マラソンの低ナトリウム血症はarginine vasopressin(AVP)不適合症候群 で説明できる



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NEJM誌(N. Eng. J. med. Volume 352:1550-1556 April 14, 2005 Number 15)では、“マラソン後、28歳の女性が死亡している。低ナトリウム血症の頻度は不明である。それは医学的関心が低く、情報が限られていたという。水分過剰摂取が低ナトリウム血症の主な原因と信じられてきたが、これは主に疲弊したマラソンランナーやエリート・アスリートのデータであった。しかし、他のリスク要因が示唆されており、水分内容や、比較的BMIが低いこと、レース時間が長いこと、マラソンの経験が少ないこと、NSAIDs使用や女性であることなどが増悪因子と上げられている”と記載されている。

本文では水分補給の種類内容より量の影響が大きく、体重減少の影響が大きいということが強調されている。

この低ナトリウム血症の病態、arginine vasopressin(AVP)の関与を強く示唆するという話



Hyponatremia in Marathon Runners due to Inappropriate Arginine Vasopressin Secretion
The American Journal of Medicine Volume 120, Issue 5, May 2007, Pages 461.e11-461.e17
運動誘発性低ナトリウム血症(Exercise-associated hyponatremia:EAH)は、Na+135 mmol/L未満で、低浸透圧性の脳症で、致命的脳浮腫進展するもの
抗利尿作用が病的機序の理解が確立すれば、予防治療戦略に役立つ可能性がある。

正常のナトリウム血症ランナー(n=33)はIL-6が、1.6 ± 0.5 pg/mL → 66.6 ± 11.9 pg/mLと40倍増加
CK、コルチゾール、プロラクチンと有意に相関
arginine vasopressinとは有意でなかった。

疲弊したEAHランナー(n=22)では、平均BUN<15>0.5 pg/mlを伴う

2名の致命的マラソンランナーは最大の希釈不能尿(>100 mmol/kg/H2O)で、尿中Na>25 mEq/Lであった。

故に、EAHの症例は、SIADHの診断クライテリアをいたす必要がある。低浸透圧性脳症のランナーは3%生食で治療し、副作用無く改善の見込みがある。
筋肉由来のIL-6はarginine vasopressinの非浸透圧分泌に関係して、EAHの病態に横紋筋融解の病態がリンクすることと関連すると考える。





遠距離走においては個別化した水分補給が必要( A USA TRACK & FIELD Advisory:pdf)とされているようである。
それと、体重減少の程度が増加するほど、低Na血症を生じやすく、-2Kg以上の減少で低ナトリウム血症の比率はかなり多くなる。・・・マラソンでは途中でランナーの体重測定などを行い、水分補給などのレクチャーをうけさせるなど主催者側の配慮が今後必要になるのではないだろうか?

バゾプレシン拮抗薬トルバプタンがこの治療に役立つかは不明だが・・・どうだろう?

by internalmedicine | 2007-06-12 16:11 | 医療一般  

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