マラリア
2007年 05月 30日
USではマラリアは撲滅されたはずだが、世界レベルではトップの感染症である。
USでは年1200名のマラリア症発症があり、13名が死亡している。
アメリカの臨床家や検査技師などマラリアになれてないことや薬剤耐性パターンが診断の遅れにつながる可能性がある。結果として好ましくないアウトカムにつながる。
US内のマラリア診断・治療の臨床的推奨を医師に提供している
(CDC マラリア:http://www.cdc.gov/malaria/)
Treatment of Malaria in the United States A Systematic Review
JAMA. 2007;297:2264-2277.
(http://jama.ama-assn.org/cgi/content/full/297/20/2264/JCR70004F1)
熱帯病治療薬研究班解説から(pdf):マラリアは、メスのハマダラカが刺咬することで生じる原虫性疾患であり、熱帯熱マラリア(原虫はPlasmodium falciparum)、三日熱マラリア(P.vivax)、卵形マラリア(P. ovale)、四日熱マラリア(P. malariae)の4種類がある。
ヒト体内に侵入する時の原虫ステージはスポロゾイトであるが、それは速やかに肝臓に取り込まれる(一次肝臓内ステージ)。しばらくして肝細胞内で数千個に分裂し、分裂小体が血中に放出されて赤血球に侵入する。赤血球内では輪状体(未熟栄養体)、栄養体(成熟栄養体)、分裂体と推移し、分裂体を有する赤血球が破裂すると分裂小体が放出され、新しい赤血球に侵入してこのサイクルを繰り返す(赤血球内サイクル)。マラリアの種々の症状はこの赤血球内サイクルにより生じる。この他に三日熱マラリア(P.vivax)>と卵形マラリア(P. ovale)では、肝細胞に潜伏する休眠原虫(ヒプノゾイト)が形成され、1~数ヶ月、場合により1年以上経ってから再発を生じる。以上はすべて無性原虫であるが、赤血球内サイクルをしばらく繰り返すと、有性原虫である生殖母体が形成されることがあり、重症マラリアあるいは原虫数が多い場合にみられることが多い。これはヒト体内では無害であるが、蚊の体内で合体・受精さらに分裂・増殖するので、流行地では感染源として重要である。
熱帯熱マラリア(原虫はPlasmodium falciparum)では短時間で重症化や死亡の危険があり(重症マラリア)、緊急対応が求められる。重症マラリアの合併症のひとつである脳症は、感染赤血球が脳の細小血管に閉塞する(sequestration)ためと考えられるが、機序の詳細は明らかでない。また、他の臓器・系統の合併症の機序については、脳症ほどには解明されていない。
マラリアはアフリカ、中東、アジア、オセアニア、中南米に広く分布する。サハラ以南アフリカでは熱帯熱マラリア(原虫はPlasmodium falciparum)が殆どであり、ときに卵形マラリア(P. ovale)もみられ、中東と中米では三日熱マラリア(P.vivax)が殆どを占め、アジア、オセアニア、南米では熱帯熱マラリア(原虫はPlasmodium falciparum)と三日熱マラリア(P.vivax)の両者があるが、旅行者がかかるのは三日熱マラリア(P.vivax)が多い。
Manifestations of Severe Malaria
Prostration:消耗
Impaired consciousness/coma:意識障害・昏睡
Respiratory distress (acidotic breathing):呼吸困難(酸性血症の呼吸)
Multiple convulsions:多発痙攣
Circulatory shock:循環器系ショック
Pulmonary edema:肺水腫
Acute respiratory distress syndrome:ARDS
Abnormal bleeding:腹部出血
Jaundice:黄疸
Severe anemia:重症貧血
Acute renal failure:急性腎不全
Disseminated intravascular coagulation:DIC
Acidosis:アシドーシス
Hemoglobinuria:ヘモグロビン尿症
Parasitemia >5%:寄生虫血症>5%
(http://jama.ama-assn.org/cgi/content/full/297/20/2264/JCR70004F2)
治療:http://jama.ama-assn.org/cgi/content/full/297/20/2264/JCR70004T1
クロロキン耐性種のない地域の熱帯熱マラリア(原虫はPlasmodium falciparum))の治療にはクロロキンが治療選択として残る。そして、抵抗性のあるエリアでは、atovaquoneとproguanilあるいはquinine+tetracycline or doxycycline or clindamycin併用が最良の治療選択である。
atovaquone-proguanilが最良であるインドネシアやパプアニューギニアの三日熱マラリア(P.vivax)をのぞいて、クロロキンはほかのマラリア種では他のすべてのマラリア種の治療法として残る。mefloquine or quinine+tetracycline or doxycyclineが代替的に用いられる。
キニジンは最近、USにおいて重症マラリアの治療として推奨されたが、代替薬がまだ利用できないからである。
重症マラリアは無性増殖マラリア血症を有する患者や他に確定できない症状で、1つ以上の指定された臨床所見・検査所見を有する場合に生じている。
重症マラリアの補助的なものとして、血漿交換が推奨されている。
【結論】マラリアはUSの臨床科にとって診断・治療両面の難問のままで、マラリア淫侵地域への旅行やそこからの移住者数が増加しているためである。
適切な治療を迅速に行い、死亡率・合併症を最小限にする強いエビデンスが存在する。
寄生虫症薬物治療の手引き —2007—(pdf)(p7-)
治療方針
熱帯熱マラリアは緊急対応を要する疾患であり、初診時に重症マラリアでなくても、短時間で重症化することを念頭におく必要がある。また末梢血原虫数は少なくても、脳などの細小血管には感染赤血球が多数sequestrationしていることがあり、軽視してはならない。通常、合併症がなくて原虫数が少なければ(10万/μL 以下)経口薬を用い、重症マラリアあるいは原虫数が多い場合(10万/μL 以上)には注射薬を選択する。後者の場合、最近では流行地においてアーテミシニン(チンハオス)系薬の坐薬の評価も高まっている。抗マラリア薬の選択に当たっては感染地域での薬剤耐性を考慮するが、タイ・ミャンマーあるいはタイ・カンボジア国境地域ではメフロキン耐性が多いので、同薬剤を避ける。また、重症マラリアでは抗マラリア薬療法以外に、病態に応じた適切な支持療法が必要である。それらは酸血症/代謝性アシドーシスの治療を含む水・電解質・酸塩基平衡の管理、輸血療法、機械的人工呼吸法を含む呼吸管理、血液浄化法などであるが、最近、欧米では重症度に応じて交換輸血が行われている。なお、脳症の場合に脳圧低下のためのステロイド薬、DICを想定してのヘパリンの投与は禁忌とされている。
他の3種のマラリアでは殆どの場合、急性期治療薬としてクロロキンが用いられる。ただし、三日熱マラリア(P.vivax)ではクロロキン耐性が出現しつつある。三日熱マラリア(P.vivax)と卵形マラリアでは急性期治療の終了後、再発の元となる休眠原虫を殺滅するため、特殊な抗マラリア薬であるプリマキンを用いる。ただし、プリマキン抵抗性の三日熱マラリア(P.vivax)が出現しており、そのためプリマキン総投与量を増量する傾向にある。
治療開始後には治療経過の判定を正確に行なう必要があるが、特に三日熱マラリア(P.vivax)では最低限1日1回、重症度が高ければ1日数回血液塗抹標本を作成し、原虫数を算定するのみならず、原虫の形態を観察して薬剤の効果を頻繁に判断する。
なお、クロロキン、キニーネ、メフロキン、プリマキンについては、塩としての表記と塩基としての表記があり、混乱しがちであるが、キニーネ経口薬を除いて塩基として表記するのが一般的である。
国内での薬剤入手について
・ヒューマンサイエンス振興財団・政策創薬総合研究事業 熱帯病治療薬研究班
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国内で販売されている抗マラリア薬はキニーネ経口薬、ファンシダール、メファキン「エスエス」の3種類のみであるが、他の抗マラリア薬は「熱帯病治療薬研究班(略称)」(筆者は班員、http://www.ims.u-tokyo.ac.jp/didai/orphan)が保管している。(http://idsc.nih.go.jp/idwr/kansen/k05/k05_04/k05_04.html)
寄生虫学用語集 第二版
http://jsp.tm.nagasaki-u.ac.jp/~parasite/akao2/yogo2.txt
by internalmedicine | 2007-05-30 07:10 | 感染症