師以外の医療従事者がそれぞれの専門家として貢献することが認められるようになってきた現実をむしろ重視すること、後者に対しては、このガイドラインは、あくまでも終末期の患者に対し医療的見地から配慮するためのチーム形成を支援するためのものであり、それぞれが専門家としての責任を持って協力して支援する体制を作るためのものであることを理解してもらいたいと考えていますヨ 特に刑事責任や医療従事者間の法的責任のあり方などの法的側面については引き続き検討していく必要があります。
③ 医療・ケアチームにより可能な限り療病やその他の不快な症状を十分に緩和し、患者・家族の精神的・社会的な援助も含めた総合的な医療及びケアを行うことが必要である。
*注5 緩和ケアの重要性に鑑み、2007年2月、厚生労働省は緩和ケアのための麻薬等の使用を従来よりも認める措置を行いました。
*往6 人が終末期を迎える際には、嗜痛緩和ばかりでなく、他の種類の精神的・社会的問題も発生します。可能であれば、医療・ケアチームには、ソーシャルワーカーなど社会的な側面に配慮する人が参加することが望まれます。
④ 生命を短縮させる意図をもつ積極的安楽死は、本ガイドラインでは対象としない。
*注7 疾患に伴う耐え難い苦痛は緩和ケアによって解決すべき課題です。積極的安楽死は判例その他で、きわめて限られた条件下で認めうる場合があるとされています。しかし、その前提には耐え難い肉体的苦痛が要件とされており、本ガイドラインでは、肉体的苦痛を緩和するケアの重要性を強調し、医療的な見地からは緩和ケアをいっそう充実させることが何よりも必要であるという立場をとっています。そのため、積極的安楽死とは何か、それが適法となる要件は何かという問題を、このガイドラインで明確にすることを目的としていません。
2 終末期医療及びケアの方針の決定手続
終末期医療及びケアの方針決定は次によるものとする。
日)患者の意思の確認ができる場合
① 専門的な医学的検討を踏まえたうえでインフォームド1コ∥ンセントに基づく患者の意思決定を基本とし、多専門聴種の医療従事者から構成される医療・ケアチームとして行う。
② 治療方針の決定に際し、患者と医療従事者とが十分な話し合いを行い、患者が意思決定を行い、その合意内容を文書にまとめておくものとする。上記の場合は、時間の経過、病状の変化、医学的評価の変更に応じて、また患者の意思が変化するものであることに留意して、その都度説明し患者の意思の再確認を行うことが必要である。
③ このプロセスにおいて、患者が拒まない限り、決定内容を家族にも知らせることが望ましい。
*注8 合意内容を文書にまとめるにあたっては、医療従事者からの押しつけにならないように配慮し、患者の意思が十分に反映された内容を文書として残しておくことが大切です。
*注9 よりよき終末期医療の実現のためには、まず患者の意思が確認できる場合には患者の決定を基本とすべきこと、その際には十分な情報と説明が必要なこと、それが医療・ケアチームによる医学的妥当性・適切性の判断と一致したものであることが望ましく、そのためのプロセスを経ること、さらにそれを繰り返し行うことが重要だと考えられます。
(2)患者の意思の確認ができない場合
患者の意思確認ができない場合には、次のような手順により、医療・ケアチームの中で慎重な判断を行う必要がある。
① 家族が患者の意思を推定できる場合には、その推定意思を尊重し、患者にとっての最善の治療方針をとることを基本とする。
② 家族が患者の意思を推定できない場合には、患者にとって何が最善であるかについて家族と十分に話し合い、患者にとっての最善の治療方針をとることを基本とする。
③ 家族がいない場合及び家族が判断を医療・ケアチームに重ねる場合には、患者にとっての最善の治療方針をとることを基本とする。
*注10.家族とは、患者が信頼を寄せ、終末期の患者を支える存在であるという趣旨ですから、法的な意味での親族間榛のみを意味せず、より広い範囲の人を含みます にのガイドラインの他の箇所で使われている意味も同様です)。
*江11 患者の意思決定が確認できない場合には家族の役割がいっそう重要になります一D
その場合にも、患者が何を望むかを基本とし、それがどうしてもわからない場合に
は、患者の最善の利益が何であるかについて、家族と医療・ケアチームが十分に話
し合い、合意を形成することが必要です。
*注12 家族がいない場合及び家族が判断せず、決定を医療・ケアチームに重ねる場合には、医療・ケアチームが医療の妥当性・適切性を判断して、その患者にとって最善の医療を実施する必要があります。なお家族が判断を委ねる場合にも、その決定内容を説明し十分に理解してもらうよう努める必要があります。
(3)複数の専門家からなる委員会の設置
上記(1)及び(2)の場合において、治療方針の決定に際し、
・医療・ケアチームの中で病態等により医療内容の決定が困難な場合
・患者と医療従事者との話し合いの中で、妥当で適切な医療内容についての合意が得られない場合
・家族の中で意見がまとまらない場合や、医療従事者との話し合いの中で、妥当で適切な医療内容についての合意が得られない場合等については㍉線数の専門家からなる委員会を別途設置し、治療方針等についての検討及び助言を行うことが必要である。
*注13 別途設置される委員会は、あくまでも、患者、家族、医療・ケアチームの間で、よき終末期医療のためのプロセスを経ても合意に至らない場合、例外的に必要とされるものです。そこでの検討・助言を経て、あらためて患者、家族、医療・ケアチームにおいて、ケア方法などを改善することを通じて、合意形成に至る努力をすることが必要です。
by internalmedicine | 2007-05-28 20:49 | 医療一般