慢性頚部痛の運動療法:全般的なフィットネスは無効、特異的筋肉強化が予防・治療に有効

頚部痛といっても多くの疾患から生じる。ひどい例では髄膜炎なども頚部痛だし・・・まあその範疇は広い。
たとえば、1)muscle strain(筋挫傷)、2)関節炎、3)椎間板疾患、4)外傷に分かれると記載もある。(参考:MayoClinic.ocm





ただ、一般診療において現実的に多いのは仕事関連の頚部痛、とくに"trapezius myalgia”(Acta Orthop Scand. 1988 Oct;59(5):552-6.)である

成人の半数以上が頚部痛のエピソードを有し女性では男性より持続性であることが多い。
特に、コンピューターを用いた仕事は頚部症状と関係することが多く、より特異的で、僧帽筋下行部分の痛みを伴うことが多く、この“trapezius myalgia”(僧帽筋筋肉痛)と称せられる。

この疾患では、"筋生検の結果、筋肉痛群では、有意にtype IIA線維が増加し、毛細血管床の増加と肥厚が見られる。筋肉痛群ではcytochrome c oxidase欠損線維が対照群に比べ増加しており、損傷・修復機転に影響を与えている”というのが一つの病因と考えられている。

当然一つの治療戦略として、血流増加を増加させこの損傷修復機転を改善させてあげようというのはまぁ考えとしては当然なのかもしれない。マッサージや低周波治療などもその一環である。もう一つの考えは、筋肉の脆弱性が主因となる考え、もしくは予備能を改善することで、再発を防ぐという考えで、筋力の増強が根本治療に近いはずである。ところが、実際には、せいぜい「肩こり体操」のパンフを渡して指導終了ということが多いのではないだろうか?

職業的な慢性頚部痛を訴える女性は頚部関連筋肉の特異的強化トレーニングで改善するという報告。一般的なフィットネストレーニングも疼痛軽減するが、それより筋肉特異的強化トレーニングがより効果的ではないかという仮説の証明

"僧帽筋筋肉痛”に対して疼痛のある筋肉に対して高負荷動的強化トレーニングを週3回20分間推奨すると著者らは述べている。

"Effect of two contrasting types of physical exercise on chronic neck muscle pain"
Arthritis Care Res 2008; 59: 84-91.

48名の僧帽筋筋肉痛と臨床的に診断された慢性疼痛女性を2つのタイプの運動に分け比較。

7つの異なる職場環境にあり、82%がコンピューター関係、79%が1日の仕事の75%を超えるキーボードを用いる仕事である。

ランダムに介入
・特異的な筋力強化
・一般的なフィットネストレーニング
・運動トレーニングを行わず健康カウンセリングのみ


2つの運動群に割り付けられた群では、強化トレーニング20分、週3回、10週間施行

一般的なフィットネストレーニングは、エクサーサイズ・バイク乗りからなるものである。
特異的強化トレーニングとしては5つのダンベル運動で、頚部や肩の筋肉強化を目的としたものである。トレーニング負荷は次第に増加していくこととする。

プライマリアウトカム測定は頚部筋肉痛の急性変化の程度と期間を、100-mm VAS(visual analog scale)で評価したもの

特異的強化トレーニング割り当て群は平均的に最大疼痛VASスコアでは平均35mm減少(~79%, P<0.001 versus baseline) 、一般疼痛VASでは20-mm減少した。
18名の患者の内、17名は最大疼痛VASトレーニングセッションにつき1.03 mm減少、一般疼痛はトレーニングセッション毎0.58 mm減少した。

一般フィットネストレー人では最大疼痛スコアは5-mmのみ減少で、一般疼痛スコアも6-mm改(P<0.05 versus baseline)で、臨床的には意義が明らかでないレベルであった。

一般フィットネスでは、疼痛スコアの初期完全は研究最終まで継続することないが、特異的強化トレーニングを受けた患者では疼痛減少は介入期間だけでなく、介入後も効果が持続した。


対照群割り当て群では疼痛改善無し

特異的強化群の疼痛スコアの改善は肩挙上・外転に関連した筋力強化と関連している (P<0.001)
一般的フィットネスも対照群も筋肉強化の改善をもたらさなかった。


一般的フィットネストレーニング割り当て群は好気的フィットネス改善は10週後有意であった(P<0.001)が、他の2つは改善せず。

ただ、今回の研究は小規模のサンプルサイズで、特に非運動トレーニング群が少なかったことが問題であり、非特異的頚部痛に対抗して僧帽筋筋肉痛の患者のみを対象としたことが研究の限界であろう。




こういう運動指導の時には、腱炎・関節リウマチ・滑液包炎などの関節周囲の疾患鑑別など必ず医療機関を受診して評価を受けてほしいものである。



Ref.)芸術のなかの“痛み” 連載3 およねの肩凝り

by internalmedicine | 2008-01-05 09:07 | 運動系  

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