糖尿病老人の筋肉量・筋力低下は激しい

糖尿病の運動指導というのは、カロリー消費や肥満防止・減量に注目が集まるが、高齢者疾患の一つであり、いわゆるdisuse、“ねたきり”や身体障害などの問題を具有することとなる。
社会的にもインパクトのあるのが筋力低下であり、米国ではそういう観点から国家的な取り組みがなされている。

一方日本では、何でもよいから歩け歩け、メタボになるな、デブになるな!の科学性を微塵も感じないカエルの大合唱状態!


住民ベースの運動指導、介護保険下の予防介護など、基礎疾患を有する場合には注意が必要である。糖尿病患者などで無症候性の心筋虚血や活動性のあるたんぱく尿・網膜症などリスクアセスメントされているのか?・・・非常に心配なことがある。
病院での糖尿病生活指導の一環としての運動指導ではやはり一度リスクアセスメントがなされたうえでこういった指導は行われるべきなのだろうが、ガイドラインとしては・・・
フランスのガイドライン:PAD、たんぱく尿、高CVDリスク、65歳以上
ACC/AHA(1997):トレッドミルは推奨IIb(エビデンス確立していない)で、試験前リスクの高い対象者のみ対象
ADA/ACC(1998):PAD、脳血管疾患、安静時ECGのmajor・minor変化のあるもの、CVDリスク2以上のもの
などとばらばらであり、それぞれの推奨に関してもゴールにもばらつきがある。


糖尿病の運動指導というのは実にしんどい問題があるのだが、2型糖尿病と下肢筋力低下というのは大きなトピックであることは間違いないようである




Health, Aging, and Body Composition (Health ABC) 研究から
Measurements in the Health ABC Study(pdf

糖尿病患者は身体障害となるリスクが2-3倍であることが知られているが、その原因は不明である。糖尿病に合併する慢性疾患、冠動脈疾患、末梢動脈疾患(PAD)、視力障害、うつなどがその原因として推定されるが、この身体不自由の40%超過リスクについては原因不明である。
筋量でなく、下肢筋力は、老人男女において身体機能悪化と関連している。中年時の筋力はその後25年の機能障害や身体障害の予後因子である。しかし、糖尿病患者に限っての住民ベースの研究というのはなされていなかった。糖尿病患者では肥満が多く、脂肪量とともに総脂肪量も多くなり、みかけの筋量増加になるなどのミスリード因子が存在する。
今回の研究は実質の筋肉量を評価したもので、注目される研究である。

Accelerated Loss of Skeletal Muscle Strength in Older Adults With Type 2 Diabetes
The Health, Aging, and Body Composition Study
Diabetes Care 30:1507-1512, 2007
【序文】1,2型糖尿病はより骨格筋筋力低下が非糖尿病対象者より少ない。
筋量と筋力の縦軸方向の研究
【方法】1840名の70-79歳
部分筋肉量をdual energy X-ray absorptiometryでそくてい、筋力をisokinetic や isometric dynamometersで測定
【結果】2型糖尿病老人患者は糖尿病を持たない老人に比べて下肢筋肉量の減少 (–0.29 ± 0.03 vs. –0.23 ± 0.01 kg, P < 0.05)、筋力減少が大きい (–16.5 ± 1.2 vs. –12.4 ± 0.5 Nm, P = 0.001) 下肢筋力の質を、筋量単位あたりの最大筋力:Newton・メーター/Kgとして表現すると、糖尿病老人では–16.5 ± 1.2 vs. 非糖尿病老人–12.4 ± 0.5 Nmであった(P=0.001)
腕の筋力と筋肉の質は 糖尿病ありとなしで差がない。
下肢筋力と質の急激な衰退は、補正因子、人口動態指標、体組成、身体活動性、合併慢性疾患、IL-6やTNF-α補正後も有意差有り




Decreased Muscle Strength and Quality in Older Adults With Type 2 Diabetes: The Health, Aging, and Body Composition Study
Diabetes. 2006;55(6):1813-1818.

・男女間の差があるがもともと筋肉の量に差があることで説明可能
糖尿病罹病期間と重症度と筋肉の機能低下に線形関係があること
コントロール不良状態での糖尿病は筋肉たんぱくのbreakdownやエネルギー利用効率などの問題が生じているのだろう

・ニューロパチーの関与
糖尿病患者では筋肉type IIb線維の委縮が認められている。マウスモデル(Muscle Nerve. 2003 Oct;28(4):493-500.)では、EC uncouplingの問題を指摘


白:糖尿病なし、斜線:糖尿病り患6年以下、黒:糖尿病り患6年超


白:糖尿病なし、斜線:HbA1c<8%、黒:HbA1c≧8%

by internalmedicine | 2007-06-01 09:55 | 運動系  

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