“EBM漢方” 感想文

EBM漢方 なる本を購入致しました。

前提として、「証」、漢方的診察法の診断技術面のEBM的解析が必要(観察者間のκ分析や感度・特異度など・・・)なのだが、治療に関するものだけに限られた記述。
EBMにもとづく処方となづけるなら、必須項目なのでがぬけおちていることが非常に残念。


あらためて漢方研究の特徴を感じました。
────────────────────────────
・ランダム化試験がかなり少なく、症例検討研究が多すぎる。
・95%CIの表記無しばかり、あっても95%CIがかさなるのに有意差有りと表記があるなど、統計学的に頚をひねる記載が多い。
・統計学的有意差だけでよいはずなのに、改善例が多かったなど、漢方に主観的に肩入れする項目が多すぎる。
────────────────────────────

全体的には、ランダム化試験が少ないため、出版バイアスなどの評価自体もできない(Funnel plotなどの検討)。これでは確たるガイドラインなど不可能ではないか?

漢方医療のRCTの特異的問題点を自分なりに一部羅列してみると
──────────────────────────────────
・通常のRCT手法に制限有り
n-of-one trial(ランダム化交差臨床トライアルの1亜型で、慢性疾患の個々にランダムな連続的な流れでランダム化介入を行い、二重盲験で個々の患者を観察する)
 具体例(ニコチンパッチとプラセボを二重盲験方法二週間後と三回用いる。
 使用方法には注意を

・sham placebo:鍼灸などのようなときにツボなどを考慮しない無為なやり方()や、漢方のような独特の味覚を伴うものを似せて偽薬とする場合


・“Faith healing”(信頼関係に基づく、一部信仰的な関係に基づく治癒促進効果)

・“主観的改善”:外傷や急性期疾患後の痛みなどは主観的症状の周期があり、また、次第に減弱するのが普通であり、この場合の最も重要な要因は“治験期間”となっている場合がある。さらにこまったことに漢方の病態の流動的変化、「証」の変化が前提であり、長期間の“治験期間”は漢方医療そのものと矛盾を含むものである。
──────────────────────────────────
となります。


全体的には、良質のエビデンスとは、複数のランダム化試験が前提のメタ・アナリシスやシステム・レビューなのだが、この本には全く存在しない。“可能における質の高いエビデンスはいまだ十分に揃っていない”のではなく、存在しないのである。


ただ、臨床上参考になる薬剤が散見されました。

一部まとめてみました。

【かぜ症候群に対する小柴胡湯の効果:二重盲験ランダム化比較試験(DB-RCT)】
(臨床と研究 78(12):2252-2268 ,2001)
五日以上経過した感冒患者(咳を有し、口内不快、食欲不振、倦怠感いづれかを含むもの):実薬群113例、プラセボ104例
・全般改善度:有意差(p=0.001)、痰の量、痰の切れ、頭痛の改善
・症状改善度:咽頭痛、倦怠感(投与3-4日後)、痰の切れ、食欲、関節痛・筋肉痛の改善
・有用度(有用以上の改善)が優れる
※5日以上経過したのを感冒と称することに疑念を感じることと、小柴胡湯の重篤な副作用に間質性肺炎有り間質性肺炎の症状は遷延化咳嗽もありえるので注意が必要。胸部レントゲン写真など直ぐに考慮必要

【初期のかぜ症候群に対する麻黄附子細辛湯の効果:総合感冒薬との比較(RCT)】
(日本東洋医学雑誌 47(2):245-252, 1996)
214例、麻黄附子細辛湯83例、総合感冒薬88例
・中等度改善以上での比較では前者81.9%、後者60.3%
・全般改善度でも前者が優
・発熱持続日数 前者1.5±0.7日、後者2.8±1.5日有意差有りと記載?(95%CIなら有意差無いはず?)
・全身倦怠感、咽頭痛・違和感、咳痰が有意に短縮

【かぜ症候群に対する麦門冬湯の効果:臭化水素酸デキストロメトルファンとのRCT】
(日本東洋医学雑誌 51(4) 725-732,2001)
二週間以上の咳嗽患者(かぜ症候群後、非喫煙者)
13例の麦門冬湯、12例の臭化水素酸デキストロメトルファン
・服薬2日目麦門冬湯の方が改善、3・6・7日目は臭化水素酸デキストロメトルファン群の方が改善
※即効性はあるが、持続性はおちる?

【術後単純性イレウスに対する大建中湯の効果(RCT)】(久保信博ら イレウスに対する大建中湯の効果 - 他施設による検討 Prog. Med., 15(9) 1962-1967, 1995)
投与群18例、非投与群一二例で
・腹痛、悪心・嘔吐:術後5日まで改善
。排ガスまでの期間、排便開始日、経口摂取開始日、X線像、全身倦怠感、手術療法施行率:差異無し
・全般改善度など有意差無し

【便秘症に対する常用量・低用量の大黄甘草湯の効果:プラセボとのランダム化試験】
(消化器科 18:299-312,1994)
26施設、146例(常用量47例、低用量49例、プラセボ50例)
・最終全般改善度、安全性、有用性に関して有意差無し
・有効性(効き過ぎ、著効、有効の比率)に関して有意差有り

【インターフェロン療法後C型慢性肝炎に対する小柴胡湯の効果:肝庇護剤とのランダム化比較試験(RCT)】(臨床と研究 76(5):1008-1015,1999)
99例(小柴胡湯49例、肝庇護剤群50例)
・AST低値、ALT低値、ChE高値、HCV-RNA低下、IV型コラーゲン・PIIIP低下:肝庇護剤と比較して低下
※胸脇苦満のあるC型慢性肝炎治療(虚実の区別をしっかりととのこと)
小柴胡湯と間質性肺炎についてを熟読すること!

【肝硬変に伴う腓腹筋痙攣に対する芍薬甘草湯の効果:RCT】(臨床医薬 15(3):499-523,1999)
単施設? 126例対象、実薬52例、対象49例
実薬(芍薬甘草湯エキス7.5g/日) プラセボ(7.5g/日←記載ほんと)
・筋痙攣回数改善度は優れていた

※芍薬甘草湯と牛車腎気丸(ごしゃじんきがん)とのRCT比較(痛みと漢方:10:13-17,2000)で改善以上の改善率 前者40.5%、後者 60.5%と牛車腎気丸が優れていると判明

【肝硬変から肝癌以降に対する小柴胡湯の効果:非併用群とのランダム化試験(RCT)】
Cancer 76(6):743-749, 1995
肝硬変患者260例(小柴胡湯群 130例、対照群130例)
5年間観察期間、対象は肝庇護剤継続
・小柴胡湯群24%、対照群38%の累積肝癌発生率(p<0.05)
・生存率小柴胡湯75%、対照群61%

【肝硬変から肝癌移行に対する十全大補湯の効果:疲弊用群とのRCT】
(Pharmacology 5:29-33 2000)
肝硬変(C型、B型肝炎ウィルス)72例、十全大補湯 36例、対照 36例
観察期間6年
・累積生存率有意差無し
・肝癌発生率有意差有り(p<0.05)

【閉塞性黄疸に対する茵チン蒿湯の効果:ドレナージ群とのRCT】
(日本臨床外科学会誌 59(10):2495-2500 1998)
茵チン蒿湯11例とドレナージ群13例:4週間
・全般改善度できわめて有用80%、有用20%
・総ビリルビン、直接ビリルビン低値

by internalmedicine | 2004-07-04 10:32 | 医学  

<< SARSワクチン 頭をつかうスポーツは頭が悪くな... >>