肥満てそんなに悪いのか?

肥満がすべて悪いのだろうか? Obesity Paradoxなる存在が議論され始めている。


Obesity paradox in patients with hypertension and coronary artery disease. Am J Med 2007 120:863-70
Uretsky S, Messerli FH, Bangalore S et al.
Obestiy paradox(BMIが増加すると合併症・死亡率が減少する)を冠動脈疾患を有する22576名の高血圧治療患者で検討。22576名の内、2.2%がやせで、20.0%が正常体重、39.9%が過体重、24.6%がclass Iの肥満、13.2%がclass II~IIIの肥満
正常体重の患者を参照とし、全原因死亡、非致死的心筋梗塞、非致死的卒中の初回発症を検討し、過体重、class I~IIIの肥満でその発症が少ないことが判明し、やせ患者がよりリスクが高かった。
この結果は、血圧減少が最も少ないclass I肥満でさえ見られるものであり、BMIは必ずしも特定の高リスク患者においては合併症・死亡率を意味するものではない。


肥満すべてが悪いのか改めて考え直す必要があろう。

肥満に関してだが、日本は今、“メタボリック・シンドローム”により揺れている。この疾患概念に関してほど議論のある“症候群”はすくないし、そもそも診断クライテリア構成するはずの、国際的に標準化された方法論が無いのである。肥満、インスリン抵抗性に関わる役割の議論、この症候群はいつ、どのようにして治療すべきかがこの“症候群”に呵々ある議論としてつきまとう問題である

参照:NEJM:書評 https://content.nejm.org/cgi/reprint/357/1/98.pdf

介護保険導入やパワーリハビリテーション騒動と同様、国の施策は、慎重な医学上の議論を割愛し、医療費削減を金科玉条とし、その科学的エビデンスを無視した強引な導入が相次いでいる。メタボ検診に関し、その概念のあいまいさ、批判の多さが国際的議論になっているにもかかわらず、一部学者の意見を利用し、強引な導入がなされようとしている。

メタボ検診が進めば、就職時に肥満者を除外するという動きも当然出てくる。社会的な差別というのも当然今後問題になるだろう。

そもそも、メタボリックシンドロームというのは、旗振り学会である日本動脈硬化学会(動脈硬化性疾患予防ガイドライン 2007年版)でさえエビデンスレベル“B”(http://intmed.exblog.jp/5584036/)というスタンスなのである。それをまるで確立した概念かのごとく国の施策は暴走そのものである。

エビデンスがまだ不確定であり、臨床的推定としてはまだ未熟(BMJ 2006;332:878-882 (15 April))であり、メタボリックシンドロームってのが必ずしもその定義をすべての専門家が肯定
しているわけではない<MayoClinic.com:http://www.mayoclinic.com/health/metabolic%
20syndrome/DS00522
>。

行政が医学の議論や国民の意見を無視し、強引にその施策を進める。その背後には関連業種の利権が見え隠れする。パブリックコメントなどは形だけであり、その批判に対してはほとんど聞く耳をもたない役人ども。いつか破綻するであろうこのメタボ検診に対して彼らは責任をとることはないだろう。行政の失敗の加害者は常に不在なのである。メタボ検診推奨している人たち(役人・学者)の名前を良く覚えておくことくらいが彼らへの責任追及の唯一の手段か?

by internalmedicine | 2007-10-16 08:27 | 動脈硬化/循環器  

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