高齢患者の術後認知機能障害リスク増加:POCD(Postoperative Cognitive Dysfunction)

60歳以上の手術患者は長期術後認知機能障害のリスクを増加させる

Anesthesiology1月号に掲載

Type and Severity of Cognitive Decline in Older Adults after Noncardiac Surgery.
Anesthesiology. 108(1):8-17, January 2008.

Predictors of Cognitive Dysfunction after Major Noncardiac Surgery.
Anesthesiology. 108(1):18-30, January 2008.
退院時、POCDは若年者(18~39歳)で117名(36.6%)、中年(40~59歳)で112名(30.4%)、高齢者(60歳以上)138(41.4%)
全年齢群で有意差があり、年齢をマッチさせた対照群でも有意差があった (P < 0.001)
術後3ヶ月にて、POCDは若年者で16(5.7%)、中年で19(5.6%)、高齢者で39(12.7%)この時点で、認知障害の頻度は年齢マッチさせた対照と若年・中年患者では同様。しかし、老人群では有意に高いままであった (P < 0.001)。
3ヶ月めのPOCD独立したリスク要因は年齢が高いこと、教育レベルが低いこと、残存障害のない以前の脳血管アクシデントの既往である。退院時POCD患者では3ヶ月後の死亡率が高い(P = 0.02)。退院時と術後3ヶ月でもPOCD状態の患者は術後1年内に死亡する率が高い (P = 0.02).




Editorial View:Taking the Lead in Research into Postoperative Cognitive Dysfunction.
Anesthesiology:Volume 108(1)January 2008pp 1-2 (フルテキスト)

Dr. Monk らは手術・麻酔の認知機能の術後短期、中期的検討を行った(International Study Group on Postoperative Cognitive Dysfunction (ISPOCD))。
このISPOCD結果を用いて、リスク要因を検討し、年齢、教育レベルといった以前から指摘されていたものであった。興味あることに卒中既往有症状患者ではPOCD頻度の高いことが示され、POCDの生命予後との包括的重要性が新しい知見加えられたのである。他のエビデンスとも合わせ考えると、リスク要因に関して、POCD発症のmillieuに認知機能予備能の減少が考えられるかもしれないのである。


Sternは認知機能予備能の受動的・活動的モデルを参照し、脳のサイズ and/or シナプスの数増加としてその予備能を考えた。
脳障害を生じる認知機能低下は神経経路により補正される。・・・このシナプス豊富な場合はインテリジェンスや教育的達成レベルが障害への脳の機能の抵抗性を推測するだろうという理論につながる。逆に言えば、以前の卒中のは悪化要因として明らかになったわけだ。POCDのリスクとして加齢も当然あるわけで、構造的・形態的な変化を生じることと関係ある。すなわち加齢とともに脳の重量・容積減少し、記憶能力と関係する海馬あたりを含む細胞成分、髄鞘線維の減少がみられる。細胞以下のレベルの変化ではシナプス密度の減少、脳の微小血管のrarefication(疎密性)、障害核内DNADを伴う神経の排除システムを含むNA修復系への影響を認める。産科ストレスが加齢関連神経変性の原因として引用されることが多い。加齢脳において、up-regulationのマーカーである前炎症性表現型として、IL6やCRPは、老人研究における認知機能減少と相関することが判明している。



高齢者の術後認知機能低下(POCD)は加齢過程の間に、急性悪化として開始されるのだろうか?もしそうなら、手術・麻酔は加齢関係認知機能低下メカニズムを加速するのだろうか?
非神経学的、非心臓手術後、脳に炎症が生じることがCSF内の前炎症性サイトカイン値が増加することで示されている。Buvanendranらは、股関節置換術にて、術後、CSF中のIL-6、PG E2のup-regulationの関連を示した。他にもoff pump CABG術中、術後にCSF中のIL6の濃度増加が観察されている。加えて、腹部、整形外科に関する動物モデル研究で、海馬組織の炎症が術後見られることが示されている。この脳の領域の炎症性変化は学習・記憶、認知機能に関する部位である。しかし、POCD臨床前・臨床的研究の所見にて、炎症性マーカーが関与していることはまだ示されてない。また、神経炎症が手術、麻酔、他の患者要因と病的に関連していることはまだ示されていない。これらの要因に関してそれらしい議論がなされているが、まだそのメカニズムに関しては十分な検討が必要



Monkらは、手術後認知障害には多くのタイプが存在することを示した。
注意属性(executive function)を評価する試験と、記憶認知属性を評価する試験を分離した。Executive tasks (e.g., the Wisconsin Card Sorting Test) は、白質線維からなる前脳皮質領域の活動性を調査したもの。こういった試験に成功するのは中年・高齢者では正常の機能である。完遂不能ならPOCD患者の構造の機能的もしくは構造的な異常をしめすものということになる。
著者らの言う、記憶属性の障害は、海馬、内側嗅領、視床下部、基底核前脳領域の障害を意味することとなる。
それぞれの認知属性はそれぞれ異なる脳の領域に関わるので、よくある病態メカニズムとして考えられることとなる。別々なメカニズムより同時に共通な病的メカニズム、たとえば炎症などが生じることと説明されるだろう。個別間や部位でも異なる程度の術後認知機能低下は、認知機能予備脳の部位特異的な変動と考えられる。



認知障害のある患者を除外させ、年齢をマッチさせ、疾患マッチさせない対照検討で、厳格でない麻酔プロトコールなどもマッチさせない、研究限界のある検討ながら、Monkらは、認知低下は1年でみてその低下具合は顕著であった。しかしながらこの研究結果は驚くべきものではなく、非手術施設で認知機能や死亡率の相関で以前から示されていた結果からも推測されるものであった。

by internalmedicine | 2007-12-28 10:25 | 精神・認知  

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