早期積極的治療法がむち打ち症の回復を遅らせる
2007年 05月 29日
"Early Aggressive Care and Delayed Recovery From Whiplash: Isolated Finding or Reproducible Result?"
Côté P et al. Arthritis Care & Research 2007
カナダ・Saskatchewan州のコホート研究で積極的なむちうち治療は結局回復を遅らせるという報告。同じ著者の報告があったが、異なる医療保険スキーム・独立した対象でおこなったもの。
一般医に2回以下受診するのと、カイロプラクティスケアを含めた6回以上受診を比較したもの
1693のカルテ・医療保険記録(1994年7月~1994年12月31日)
以下のグループで検討
* 家庭医に2回以下受診
* 家庭医に2回超受診
* カイロプラクティス1-6回
* カイロプラクティス6回超
* 1度でも家庭医受診+1-6回のカイロプラクティスケア
* 1度でも家庭医受診+6回超のカイロプラクティスケア
* 家庭医の回数を問わず、専門医受診回数を問わず
* 一般の医療群 -- 家庭医受診回数とわず、むちうちと診断されていない
プライマリアウトカムは回復までの期間で、保険申し出開始から終了までの期間と定義
* カイロプラクティスケア利用1-6回の患者:回復までの中央値 375 日
* GPと専門医受診した患者P:405 日
* 家庭医受診6回以下+カイロプラクティスへ移った患者: 516 日
* 家庭医受診2回以上の患者: 517 日
* 家庭医受診回数を問わず、カイロプラクティスケア併用患者:689
むち打ちの予後は、ケアの種類や強度により影響されるという仮説を支持している。
医療に過度に依存する“passive coping strategy"が、むち打ちのいわゆるdisabilityを強化してしまう事となるのであるという考え方も発生する。
逆に、最小限のケアが急激な回復を促すのだという考えも出てくるだろうと説明もできる。
むちうち≠ 低髄液圧症候群(脳脊髄液減少症)と思うのだが・・(2005年 05月 17日)
“passive coping strategy"としてブラッドパッチが働いた可能性はないのだろうか?
マスコミがこのブラッドパッチを過大宣伝してしまい、結局、患者の回復を遅らせていることにはならないのだろうか?
以下、本田(青森)先生のメールから引用(H21.1.8)
脳脊髄液減少症について:青森県臨床整形外科医会
http://www.orth.or.jp/aomori/osirase/2008/csf.html
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青森県臨床整形外科医会(2008年12月)
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「整形外科」は、交通事故や「けが」をされた患者さんの医療を担当してい
ますが、「脳脊髄液減少症」について、青森県臨床整形外科医会としての見解
をまとめました。
整形外科医として、「けが」によって様々な症状で苦しんでいる患者さんに、
今後も引き続き、より良い医療を提供していきたいと考えています。
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1)脳脊髄液減少症の、「診断」及び「治療方法」は、いまだ「研究段階」です。
a)「けが」の後におこる「脳脊髄液減少症」は、医学的にまだ不明な点が多く
あります。「けが」と傷ついた場所の関係、それによってどのような症状が起る
のかなど、今後早急にメカニズムや病態が、解明されることを期待しています。
b)「脳脊髄液減少症」については、日本整形外科学会はじめ専門学会が、研究に
取り組んでいます。
青森県臨床整形外科医会としても、日常診療の中で研究活動を継続していき
ます。
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2)治療方法は各種あります。
a)「脳脊髄液減少症」の治療として、お薬、点滴、リハビリなどの一般的な
治療(保険適応)は、「整形外科」であれば、どこの保険医療機関でも受け
られます。
b)「ブラッドパッチ治療」は、保険がきかない「自由診療」となります(保険
適応外)。 「自由診療」を、行わない医療機関もありますので、担当医師と
よくご相談ください。また、各種治療の「治療成績」や「金銭的負担」等の
「利害得失」を、十分ご理解のうえ、治療法を選択してください。
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ブラッドバッチ治療のまめ知識
1)整形外科専門医であれば、手技的には問題なく行えますが、ブラッド
バッチ治療の治療成績は、必ずしも安定していません。
2)ブラッドバッチ治療は、「自由診療」です。
同じ傷病名で、同じ期間に「自由診療」と「保険診療」の治療を行うことは、
禁止されています。これを「混合診療の禁止」といいます。よって、治療期間
中に、「同一医療機関内」で、「ブラットバッチ治療」だけを、「自由診療」
にし、「点滴等の他の治療」を、「同時に保険診療」にすることはできません。
「診断を含めて、ブラッドパッチ治療前後の全ての治療(入院料も含む)」が
自由診療となります。その金額は、診療内容と、医療機関により異りますので、
あらかじめ各医療機関で十分に、ご確認ください。
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県のホームページでの脳脊髄液減少症の治療可能施設の公開について
青森県臨床整形外科医会 会長 原子健
2008年12月22日
青森県臨床整形外科医会理事会は以下の如く決議しました。
アンケート結果は公開すべきではないと思われます。
患者救済のためとはいえ、県の公的なHP等で、脳脊髄液減少症という診断
基準も確立していない疾患でかつ、自由診療を推奨するのは如何なものか、
いたずらに社会的混乱をます可能性が高い。あきらかに時期尚早と思われます。
1)内容が厚労省の「医療広告ガイドライン」の基準を見たしていない。
厚労省の医療広告ガイドラインによれば、「自由診療等の明記及び標準的な
費用を併記する場合に限って広告が可能であること。」とされていますので
公開基準を満たしていないと思われます。
a)自由診療であること
b)標準的な費用の明記;各医療機関で異るということはあくまで個別が原則
2)脳脊髄液減少症は未だ病態や診断基準が確立されていない疾病である。
裁判事例でも現在の所、認定に対しては消極的判例が多い
・診断が難しく、特殊な検査、侵襲を伴う検査が必要といわれている。
RI脳槽・脊髄液腔シンチグラフィーができる施設は限定される。
・画像診断での異常はその他の疾患、健常者でも見られることがある。
・画像診断と臨床症状が必ずしも一致しない。
MRIで髄液の漏出を証明することは少ないのではないか?
(GLで参考所見;今まで経験なし)
・治療としてのブラッドパッチの有効性についてはエビデンスがない。
・ブラッドパッチの合併症、失敗例も集計される必要がある。
・ブラッドパッチで問題が起った時、医師賠償責任保険で対応ができるか?
(美容整形は対象外)
3)皆保険制度を守る観点からは、自由診療は推奨すべきではない。
・健康保険との併用は認められていないので全額自費になる(混合診療問題)。
かつ高額である。
・交通事故で第三者行為の届けを出して健康保険で診療することはできない。
・交通事故の場合は、加害者、損害保険会社との関係で医療費の支払いに問題
が生じることがある。
損保会社が未払いの時には医療機関は患者さんに請求できるのか?
・労災も認められていない。
4)社会的混乱を招く
・少数の医療機関に患者さんが集中しても、医療機関として地域のニーズに
こたえられるのか?
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参考文献
○「医業若しくは歯科医業又は病院若しくは診療所に関して広告し得る
事項等及び広告適正化のための指導等に関する指針(医療広告ガイドライン)」
の改定について
(平成20年4月1日)
(医政発第0401040号)
(各都道府県知事あて厚生労働省医政局長通知)
http://www.mhlw.go.jp/topics/bukyoku/isei/kokokukisei/index.html
by internalmedicine | 2007-05-29 13:54 | 運動系