閉経後女性へのカルシウムサプリメントは血管イベント増加させる

カルシウムに関して、つねにそれをとれば万々歳で、体にすべて良いなんていうサプリメント屋さんの宣伝文句をみかける。

果たしてそうだろうか?

カルシウムサプリメントは血中カルシウム値を増加させ、血管のカルシウム化を増加させる可能性が示唆され、高カルシウム摂取はMRIにおける脳病変増加や透析患者の死亡率増加などとも関連があるデータなどもある。カルシウムの脂質へのHDL/LDL好効果に注目が集まっていたが、血管イベントへの潜在的なリスク要因もあったのである。

現実にはカルシウム摂取だけの要因でなく、かかるホルモン作用も問題になるだろうから、ことはそう簡単ではないだろうが、カルシウム不足が万病の原因なんてふざけた宣伝だけはこれで終焉をむかえてほしい。


序文では、カルシウムの好影響のみが注目されていた経緯が書かれている。
カルシウム摂取自体は血管疾患への予防的作用のエビデンスがある。カルシウムサプリメントはHDL/LDLを約20%増加すること(Am J Med 2002;112:343-7.)が示されている。これは、ヒト・動物の研究で、カルシウムに関係するホルモンの直接的影響も考慮されるが、カルシウムが脂肪・胆汁酸と消化管内で結合する、脂肪の吸収阻害作用から生じているのだろう。この程度の影響だと20%-30%ほど心血管イベントを減らすこととなるだろうと想定される。それと、さほどその降圧効果は顕著なものではないが、カルシウムサプリメントの血圧減少効果が示唆される。カルシウム増加と心血管疾患は逆相関する観察研究でもこのことが示唆されていた。たとえばIowa women’s health study(Am J Epidemiol 1999;149:151-61.)では、カルシウム摂取(食事・サプリメント)の最大4分位と最小4分位比較では1/3の心血管イベント死亡率の減少が示された。
Boston nurses health study(Stroke 1999;30:1772-9.) では、カルシウム摂取最大5分位では最小5分位にくらべて0.69(95%信頼区間 0.50-0.95)であった。

UKの研究(Lancet 1973;ii:1465-7.)ではカルシウム摂取と虚血性心疾患標準化死亡率の強い逆相関が見られた。カルシウムを多く含む地域で、心血管イベントの減少が見られた。カルシウムリッチな水道地域では心血管イベントが少ない( J Clin Nutr 1978;31:1188-97)。

閉経後女性の心血管疾患の発生頻度は増加するので、骨疾患と同様、合併症・死亡率への影響は大きい。カルシウムサプリメントの心血管イベントや死亡を主眼としたランダム化対照トライアルはなされていないが、women's health initative studyの平均年齢62歳での二次解析で一定した結論が見いだせなかった。この研究のデータの解釈は骨密度、骨折への一定した影響がしめされず、薬剤アドヘレンスが悪く、エストロジェンなどの使用率が高いなど解釈に困難を極めたものである。


著者らの平均74歳女性に対するカルシウムサプリメントの5年間の研究(Am J Med 2006;119:777-85)による骨塩の減少抑制と代謝回転の減少報告が、今回の研究データの大元である。そのデータを用いての血管へのベネフィット研究

Vascular events in healthy older women receiving calcium supplementation: randomised controlled trial
BMJ, doi:10.1136/bmj.39440.525752.BE (published 15 January 2008)


【目的】 健康閉経後女性に於る、カルシウムサプリメントの心筋梗塞、卒中、突然死への影響

【デザイン】 Randomised, placebo controlled trial.

【Setting 】Academic medical centre in an urban setting in New Zealand.

【Participants】 1471名の閉経後女性(平均年齢 74歳)をランダムに分ける
・カルシウムサプリメント 732名
・プラセボ 739名

【Main outcome measures】 副作用心血管イベント(死亡、突然死、心筋梗塞、狭心症、一過性虚血発作)、心筋梗塞・卒中・突然死の構成的エンドポイント:5年間

【結果】 心筋梗塞がプラセボ群に比べてカルシウム群で多い(31名の女性45 イベント v 14名女性19イベント, P=0.01)
心筋梗塞、卒中、突然死の構成エンドポイントではカルシウム群でやはり多い (69名の女性101イベント v 42名の女性54のイベント, P=0.008)

補正後も心筋梗塞はカルシウム群で多い(21名女性24イベント v 10名女性10イベント、相対リスク 2.12、95%信頼区間 1.01ー4.47)

構成的エンドポイントに対してカルシウム群では51名女性61イベントで、プラセボ群で35名女性36イベント(相対リスク 1.47 0.97-2.23)

ニュージーランドの入院データベースから報告されていないイベントを加えると、心筋梗塞の相対リスクは1.49(0.86-2.57)で、構成的エンドポイントは1.21(0.84-1.74)

後顧的 rate ratioは1.67(95%信頼区間 0.98-2.87)と1.43(1.01-2.04)で、イベント比率はプラセボ16.3/1000人年とカルシウム23.3/1000人年であった。

卒中(未報告を含めた)に対し、相対的リスクは1.37(0.83-2.28)で rate ratioは1.45(0.88-2.49)


【結論】 健康閉経後女性のカルシウムサプリメントは心血管イベント率増加と相関
この潜在的悪影響はカルシウムの骨へのベネフィットとバランスで考えなければならない。


一定したHDL/LDL比改善効果は示されるものの、健康閉経後女性においてカルシウムが心血管イベント発生を減少するかも知れないというエビデンスはなかった。
カルシウムサプリメント割り付け群の補正血管イベントの有意な増加という事実は、30-60ヶ月においてその研究のコンプライアンスの高さからも注目されるべきもので、血管ダメージを生じる初期潜伏期間とともにイベント率が増加することも、その危険性に説得力をもたすものである。

今後は、閉経後女性へのカルシウムサプリメントは、血管イベントと骨塩に関わるイベントとのカウンターバランスの存在をもって推奨されることとなるだろう。

カルシウム+ビタミンD研究(Lancet 2005;365:1621-8.)でもカルシウム割り当て群で死亡率の高さが報告されていた(18.5% v 16.3%)。Princeらの1460名の閉経後女性(平均年齢75歳)の炭酸カルシウムのランダム研究(Arch Intern Med 2000)でも同様であった。
詳細報告として数少ないが、虚血性心疾患ハザード比としては1.12 (95% 信頼区間 0.77 - 1.64)という数字が以前示されていた。



by internalmedicine | 2008-01-18 09:56 | Quack  

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