心血管疾患の年齢という要因

年齢が一番の卒中・心血管疾患の要因であり・・・といわれ、そこで空虚な気持ちになる時がある。ひょっとしたら医療はほとんどなにもしてないのではないかと・・・

”コレステロールを下げても癌を増やすだけ”とか・・・雑音が聞こえると、当初、正当な考えだった医者たちも、懐疑的になる可能性がある。

そういったことを払拭するためにもまともな解説記事を読む必要があるのかもしれない。


さすがに、これらの動脈硬化疾患を説明するのに、直線的時間経過になぞられることは少なくなった。しかし、疫学的な検討では時間的要因を直線的に検討することがあるようだ。

心血管疾患に関して検討したものを斜め読み・・・

Age as a modifiable risk factor for cardiovascular disease
The Lancet DOI:10.1016/S0140-6736(08)60313-X


C index(Stat Med 2004; 23:2109-23.)
C統計:the properties of the overall C index introduced by Harrell as a natural extension of the ROC curve area to survival analysis.


・C統計(C Statistic)でのリスク要因の矛盾
C統計はリスクマーカーの診断正確性を計算。通常のハザードやリスク比推定より受け入れられている。CRPのような新しいリスク要因を検討されている。
Framingham Heart Studyのアップデート解析で新しいバイオマーカーである、フィブリノーゲン、CRPに関して、通常の心血管リスクの予測パワーに対してわずかにその意義を加えるのみであったとC統計で判断された。

Wangら(N Engl J Med 2006; 355: 2631-2639.)は、年齢・性では死亡に関して0.75というC統計。全ての通常のリスク要因修正で0.800。

Cookら(Ann Intern Med 2006; 145: 21-29.)もFramingham Studyの女性で同様解析し、年齢単独ではC統計0.731であるが、LDLコレステロール治療を加えると0.746というもの
年齢+収縮期血圧+喫煙は、0.791となり、血圧と喫煙は年齢追加リスク要因としてはやはりmarginalであることとなる。LDLを追加することもさらに0.796で無視しうることとなる。


こういった分析だと、年齢・性別意外の古典的なリスク要因が臨床的にはさほど影響を与えないこととなり、高血圧・脂質異常症があまり重要でないなどということは今までの議論する余地のないベネフィットに関わるエビデンスと一致しない。

年齢の影響をよりクリアに理解することがこのパラドックスを説くこととなるだろう

動脈硬化性の脂質異常のような要因は正常からのずれの程度と暴露期間により影響される。
高LDLが低LDLよりリスクを有するかのごとく、30年以上の濃度暴露が3年程度と同様となることがこの鍵である。通常の解析では、小血管内の生物学的加齢変化と"disintegration of tissues over time"の補正されない影響と、催動脈硬化性脂質異常のようなリスク要因の時間的暴露の乗数との関係が区別できないのである。


年齢で層別化すると、動脈硬化原性脂質異常の生物学的血管疾患への影響を明らかにすることができる。 Interheart studyで9つの修正リスク要因で90%の寄与リスクを計算できた。
アポリポ蛋白B(apoB)/アポリポ蛋白A-I(apoA-i)比は、血管内のproatherogenic と antiatherogenicのバランスを示すし、これは総リスクの半数を説明しうるものである。さらにAmoris studyではapoB/apoA-I比の最高vs最低は16年で2群において80%まで修正しうる因子であるということを示唆した。

こうなれば、こういった動脈硬化原性リポ蛋白は単なる血管疾患のリスク要因ではなくなる。高血圧や喫煙状況と同様直接血管疾患を生じているのである。いつでも臨床的イベントを生じているわけではないが、原因である。もしそれらが存在し、顕著な状況なら、それらの副事象を重く受け止めて統計的な計算で、臨床的な有用性を失うべきでない。一方、CRP、フィブリノーゲンなどはリスクマーカーである。C統計のみを根拠にしてリスク推定をする研究を断念することは非合理的である。
ガイドラインが動脈硬化原性脂質異常のような原因寄与を過小評価する別の理由は、予測する期間が一般的に限定されているからである。60年の間に、発展途上国では心血管頻度が劇的に増加し、死亡原因の少なくとも40%ほどまでなっている。

心血管イベントが比率が少ない中年住民での多くの疫学研究であり、比較的短期間ゆえ、その後増加するはずの期間を含まないものである。もし観察期間を延ばせば、心血管出死亡する総数、臨床的イベントを有する総数はより増加するだろう・・・



冠動脈疾患の自然史は3つ幕の悲劇からなるそうだ・・・
第1幕)動脈原性脂質異常症、高血圧、喫煙といった、悲劇が出現する時期
第2幕)10年単位で経過して、これらの悪役たちが執拗に無実の動脈壁を破壊されるまで執拗に攻撃する時期
第3幕)短い一幕ですむ:プラークの破裂、動脈血栓症が生じ、ヒーロー・ヒロインたちは死に、血管内で共演しているドラマは気づかないほど非常に多い状態となる


そもそもこういった段階をふむ、リスク→動脈硬化→イベントという過程を直線的に考えることには無理があるのだろう。


C統計関連:
nih.gov Interactive Textbook
バイナリアウトカムに対して、cは”area under the receiver operating characteristic (ROC) curve” (Hanley and McNeil, 1982)。Cは、0.0~1.0。具体例を以下に示す (Steyerberg et al., 2001).






それどころか、時間的要因だけでなく他の要因も無視して判断している場合がある・・・
笑い話:「喫煙人口は減ってるのに、癌、動脈硬化疾患は増えている・・・」

by internalmedicine | 2008-03-04 11:43 | 動脈硬化/循環器

 

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